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ガールズバンドはじめました  作者: やなぎ のき
9/24

第9話 女三人寄ればなんとやら

 メンバーに会わないよう由貴は柚子の家へと入り、柚子指導の着替えと化粧、カツラをセットする。そうしてからスタジオへと向かいメンバー内でミーティングをし、個人練習、全体練習を行い、またミーティングをする。そんな毎日を繰り返していた。


「由貴ってやっぱり歌上手いよね、カラオケとかだと人気者じゃない?」

「どうかな……でも勝手にリクエストされたりするかも」


 雛鳥と他愛もないことを話しながら、由貴はこの数日間を振り返った。

 本格的な機材の揃ったスタジオでの演奏。

 カラオケとは違った歌う爽快感。

 異性の壁がありつつも、音楽を通して交流を深めてきた仲間たち。

 由貴は確かに充実していた。


(その代償のように、女言葉と仕草が上手くなってきた自分が悲しい)


「どうかしましたか?」


 若干気分が落ち込んだ由貴に、春奈が声をかけた。


「大丈夫」


 それに笑って返すと、


「そろそろ一曲通しでやりましょうか!」


 柚子の声がかかる。

 由貴たちは各々の楽器を手にし、柚子の合図で演奏を開始した。

 流れるようなメロディに、由貴の声が重なる。

 少女にしては低く、少年にしては高い独特なキーで、歌う。


(やっぱりこの歌、好きだな)


 歌いながら、由貴は頬が緩むのを感じた。



 今、練習しているのは『なずしらゆさ』である柚子が、脚光を浴びる切欠となった提供曲。

 音楽業界に初めて『なずしらゆさ』の名前が出た、柚子のデビュー曲とも言うべきものだ。この曲を歌うアイドルも有名ではあるが、由貴はそちらに興味は出なかった。ただ、純粋に『なずしらゆさ』の曲に心を惹かれ、好きになったのだ。

 それから何枚か出たCDはすべて揃えたが、最初の頃に比べて曲に惹かれなくなったと由貴は感じていた。良い曲ではあるのに、物足りない。どこか首を傾げるような、言葉に出来ない不満感が確かにあった。

 始めは聞きなれてしまったから、物足りなくなったのかと由貴は思っていた。

 だが、由貴は偶然にも『なずしらゆさ』本人を知ってしまう。

 正確には更科柚子という一人の少女のことを。

 彼女の音楽にかける情熱は本物だと、由貴はこの数日で確信している。それなのに、最近の曲が物足りないのは何故だろうと疑問に思うが、柚子本人に確認することはなかった。

 柚子が何を求めているのか、バンドを結成しようとした理由も由貴はなにも知らない。それは他のメンバーたちも同様で、柚子は自分の目的については明らかにしていなかった。

 それでもバンドへ打ち込む姿は本物だから、メンバーたちは柚子に何も聞かず着いて行く。


(いつか、話してくれるといいんだけど)


 それは確実にメンバー全員の思いでもあった。



「それじゃあ、今日の練習はここまでにしましょう」


 柚子の声を合図に、全員が身体を伸ばした。


「疲れたなー」

「そうだね」


 柏木と雛鳥が笑いあう。


「あの、柚子さん」


 春奈がベースを片付け、柚子へと近寄った。

 赤く染まった頬に控えめだが可愛らしい笑顔を浮かべて。


「どうしたの?」

「あのっ、そのっ……そろそろ曲は出来たのかなって」


 春奈の声を聞きつけ、


「そういやあ柚子ちゃんが曲作ってんだよな? どんな感じになんの?」


 柏木が春奈の肩に頭を乗せて、柚子へと問いかけた。

 一瞬だけ春奈の目が釣りあがるが、そのことに誰も気づくことはなかった。


「歌詞覚えないといけないけど……何曲作ってるの?」

「確かに由貴は歌詞もだから、私達より大変よね」


 ギターを片付けた由貴と雛鳥も三人の話の輪へと混じる。


「とりあえず三曲ほど完成したところかな。あと二曲はまだ途中」

「一気に五曲もか!? すげえな」

「さすが柚子さんです」


 柏木と春奈の言葉に、柚子は照れくさそうに笑った。


「由貴には歌詞を暗記してもらうから、まずは三曲の歌詞を渡すわね。悪いけど手書きだから読めにくいのは我慢してちょうだい。楽譜の方はパソコンで打ち出しして印刷してからになるから」


