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ガールズバンドはじめました  作者: やなぎ のき
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第15話 恋の病になんとやら


「協力出来ない」


 するりと、由貴の口から否定の言葉が零れた。

 春奈が驚きで目を見開くのを、呆然と見つめる。

 由貴自身、自分の口から発せられた言葉に驚いていた。


(今、俺は何て言った? 春奈は仲間じゃないか、協力するのは当たり前だろ? でも胸がムカムカして、どうしようもなく嫌だと思うんだ。でもそれは、どうして?)


 ぐるぐると心の中で自問自答を繰り返すが答えは出ない。

 自分自身を不思議に思いながら、由貴は目の前に座る春奈を見た。驚きで見開いた目は閉じられ、由貴の視線に気づいたのか、それともたまたまなのか春奈がゆっくりと目を開ける。


「なるほど、やっぱり同じ気持ちだったんですね」


 一人納得した様子の春奈に、由貴は首を傾げた。


「はい?」

「柚子さんは由貴さんを心配して傍にいるのは分かっていましたが、由貴さんの気持ちは良く分かりませんでした。だからお付き合いしているんじゃないかと聞いてみたんですよね」

「え?」

「でも違うと聞いて安心しました。それに、恋敵だと判明したことも大きな収穫です」

「どういうこと?」

「由貴さんは美人だし綺麗だし、それなのに可愛くて鈍いなんて卑怯極まりないステータスを兼ね備えていますが」

「はあ!?」

「私だって柚子さんを思う気持ちに引けはとりません」

「ごめん、お願いだから話を聞いてください。切実に!」

「柚子さんも由貴さん同様に鈍感ですから、私たちの気持ちには気づいていないでしょうけど」

「だから!」

「片思い同士、頑張りましょうね!」

「どうしてそうなる!?」

「バンドでは仲間ですけど、恋敵でライバルですから絶対に負けません!」

「お願いだから! 少しでいいから話を聞いて!」

「明日から勝負仕掛けます! どちらが先に柚子さんに気持ちを受け入れられても恨みっこなしですからね!!」

「話についていけません!」

「それじゃあ、また明日!」

「聞けよおい!」


 いつもなら人の話をきちんと聞く真面目な春奈が、まるで耳栓をしているかのように由貴の言葉を悉くスルーし、鞄を手にして颯爽と去っていってしまった。

 あまりの素早い動きに、由貴は呆然と後姿を見送ってしまう。

 そして脱力するようにテーブルへと突っ伏した。


「なんだよ、あれ……」


(まったく人の話聞いてくれねーし、春奈ってそういうやつだったのか? もしかして女は皆、春奈みたいな感じなのか? 柚子が好きってだけでも衝撃なのに、これ以上女の裏側なんて見せて欲しくねーんだけど!)


 自分の考えに頭を抱える。


(ていうか何で俺は断ったんだ? 仲間なんだから応援するべきだろ)


 のろのろとテーブルから顔を上げ、ふと上着のポケットに入れた携帯電話が震えていることに気づく。着信を知らせるための振動に、誰からだとは深く考えずにポケットから携帯を取り出した。


「柚子、か」


 着信はメール。送信者には柚子の名前があり、思わずそう呟く。

 そろそろ戻って来て着替えて欲しいという旨のメールに、自然と頬が緩やかに持ち上がり笑みの形を作る。そんな自分の、無意識の変化に由貴は驚いて目を丸くした。


(嬉しい? この程度のメールで俺は嬉しいと思ったのか?)


 しばしメールを見つめ、すぐに戻ると返信した。

 トレーを返却口に持って行き、鞄を提げて店を出る。

 来た道を戻りながら、由貴は深く考えた。


(そう、嬉しい。何で嬉しいのか良く分からないが、嬉しいと思う。なら何で嬉しいと思うんだ? 普通に考えるならメールが嬉しいってことだけど、内容的にはたいしたことじゃない。なら何が嬉しい? 内容じゃないなら柚子からのメールが嬉しいってことだけど……メールのやりとりなんて今に始まったことじゃないだろ。何を今更喜ぶんだ?)


 そこまで考えて、足が止まる。


「俺は柚子が好きなんだ」


 無意識に零れた本音に、由貴は驚き、同時に納得した。


(そうか、俺はいつの間にか……違うな。多分、柚子の力になりたいって思った時から、柚子のことが好きなんだ。『なずしらゆさ』へのファンの気持ちとかじゃなくて、更科柚子が好きなんだ)


「そりゃ、恋敵は応援したくねーよな」


 例えそれが、仲間で女の子でも。

 止めていた足を動かし、由貴は再度歩き出す。


「絶対に負けねー!」


 先ほどは言えなかった春奈への宣戦布告に、由貴は両手を高く上げて叫ぶ。

 にやりとワイルドに笑う由貴は男らしさを前面に引き出し、誰かが見たのなら女装中である由貴の姿に疑問を持っただろう。

 だが、幸運にもその笑みは誰の目にも留まることはなかった。



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