UFOを目撃した数年後に夫婦ゲンカをした
数年前の話だ。次女の幼稚園の音楽祭の帰りに、UFOを目撃した。
車を運転していると、フロントガラスから見える青空に、台形でグレーの色のUFOが浮かんでいた。円盤でも葉巻型でもなかった。
「あれってUFOやんな?」
指差す私に、助手席の妻は言った。
「ほんまや! UFOやん!」
「せっかくやし、撮影してーや」
「分かった!」
しかし、撮影できないまま、すぐにUFOは姿を消した。消したというか、車で追い抜いてしまったようだ。
「撮影したいし、引き返してーや」
と言う妻に、めちゃくちゃお腹がすいていた私は言った。
「お腹、すいてんねん。もうUFOはええやん。帰ろーや」
すると、同じように妻もお腹をすかせていたようで、
「そうやな。帰ろっか」
と返答があり、我々はあっさりUFOを見捨てて家路に着いた。
ドライブスルーで買ったマクドのバーガーを頬張りながら、
「いや~、UFOってマジで存在したんやなぁ~」
「ほんまほんま」
と、夫婦で語り合った。
今、思えば、UFOよりもバーガーを優先するってなんでなん?と思わなくもないが、あの時はとにかく、めちゃくちゃお腹がすいていたのだ。
それから月日は流れ、当時、幼稚園児だった次女は中学三年生になった。
ある日、妻が中学校の運動会から帰ってきて言った。
「久しぶりに近所の○○さんと話したわ」
「そーかそーか」
「そんで、急にふと思い出して、UFOを目撃したことを○○さんに話したわ」
「……なんやと?」
私は思わず聞き返した。
「なんでUFOを目撃したことを近所の人に話したんや」
「そんなもん、目撃したからやないの」
「なんで話すねんっ。イタい奴やと思われたやろーがっ」
「なんでイタい奴なんよ? 目撃してなくて目撃した言うたらイタい奴やけど、ほんまにUFOを目撃したやんかっ」
「ほんまにUFOを目撃したよ! けど、近所の人にイタい奴やと思われたやろーがっ」
「ほんまにUFOを目撃したんやから、イタい奴やないやんっ。大体、UFOを最初に見付けたんは自分やんか!」
「確かに俺が最初にUFOを目撃したよ!……ちょっと待ってくれ。夫婦で目撃したって言うたんか?」
「言うたよ」
「近所の人たちにイタい夫婦やと思われたやないか~っ」
「ほんまにUFOを目撃したんやから、全然、イタい夫婦とちゃうやんかっ」
「確かにほんまにUFOを目撃したよ! くそっ! なんでUFOなんか目撃してもーたんやっ! 宇宙人め! イタい夫婦やと思われたやないかっ!」
こう言った後、私は悟った。
この世の中は、常識と世間体を気にしない者だけがUFOを目撃したと素直に話しているだけなんだと。だから、UFOはいつまでも一般論として認知されないのだ。
宇宙人はもしかしたら、地球人が常識と世間体を気にする生物だと把握した上で、堂々と浮遊していたのかもしれない。なんて卑怯な奴らなんだ。
とにかく、何を言いたいのかと言うと、私はイタい奴ではないです。
読んでくださって、ありがとうございました。
コロン様の企画「2025振り返り」参加作品です。
UFOの存在を信じてくださいとは一切申しません。そんなん、どうでもいいです。
そんなことより、私がごくごく普通の人なんだと信じてください。イタい奴やと思われるのは癪に触ります。