 鞄から三枚の用紙を取り出し、由貴へと渡した。


「曲がないと暗記なんて無理だから」

「とりあえず感じだけ掴んでもらえればいいから」

「まあ曲って歌詞と音楽のセットで覚えるしなあ。まあ頑張れよ、由貴ちゃん! お前ならできるって!!」

「素敵な歌声、期待してるからね!」

「そうやってプレッシャーかけるの止めてほしいんだけど!?」

「大丈夫大丈夫だって! 根拠はねーけどよ」

「そうね、きっと大丈夫よ。根拠はないけど」

「根拠がないなら、気軽の言わない!」


 興奮する由貴に柏木と雛鳥は揃って視線をそらした。


「どんな歌詞か見てもいいですか?」

「いいわよ」


 春奈が柚子へと聞けば、あっさりと許可が下りた。


「オレもオレも」

「どれどれ~」


 柚子を除く四人で歌詞を見ると、一曲は定番の恋の歌、二曲は励ましの応援歌だった。

 応援歌は自分を奮い立たせる歌のようで、今の柚子が必要としている歌のようだと由貴には感じ取れた。


「素敵ですね」

「曲がないとまだ何とも言えないけど、いいんじゃない?」

「やるのが楽しみになってきたなー!!」

「そうだね」


 三人の意見に同意しながら、由貴は思う。


(この歌詞、やっぱり柚子は『なずしらゆさ』なんだなあ! 何となく雰囲気が似てる)


 同一人物なのだから当然、歌詞が何処となく似ていることに由貴は気づいた。


(まさか、まさか! 俺が彼女の新曲を歌えるなんて!! 女装は最悪だけど、俺、生きてて良かった!)


 『なずしらゆさ』のファンだと本人に告白した由貴は深く感動していた。もっとも表向きはにこやかに微笑んでいるだけなので、誰にも気づかれていないのだが。


「ところで」


 場の空気が興奮し出したところで、


「親睦会をしましょう」


 柚子が突然言い出す。


「親睦会……ですか?」


 春奈が首を傾げる。突然の言葉に由貴と柏木、雛鳥も揃って首を傾げた。


「そう、親睦会よ。そろそろやっとくべきだと思ってたのよね」


 一人で納得する柚子に、柏木が勢い良く手を上げた。


「はいはいはーい!! 賛成大賛成だぜ!! さすが柚子ちゃんは良い事いうなあ!」

「私も柚子さんの意見に賛成です」

「いいんじゃない? あたしも賛成ね」


 そして、四人の視線が由貴へと向かう。


「……良いとおもう、よ?」


 特に反対する気持ちもなかった由貴だが、女性陣四人の視線がちょっぴり怖いと思った。


(ここで反対とかしてたら、絶対に後悔させられる!)


 由貴のそんな気持ちなどお構いなしに、柚子たち女四人組みはどこの店にしようかの相談を始めていた。


「駅前のカフェとかは? 美味しいカフェラテのお店があるんだけど」

「それなら駅ビルの二階にある店はどうだ? あそこのケーキ絶品だって噂だろ?」

「あっそこ美味しいよ! でも店内が狭いから五人はつらいと思う」

「無難にファミレスは駄目なんですか?」

「ファミレスって気分じゃないわね」

「ファミレスって気分じゃねーな」

「ならブランシェにしない? 私の一押しなんだけど」

「何処にあるの? 聞いたことないけど」

「駅から少し歩いたところにあるよー」

「へー。んじゃあとりあえずそこ行かね? 甘いものたべたーい」

「大賛成です」

「それじゃあ移動しましょうか」


 そうして、女同士の相談が終わった。

 由貴は少女たちの勢いに終始圧倒され、結局最後に「うん」と頷くことしか出来なかった。


(女同士の会話についていくなんて、絶対に無理)


 女言葉と仕草が自然と出せる程度に女装慣れした由貴だが、中身はやはり男のままである。



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