戦闘ということを聞かない体
キンという音が数度鳴り響き、互いに剣を一旦下げる。
「へぇ、王女様っていうことだから、こういうのは苦手だと思ってたけど、そうじゃないみたいだな」
「こういうのというのは斬り合いのことを言っているのですか?」
「ああ、そうだよ。
兵士の楽しみっていうやつだ。
だからもっと楽しませてくれよ」
「そういう戦闘狂みたいな人と戦うのは嫌いなんですけどね」
そしてまた構え直して剣を振る。
縦斬りを当てあって、つばぜり合いをしてお互いに睨みあう。
すると相手がニヤリと笑うのを感じて踏み込んでいた右足から捻るようにして右側に倒れながら相手が行ってきた左足での足払いを避ける。
回転からのするりと立ち上がり、剣を真上に振り上げる。
そしてこちらに振りおろそうとしていた相手の剣を弾いた。
すぐにバックステップをして距離を数歩だけとり、また前に駆ける。
剣を地面につけてキンという音がするのを感じながらその剣をただ振り上げるのではなくて、上に突くようにして振るう。
相手は驚いたような顔をするがすぐにそれに対応するために下から上に剣を斬り上げてこちらの剣を弾く。
「く……」
ホントに強い。
ニヤニヤと笑うその男はまだまだ楽しみたいとばかりの表情をしている。
でも僕は楽しみたいからこの戦いをしているわけじゃない。
そう、実はその男が最初に座っていたところに縄で縛って座らされている少女がいるのだ。
あの子を助けるために来たのに、このままではラチがあかない。
しょうがない、こうなったらイチかバチかのやり方で相手を無効化するしかない。
だけどその時だった、体がガクガクと震えだしたのは……
何が起こった?
自分でそう思うが、体が思ったよりも重い。
もしかして長くログインをしすぎたせいで状態異常を起こしたの?
そう思って自分の目線の上辺りを見るがそこには状態異常の表示などは一切なかった。
どういうこと?
そう思っていると前に立っていた男がこちらをつまらなそうに見ているのがわかった。
「なんだ?
急に怯えた表情になって?」
「そんな、ことない……」
だからそう言われて必死に言い返したけれど、体は震えるばかりだった。
それを見た男は興が削がれたように剣を鞘に戻すと震えているこちらに近寄ってきて鞘に収まった剣で殴られる。
僕はそのまま防御もできずに吹っ飛んだ。
何が起こっているのかわからなくて僕はただ震えるだけの体に、なんでと言い聞かせていた。