新しい仲間を②
降りてきたのを確認した僕はそちらを向いて、グッと気合を込めた。
よしちゃんと挨拶するぞー。
そう心に決めて僕は
「お、おはようございにゃす」
と噛みつつもなんとか挨拶をした。
そして噛んだことで赤くなった顔を隠すようにして軽くお辞儀をする。
き、緊張して噛むとかどんなテンプレ挨拶だよ。
本当に恥ずか死ぬー……
そんなことを思っていると
「おはよー」
「おはようございます」
と二人から挨拶を返してもらえた。
それが嬉しくてガバっと顔を起こすとすぐ近くまで来ていたシズエが少し驚いたような表情を見せてから
「隣いいー?」
と聞いてくるので僕は何度もコクコクと頷いた。
シズエはゆっくりと隣に座るのを僕は見ながらもエリンは奥の部屋に消えて行った。
そしてシズエはそのままの勢いで僕と同じものをと注文すると香りでコーヒーだと判断したのか砂糖石を一つ入れた。
この砂糖石というのは甘い石のことで、木から生えるものらしい。
形はリアル角砂糖のような感じだ。
そ、そんなことを考えるよりもこの飲み物が本当は紅茶だっていうことを教えないといけないよね。
じゃないともしかすると吹いちゃうかもしれないね……
よしそうなったらここはちゃんと声かけよう。
そう思って横を向く。
「あ、あの……」
そして話そうとしてそう口にしたとき、シズエはその飲み物を飲みながらもこちらに振り向いた。
そして惨劇は起こった。
一口飲んだシズエは、味が思いもよらないものだったのだろう……
「ぶ……」
盛大に僕に向かって飲み物をぶっかけた。
顔から盛大に浴びた僕は目に入りそうなその液体を手でゆっくりと擦った。
「うぅ……もっとはやく言っておけば……」
そんな言葉が喉をついて小さくでて、状況を少し見ていたシズエはその言葉で我に返ると僕の顔を持っていた特殊なハンカチのようなアイテムで拭ってくれた。
それを目を閉じて耐えた。
それは決して目に液体が入るからそれを阻止するために目を閉じるという意味ではなくて、そのシズエの主に胸が視界に入らないようにするためだ。
今更ながらにシズエのことをあげると、それなりの短髪のショートヘアでクリクリとした目をしていて身長は僕よりも少し大きいくらいのたぶんボクが一六〇ジャストなのでそれより少し高い一六〇前半くらいと思う。
そんな感じだけれどシズエは圧倒的にその胸に栄養を取られているのではないかと思うくらい大きくて、戦闘に邪魔にならないのかななんてことを考えてしまっていた。
そう変なことを考えて煩悩を頭から排除して拭き終わるのを待っていた。
そして拭き終わると、シズエと途中からその状況に気づいて慌てて拭くものを持ってきていた店主が僕の前で謝るという事態になった。
ちなみに店主は土下座で奥さんに軽く足蹴にされていた。
シズエの方は、平謝りを繰り返している。
本当によくわからないことになってきた……
そう思っていると、二階からトコトコとレイラさんが降りてきて立ち止まって不思議そうにこちらを見ている。
そりゃそうかこの状況はなんとも言えないしね……
とりあえずこの状況をなんとかしないとね。
「あの、もう大丈夫ですから、二人とも謝りすぎですよ」
「ほら、マヤさんがそう言ったことだしこっちは行きますよあなた」
店主の人は奥さんにそう言われてお店の奥に連れて行かれて逆にエリンが外に出てきた。
そしてシズエはというと、本当に申し訳ないような表情で
「本当にごめんなさい。
何かやってほしいこととかあるかな?
