「ある意味怖い話」部分
「ある意味怖い話」部分投稿。これで完結。
「……今頃あの子、どんな顔しているかな?」
短パンにTシャツというラフな姿で床にあぐらをかき、ポテチをざくざくと噛み砕きながら、えりかが獲物をいたぶる肉食獣のような笑みを浮かべる。
「きっと、すごくびっくりしてるよ。あんまり怖くて泣いちゃってるかも」
テーブルを挟んで向き合っているなおが、にこにこしながらあっけらかんと言う。すごく意地悪なことを口にしているのに、まるで悪意を感じていないように見えるのが、逆におそろしい。
「大体生意気なんだよね。人がせっかく怖い話で盛り上がっている時に、はしゃいでいる子どもをみるような目で黙ってにこにこしてたりとかさ」
「一応キャアキャア言うべきだよね、礼儀として」
「そうそう。そういうとこ、全然分かってないんだよ、あいつ」
えりかとなおが誰かの悪口――最近はもっぱらゆいの悪口だ――で盛り上がっている様子を見ていると、いつもつくづく思う。ああ、二人ともなんて醜い顔をしているのだろう、と。二人とも、中学時代から年に数回は男子から告白されるぐらいにはかわいくてきれいなのに、こういうときの顔は本当におぞましく、凶悪で……思わず目をそらしたくなる(そんなことをすれば、今度は自分が「ターゲット」にされることは目に見えているから、必死で二人に向き合い、耐えているけど)。そして、二人のことを「醜い」なんて言ってるけど、彼女たちをたしなめようともせず、話を合わせ、うなずき、時折思ってもいない悪口を差し挟んでいる自分自身も、きっと二人と同じような醜い顔になっているんだろうなと思い、みのりは慄然とするのである。
でも、あの子――ゆいだって悪いんだから。後から私たちの輪の中に入ってきたのに、抜け駆けみたいなことするから。
いまだに思い出すだけで燃え上がる怒りの炎で――初めて知ったその時に比べ、だいぶんその勢いは弱まっているが――みのりは心に浮かんだ恐怖に似た気持ちを無理に焼きつくし、消し炭の黒い心をうめるように、ポテチをガリガリと頬張る。
みのり達は、大学のサークルでは「仲良し四人組」だと見なされている。
だが、実情は違った。
えりか、なお、みのりの三人は、同じ高校出身。中学はそれぞれ別々だが、同じ塾で机を並べ、競い合い、励まし合って、見事三人揃って地域の最難関公立校に合格した。その頃から続く仲――腐れ縁?――なのだ。
そこへ、大学で同じサークルになり、同じ学部で似たようなことに興味のあったゆいが急接近し、友達づきあいをするようになった。といっても、それはあくまで表面上のこと。学内では親しく話すものの、一緒にショッピングやカラオケに行ったりすることはないし、暇な夜に長いこと通話したりもしない。ましてや、こういった「ホンネで話す飲み会」には決して参加させない。四人組の実質は「仲良し三人組+1」という形なのである。
それなのに、ゆいは三人を尻目に、さっさと彼氏を作ってしまった。
それも、その相手が悪い。
背が高く、成績優秀な生徒会長で、テニス部のキャプテンも務めるスポーツマン。その上、誰にでも優しく素直、話題も豊富な、笑顔の似合う爽やかイケメン――みのり達の高校で、文句なしの女子人気ナンバーワンであったオガワユウト君と、彼女は付き合い始めたのである。
実のところ、えりかもなおも、そしてみのりも、高校1年生の2学期頃から早くもユウト君に憧れ、部活や委員会、友達ネットワークなどをフル活用し、なんとか距離を縮めようと頑張った。高2進学時には三人揃って彼と同じクラスになるという幸運も手伝い、とうとう三人は彼と打ち解け、放課後のファミレスでいろんな話をしながらケラケラ笑い合う仲にまでは、なることができたのである――男子はユウト君の他にも有象無象がわらわらいたし、女子だって、他のユウト君狙いの子らがわさわさ一緒についてきているという、なんとも中途半端な状態だったけど。
で……結局そこ止まりだった。
ユウト君は高校生の間、三人のうちの誰とも――そして、他の女子とも――つきあうことなく卒業。そして、県下でもっとも偏差値の高い国立大学へと入学したのである。
それよりかなり前の時点――具体的には、高2の三学期くらいまで――で、こんなに頑張ってアピってるのに誰にもなびかないんだから、ユウト君に女子とつきあうつもりはないらしい(ひょっとして、アッチ系のヒト?)と他の女子達は見限り、諦め、彼の周りからするするとほどけていった。が、ひそかに私設ユウト君ファンクラブまで作り、毎晩毎晩熱く――暑苦しく彼への愛を語り合うほどにハマっていた彼女ら三人だけは、どうしても諦めることができず、自分たちの進路を曲げ、連日連夜猛勉強してまで、彼と同じ大学の、同じ学部に入学したのだ。
それなのに……ああ、それなのに、ユウト君は彼女たちの恋心に揺らがず、真心にほだされることもなく、県下の他地域からやってきた、真面目でおとなしく、冷静な以外、大してなんの取り柄もない――顔だってスタイルだって、絶対私たちの方が上だし!――地味目の女になぜか目がくらみ、入学後一年もたたないうちに、カップルになってしまったのである!
