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ガールズバンドはじめました  作者: やなぎ のき
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第8話 田作(ごまめ)のなんとやら

『由貴、君って本当に女の子なの?』


 雛鳥の言葉に、由貴は息が止まった。

 息苦しさは感じず、硬直する身体に冷や汗が流れる。

 女装もバンドへの参加も由貴にとっては本意ではなく、強制とも言うべき強引さで柚子が行ったことだ。バレても困るのは柚子であって由貴ではない。

 だが由貴は心のどこかで、柚子の行動を受け入れている自分がいることに気づいていた。

 強引で無茶苦茶で、それでもどこか憎めない。

 自分の所為で柚子が困るのは嫌だなと、会って数時間も経っていないはずなのに由貴は感じていた。


(どうしよう、どうしたらいい)



 ――数秒。



 由貴の体感時間では三十分、一時間は経ったかもしれないという緊張感だが、実際の時計は一分も経っていなかった。

 そんな緊迫感の中に、


「ああ。それならね」


 落ち着いた、先ほどと何も変わらない様子の柚子が声をかける。

 いつの間にか由貴たちの傍まで来ていた柚子は、由貴へと視線をやり小さく頷くと、困った顔をして雛鳥を見た。


「あんまり由貴としては言ってほしくないだろうけど……」

「どういうこと?」


 雛鳥が柚子の顔を見て、困惑する。

 柏木と春奈も首を傾げて三人の様子を見つめた。


「由貴は見た目文句なしの美少女でしょう? バンドって曲と演奏重視ではあるけど、やっぱりビジュアル面は悪いより良い方がいいじゃない。由貴はその点、文句なしの広告塔になれる容姿なんだけど……」

「なんだけど?」

「あー…………胸がね、小さすぎてあれかな、て」


 柚子がぽつりと零す。

 その言葉に春奈が自分の胸に手を当て大層落ち込んでいたが、誰も気づかなかった。


「ボーカルってメンバー内で一番目立つし、お客が見るのもまずはボーカルの容姿でしょう? やっぱり売れること考えると胸はないよりあった方がいいし。だからパッドとか入れて大きく見せてるの。感触が変だったのは、まあそういうこと」


 柚子の説明が終わると、三人の視線が由貴へと向いた。

 正確には、由貴の胸へと。


「なんか……ごめんね」


 雛鳥が気まずそうに謝る。

 気の毒そうな可哀想なものを見る目で、由貴を見た。

 春奈と柏木の視線も、生暖かいと表現する類のものを由貴へと向ける。


「だから由貴としては言ってほしくないと思ったのよ」

「うん、なんかごめん。ホントごめん」

「大丈夫だって由貴ちゃん。女は胸じゃないからよ。ほら、揉むとでかくなるって言うし!」

「気を落とさないでください。女の魅力は胸なんかじゃないですよ!」


 次々とかけられる言葉に由貴の目が釣りあがる。


「…………そういうフォローは、逆に泣きそうなんだけど」


 柚子たち四人は一斉に視線を由貴から逸らした。


「ま、まあ、とにかく練習に入りましょうか!」

「そうだね!!」

「おうよっ!」

「はいっ!」


 元気に声を上げ、四人はいそいそと指定の位置へと戻っていく。

 肩を落とした由貴は転んだ拍子に落としたギターを、拾い上げた。傷や音に問題ないか確認し、自分も指定の椅子へと向かう。


(女装、もうヤだ)


 スンッと鼻を啜れば、四人の肩が一斉に揺れる。

 その様子に由貴はため息をついて、ギターに集中した。



 ◆



「由貴、今日の帰り寄り道しないか?」

「ごめん、今日は予定あるんだ」


 がやがやと賑わう教室の一角。やや中央の席に座る由貴へと、男子生徒の一人が声をかけた。

 友人A(仮名)。中学二年の時にクラスが一緒になった時から由貴とつるんでいる友人である。偶然同じ高校を受験し、クラスも同じになったのは余程縁があるのだろうか。

 そんな友人Aの誘いを、由貴は苦笑して断った。


「お前最近付き合い悪いぜ。バイトでも始めたのかよ?」

「そっちじゃなくてこっち」


 こっち、とギターをかき鳴らす仕草をする。


「そりゃ趣味だろ? それとも本格的に始めたのか?」

「うんまあ、成り行きで」

「意味分からん。まあいいけどよ、たまには付き合えよな!」

「分かってるよ」


 片手を上げながら教室を出て行く友人Aに、由貴も片手を上げて答えた。


「休みたいって言えば休ませてくれんのかな」


 頭を掻きながら言えば、タイミングよく携帯がメールを着信した。


『授業終わったでしょう? 急いで家に来てちょうだい』


 柚子からのメールである。

 毎日のように来るバンド練習の知らせに、由貴はため息をついた。


(ギター弾くの好きだし歌も褒められて嬉しいけど……女装がなければ、俺ものすごく青春してるのになあ)


 しかし女装解除の指令が出ることはないだろうことも、由貴はきっちり理解していた。


(似合うとか可愛いとか言われても、全然嬉しくないっつーの)


 携帯のメールをもう一度見て、由貴はため息をつきながら教室を出た。



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