もしできるならそれ叶えるから……」
と言われたので僕は少し思考のうちに思いついたことを言う。
「それなら、ボクとパーティー一緒しませんか?」
「そんなことでいいの?」
「うん、ダメですか?」
「いいよー。
そんなことでいいのならー」
笑顔でそう言うシズエにホッと思ったのも束の間、近くにいたエリンがこちらに歩いてきてシズエを僕から離れさせて言う。
「無理です。
だって私とあなたたちではそもそも強さが違います。
そんな人たちが仲間に加わったところで私たちの邪魔にしかなりません。
なので無理です」
「そ、それはそうですね、すみません……」
それはそうだ。
エリンとシズエはたぶん既にこのゲーム開始からプレイしているプレイヤーたちなのだろう。
だからこそ、初心者のような言動で昨日出会ったプレイヤーなど普通は仲間に入れたところで意味はない。
それには納得したので引き下がろうとしたときだった。
「そんなことはありません。
あなたなんて弱いです……」
そう言って一歩レイラさんが前に出た。
そしてその後は話しの元凶であった僕とシズエをおいて話しは進んでいって……
「じゃ、私とあなたで勝負ということでいいですか?」
「ええ、私はマヤ様が貶されたのを挽回できればそれでいいですから」
という感じで二人での決闘の流れとなった。
そして街の外れ……
今回は昼間とあってかそれなりに人数が目ざとく集まってきた。
「そ、それでは始めますねー」
シズエがそう言って決闘用にと大きめのボールをポイっと投げる。
そしてそれが地面についた瞬間に二人が動いた。
二刀流の小太刀にて突っ込むレイラさんと、それを片手剣のブロードソード風にて相対するエリンという構図だ。
そうしてエリンは縦切りを繰り出すのをレイラさんが小太刀の重ねで防いで弾く。
弾かれたエリンはそのままバックするとその勢いをいかして下からすくい上げるようにして斬りつける。
それを近づいていたレイラさんが右手の小太刀で受け流し、左手で横斬りを振るうが、それはエリンが足を落として回転するようにして腰を落とすことによりかわす。
「すごくいい戦いですね……」
それを見ながらそう言葉にする。
軽やかに二激の連携攻撃で行うレイラさんと軽やかに連続攻撃を振るうエリン。
対照的な感じではあるけれど、どちらも綺麗な連撃を繰り出すのを見ていてすごいなと思うけれど、それと同じようになんだか争っているところが残念のようにも思える。
これが共闘で使えたらと思うのは僕のわがままなのだろうか?
そう考えたところで近くに来ていたシズエが口を開く。
「本当にあの二人の連撃って綺麗だねー。
あたしは剣が大剣だし、ああいう連撃が綺麗にできないからねー……
ああいうの見ると羨ましいし、一緒に戦ったら綺麗だろうなって思う」
「そうですね」
「それにこれ。決着つくのかなー?」
「どうでしょうか……?」
そうこの戦いも僕とレイラさんがやったときのように一撃を当てれば終了の戦いなのだけれど二人とも多彩な攻撃にてそれがなかなか決まる気配がない。
うーん……
どうしようかな?
そう考えているとシズエがエリンの表情を見ながらやれやれという顔になって
「あたしが止めるよエリンを。
本当に楽しそうに剣振るってから認めてると思うけどねー」
そう言うが、僕は自分の中でドクンと心臓が高鳴るのを感じながら左手でシズエが前に行こうとしているのを止めて、スッと腰を低く構えると地面を蹴った。
突然の乱入者に傍観していた野次馬が驚く中で僕は剣を抜きながら、その剣を収めていた鞘を剣から抜けないように絶妙にコントロールしながらその鞘でエリンが振り下ろそうとしていた縦斬りを剣の先に鞘が伸びるのを計算して突きで当てることでずらして、次にもう一方からきていたレイラさんの上段クロス斬りを鞘伸びる横斬りにて受け止めてから驚いている両方に足払いをした。
「「わぅっ……」」
声を揃えてそう言葉にして二人とも尻餅をついたところで二人に少しのダメージが入ってたぶん画面にはドローという文字が流れているだろうと思う。
よってこの決闘は乱入者である僕の一人勝ちのようなものになったが、先程の鞘を使った剣技に驚いて誰も口を開かなかった……
その中で僕はただ二人に笑いかけると
「これで仲間ってことでいいですか?」
としれっと言った。
するとエリンはコクリと頷いた。