その事実を初めて知った時、みのりは――もちろん、えりかもなおも――泣いた。
少々恥ずかしそうに、そしてその数十倍うれしそうな口調で、付き合い始めたことを報告してくれたユウト君の手前、三人揃ってこわばった笑顔で二人を祝福した。が……その後、いつものようにえりかの部屋に集合すると、一晩中互いの肩を支え合いながら、泣き通した。
どうしてこれほど一途に想い続けていたのに、私たちの誰かではないのか。こんなにも強く、ひたすら好きでい続けていたのに、私たちの方を振り向かず、あんな女に走ったのか。
嘆きはいつしか恨みへと変わり、その恨みの念は自然、ゆいへと向かった。
あたしたちの様子を見てれば、ユウト君が好きだってこと、分かって当然なのに、遠慮もしないで、堂々とつきあうなんて。
せっかく仲間に入れて、仲よくしてやってたのに、裏でこっそり、私たちを裏切ってたなんて。
恋バナだって何度かしたのに、その時はなにも言わなかったくせに、いきなり付き合い始めるなんて。
あんな女、不幸になればいい。
あんな女、心を病んでしまえばいい。
あんな女、学校をやめてしまえば……いっそ死んでしまえばいい!
夜明け近く、そこまで怨念が高まったところで、えりかが不敵な笑みを浮かべ、言ったのだ。
「ねえ……呪っちゃわない、あいつ。あたし、伯父さんがそういう関係も扱う寺の住職なんで、よく知ってるんだよね、呪い方」
「本当に抜けてるよね、あの女。印をつけたの、気づかないとでも思ってたのかな。気づくに決まってるじゃないね」
「自分を賢いと思ってる人ほど、自分の見落としに気づかないんだよ。周りのみんなに哀れまれてることも」
「焼けたはずの呪物が、元通りの姿で、また戻ってきて……絶対ビビってるはず」
「うんうん。こんな強い呪い、どうしたらって、心臓バクバクで、震え上がってる」
「そのまま、早く病気にでもなっちゃえ。そしたら、笑ってやるし」
「そうなったら、三人で乾杯しないと」
「だね!早くその日がこないかな」
「ね、楽しみだよね!」
酔いも手伝って、ますます禍々しいことを口にする、えりかとなお。みのりはいい加減、二人の口から吐き出される瘴気のような言葉に辟易しているのだが、それでも無理に笑顔を浮かべ、その場に居続ける。
「今度の呪物はどうするのかな?やっぱりまた、あのお寺にお焚き上げに行くと思う?」
「そうだったら簡単なんだけどな。一緒についてって、隙を見て他のとすり替えて、また部屋の目立つところに置いてやるだけでいいし。なにせあそこの伯父さん、あたしには甘いから」
「でもさ、今度は違うところにいくんじゃないかな。一度お焚き上げして戻ってきたんだし、あの寺、験力ないって思って」
「それならそれで、また印だけ確認しておけばいいよ。どうせ、持ってく前にまた相談してくるんだろうから。あれと同じモノなら、まだまだいっぱいあるし」
この上なく意地悪な、それでいてうれしくて仕方ない、といった表情を浮かべながら手を伸ばし、えりかはテレビの下の小さな扉を引っ張る。
と、中から例の、筆文字がびっしり書かれた和紙を貼り付けた手のひらサイズの細長い木箱が、いくつもいくつも、ゴロゴロと転がり出る。
その一つを手に取り、なおも、にんまりと邪悪な笑顔になった。
「本当によくできてるよね。コピーとは思えない」
「木箱だって百均のだしね」
あはは、と声を揃えて、ひとしきり棘のある笑い声を立てた後で、
「早く中身も見てくれないかな。それだけは本物だし」
なおがどす黒い期待に目を光らせる。
「よく手に入れたよね。骨なんて」
えりかがしみじみ感心した、という調子でそう言うと、なおはゆっくり首を振った。
「ううん、大したことしてない。豚足買ってきて食べた後、残った骨をきれいに洗って乾かしただけだもの」
「でも、見たら絶対びっくりするって!」
「うん、きっとね」
「ああ、早くその時がこないかな~!」
「楽しみだよね~!」
二人と声を合わせて力なく笑いながら、みのりの心はしかし、沈んでいくばかりだった。
