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ガールズバンドはじめました  作者: やなぎ のき
16/24

第16話 犬猿のなんとやら

「いよいよね」

「おう」

「うん」


 柚子の緊張した声に柏木と雛鳥が答え、由貴と春奈は頷いた。


「明日が、ライブの当日よ」

「あっという間だったなー」

「まあ練習しかしてないからねー。あたしたちは学校が同じなわけじゃないから、放課後の短時間と休みの日しか練習出来ないし」

「そうですね。正直、ミスをしないか不安です」

「春奈ちゃん、そういうこと言うとオレら不安になるから!」

「うーわー! 緊張してきた!」

「ライブは明日なんだから今から緊張しないでよ、雛鳥。柏木と春奈も練習通りやれば問題ないわ」

「ありがとうございます!」

「さんきゅー!」


 明るく笑う三人を横目に、楽譜から視線を逸らさない由貴へと柚子は近づいた。


「問題は由貴よね。歌詞大丈夫?」

「さすがに一ヶ月程度の時間で五曲はつらい」

「まあでも、楽譜に歌詞が書いてあるんだから忘れても大丈夫でしょ? 丸暗記しないと駄目なわけじゃないんだから」

「ギター弾きながらだから歌詞は覚えてないと、弾くのを忘れそうなんだよ」

「大丈夫よ、雛鳥がフォローするんだから」

「それは期待してるっていうか、信頼してる」

「しないで! そこは期待に答えるところだって分かってるけど、信頼されるほど自信ないから! 緊張でがくがくぶるぶるぞわぞわ~だから!」

「よし、由貴ちゃん! 雛鳥に任せておけ!!」

「分かった!」

「お願いだから頑張ってー! ホントに自信ないの!! ライブハウスで演奏とかしたことないの! 緊張で指が動かないかもしれないから、むしろあたしをフォローしてー!」


 頭を抱えて座り込む雛鳥の肩を、ぽんぽんと優しく春奈が叩く。


「はるなぁ……」


 少しだけ涙目になっている雛鳥に、優しく微笑んで、


「頑張ってください」


 春奈は握りこぶしに親指を立てた。


「はーるーなー!!」

「うーん。てっきり由貴がいじられ役だと思ってたんだけど、見事に雛鳥がいじられてるわね」

「だって雛鳥の反応の方が面白いからさー」

「いじられるより、いじる方が面白いね」

「同感です」

「うわーんっ、間違えて恥じかいたら皆の所為にしてやるー!!」


 両手で顔を覆う雛鳥に、ひとしきり笑った柏木が宥めにかかる。その横で春奈はフォローしたり、慰めたり、いじったりと楽しそうに笑う。


「春奈と柏木は絶対にSだ」

「サディスト、ね。なら雛鳥はマゾ?」

「本人は全力で否定すると思うけどね。というか、本当に自信ないんだけど……」


 和気藹々とする三人から視線を逸らし、由貴は楽譜へと視線を戻す。


「大丈夫よ。そんなに気を張らなくても」

「初ライブなんだから、普通に気は張るだろ?」

「肩の力入れたって駄目よ。大事なのは歌に込める気持ちなんだから」

「気持ち、か」

「そうそう。私の歌を好きだと言った由貴が、私の歌にどんな気持ちを込めるのか楽しみだわ」

「…………なら」


 由貴は視線を楽譜から、隣に立つ柚子へと向ける。


「柚子への気持ちを、込めるよ」

「……由貴?」

「柚子さん!」


 一体どういう意味かと柚子が問う前に、春奈が声を上げた。

 明らかに意図を持って上げた声に、何も知らない柚子が振り向き、由貴は柚子へと気づかれないよう密かに舌打ちする。

 そんな由貴の様子を知ってか知らずにか、春奈が駆け寄ってきた。床を覆うコードを器用に避ける辺り、一度コードに引っかかって転んだ由貴は苦々しく思う。


「どうかしたの?」

「雛鳥さんは柏木さんに任せたので、ちょっと柚子さんとお話したくて……もちろん由貴さんとも」

「付け足すように言わなくていいよ。勝手に会話に参加するから」

「嫌ですね由貴さん。他意はないですよ?」

「そういう台詞が出る時点で、他意があるんだよ、春奈」

「何のことでしょうか、まったく分かりません」

「白々しいよ、きちんと分かってるくせに」

「うふふ」

「ふっふっふっ」

「…………仲いいねー」

「どうしてそうなるの!?」

「どうしてそうなるんですか!?」


 同時に発した抗議の声に、春奈と由貴は互いに見つめあい苦虫を噛み潰したような顔をした。

 そんな二人に気づくことなく、柚子はのんびりと微笑む。


「ほら、仲良し」

「そんなことないから」

「まったくその通りです。由貴さんの意見に同意ですが、これに限っては仲良くありません」

「どういうこと?」

「柚子は分からなくていいから。とにかく、歌詞はなるべくギリギリまで暗記するよ」

「そうですね。それがいいと思います」

「何で話を逸らすかな? 何か私に言えないことでもあるわけ?」

「ないよ、まったく」

「ありません、まったく」

「不本意だけど春奈とは意見が一致するね。不本意だけど」

「本当に不本意ですけど由貴さんとは意見が一致します。不本意ですけど」

「…………むかつく」

「…………その点も同意見です」

「……やっぱり仲良しじゃない」


 にらみ合う由貴と春奈の様子に、柚子はため息をついた。



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