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ガールズバンドはじめました  作者: やなぎ のき
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第1話 目は口ほどになんとやら

アルファポリスに投稿するために、こちらをお借りしました。

未熟者ですが、よろしくお願い致します。



 その日も、いつも通りの一日で終わるはずだった。


 授業終了を知らせる音が学校校舎内に響き渡る。

 静まり返っていたのが嘘のように、活気のある声が学校内を包み込む。真新しい校舎から、次々に生徒が駆け出して行った。

 山上高校。

 都市部に近い町の中心地から少し離れた場所にあるこの学校は、田舎と言っていいほどのどかな場所に立てられた。

 それでも生徒数は多く、絶世期では一クラスに四十人ほどの生徒は当たり前なほどだったのだが、少子化の影響でどんどん生徒数が減っていき、いずれは閉校となるはずだった。

 しかしここから五分ほどの距離にある駅が再開発のために様変わりし注目され、立地から生徒数が年々増え始めたのだ。

 閉校の危機を免れた学校は校舎を新しく立て直し、今年から生徒たちは新しい校舎で学んでいる。

 未だ生徒数の関係で空き教室はあるものの、特別教室や最新機材、部室などの設備も充実させ生徒たちの反応は上々であると言えるだろう。

 部活棟と呼ばれる校舎は授業を行う本校舎から少し離れた場所にあり、生徒たちは制服姿でそこへ駆け込んでいく。すでに何人かの生徒はジャージへと着替え、これからの充実した部活動時間に目を輝かせているようだった。

 そうして学校内が活気に包まれている中、ようやく教師によるHRが終わったクラスがある。教師による帰りの挨拶が終わった後、勢いよく扉を開き数人の生徒たちが廊下へと飛び出し駆け出した。


「じゃあなっ! 由貴!!」

「あの教師マジで話長すぎるっつーの! また明日なー!!」

「おー、また明日な」


 そう言って、二人の男子生徒は走り出す。

 由貴、と呼ばれた少年は彼らに手を振り、机の中にある筆記用具やらを鞄へと詰める。のんびりとした動作で荷物を用意し、教室内を軽く見回してから、由貴は教室を出た。

 授業終了直後よりは掃けた人通りの廊下を歩きながら、窓へと視線をやる。

 雲ひとつない快晴の下、運動部だろう気合の入った掛け声が聞こえた。

 由貴は視線を校庭の方に向ける。帰宅する生徒と混じって部活中と思われるジャージ姿の生徒が見えるが、由貴の友人の姿は見えず視線をまた空へと戻した。

 大半の生徒はすでに部活か学校を出ているだろう。由貴のクラス担任である教師は長話でいつも最後までHRが終わらないので有名であった。

 そのため、由貴の友人たちは先ほどのように授業終了後、競うように教室を飛び出して行く。由貴自身は部活に入っていないため、のんびりと帰り支度をしたのちに教室を出たのだった。

 由貴――泊由貴は可愛らしい少年だ。短髪の黒髪と線の細い身体を隠すかのような大きめの学ラン。身長は百六十センチに届かないため小柄で、くるりとした大きい目が特徴的な可愛らしいという表現が良く似合う少年だ。

 鞄を肩へと引っ掛け、窓の外を見ながらぼんやりと由貴は歩く。グラウンドを走る運動部の姿を眺めながら歩いていると、由貴は肩に軽い衝撃を感じて足を止めた。

 直後、ばさばさっという音がする。

 視界に黒く長い髪が見えた。


(あ、)


 少女とぶつかったのだと気づき、由貴はあわてて振り返った。


「ごめんっ!」

「あ、こっちもごめんね」


 廊下に広がった紙とファイルに、先ほどのばさばさっという音の正体を知った。

 由貴がぶつかった拍子にセーラー服の少女が落としてしまったのだろう。

 彼女がしゃがむ姿を見て、あわてて由貴もしゃがみこんだ。

 近くに落ちた白紙を拾い上げると、


「見ないで!」


 そう少女が声を上げた。

 見ないで、と言われれば逆に見たくなる。

 隠されれば隠されるほど気になる、人間の心理だ。

 思わず由貴は興味本位で手元の白紙を裏返す。


 表は楽譜だった。


 鉛筆でたくさんの走り書きがされた楽譜。

 そして『なずしらゆさ』のサインを見た時、由貴は驚きに数度瞬きをした。

 その様子に気づいたのか、少女があわてて由貴から楽譜を取り上げる。


「見た?」


 少女の言葉に、


「見た!」


 由貴は大げさなほど頷き、興奮気味に言った。


「君があの有名な『なずしらゆさ』なのか? まさか同じ学校だったなんて! いやその前にまだ高校生だったのか!!」


 『なずしらゆさ』と言えば、音楽好きには有名な名前である。

 多くのトップアイドルたちがこぞってその人の歌を歌い、オリコン上位に名前を連ねているからだ。

 だが『なずしらゆさ』は名前以外は何一つ公表していない。

 性別すらも公表していないため、ネットで様々な憶測や噂がある覆面ソングライターなのだ。


「俺、君の歌のファンなんだ!!」


 思わず由貴は声を大きくして言った。

 それを聞いた少女は急いで廊下に散らばった紙とファイルを回収し、由貴の腕を掴む。


「ねえ」


 ぎりっ、と音が聞こえそうなほど強く握りこまれた。


(いっ、痛い!)


 思わず声を上げたくなったのを、由貴はギリギリで飲み込む。

 腕を掴んだ少女が満面の笑みを浮かべていたのだ。

 見惚れるほどの可愛らしい笑顔。

 だが由貴には、少女の背後に般若を見た気がした。


「ちょっとついて来てくれる?」


 『断るわけないわよね? 断ったら絶対に後悔させてやる』


 そんな少女の心の声が聞こえた気がして、由貴は顔を青ざめさせながら力なく首を立てに振った。


(俺、もしかしてマズイこと言った?)


 思いはしても、それはすでに後の祭りなのだった。



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