呪いをかけてるのはこちらなのに、その呪いが自分たちに跳ね返って、どんどん醜い爪痕を残しているように思えてくる……ああ、こんなことするんじゃなかった……。
だが、それでも笑い声を止めることはできない。
三人の笑い声は、いつまでもアパートの天井にうつろに響き続けたのだった。
さて。
三人が――その中の少なくとも二人が――首尾よくかけた「呪い」を自画自賛し、狂騒的な笑い声をけたたましく響かせていた、ちょうどその頃。もう一人の当事者である国枝さんは、一体どうしていたのだろうか。
アパートのテーブルの上に舞い戻っていた「オマモリ」を――それも、自分が書いたのとそっくり同じ形の印が、そっくり同じ位置にあるのを見て愕然と立ち尽くし……その後、あまりの恐怖に我を失ってしまったのだろうか。
いや。
国枝さん、しばし呆然と「オマモリ」を見つめた後で、深々とため息をついたのである。
あーあ、こんな子供だましを使うなんてね。でも、これで誰の仕業か、はっきりした。
お焚き上げによって燃えてしまった「オマモリ」が、すっかり元通りの形で、自然と部屋に舞い戻るなんて、物理的にあり得ない。となると、この「オマモリ」は、焼いてもらったのとは別物。誰かが私の留守中にこっそりこの部屋に入り、置いていったに違いない。
でもって、新しいこっちの「オマモリ」に、元の「オマモリ」につけたのと同じ印をつけられる人間といえば……まあ、他にいないよね。
オカルト的な発想を一切排除して考えると、犯人は明白だ。だが、一応確認の為、机の上に開いたまま置いておいたノートパソコンを手に取り、スリープを解除。現れた初期画面にある目当てのアイコンをクリックし、とあるアプリを起動した。
途端に大きくウインドウが開き、数時間前の部屋の様子がディスプレイ一杯に表示され、動き出した。
国枝さん、このところ毎日、カメラ内蔵のノーパソを部屋全体が映し出せる位置にさりげなく置き、留守中の様子をずっと撮影していたのである。
ビデオをセットし終わった自分が部屋から出て行った後は、しばらく誰もいない部屋が映し出され続ける。それをマウスで早送りしていくと、やがて、部屋の扉がゆっくりと開き……ひょい、ひょい、ひょい、と見慣れた顔が現れた。
ああ……やっぱりね。でも、えりかの単独犯か、えりかとなおの共犯だと思っていたけど、まさか、みのりも噛んでいたなんてね。
三人がいかにも用心深そうにきょろきょろ辺りを見回しながら、でも、なんだかどこか楽しそうに部屋に忍び入り、バッグから取り出した「オマモリ」をテーブルに置いて、また忍び足で立ち去るまでの一部始終を確認したところで、ビデオアプリを終了し、パソコンを落とす。
そこで再び、深いため息をついた。
なんであの三人が?ひょっとして、オガワ君とのこと?だったら、完全に逆恨みじゃん。彼があんまりしつこいから、仕方なくつきあってあげてるだけなのに。
彼女の脳裏に、オガワユウト君のへらへらした薄っぺらい笑顔が浮かぶ。素直で明るい――違う言葉で言うと、信じやすく思い込みが激しくて考えの足りない――つまらない男だ。
あまりすげなく振ってしまうと、サークルやらクラスやらでその後もしつこくつきまとわれそうだったから、しばらくの間適当にあしらい、ゆっくり嫌われてやろうと思っていたのに。こんな「迷惑なとばっちり」があるなら、最初っから、はっきり振ってやるんだった。ああ、面倒臭い……とはいえ、このまま放っておいて、エスカレートされてもまずいか……。
国枝さん、3度目の――今までで一番深いため息をつくと、やおら身を起こし、ポケットから取り出したスマホを手早くタップして、耳に当てた。
「ああ、母さん?……うん、うん、それが、あまり元気じゃなくて。そのことで、ちょっと相談があるんだけど。あ、ううん、母さんにじゃなくて、おばあちゃんに。……そう、そっち方面の相談事なの。今、おばあちゃんいる?……うん、お願い。」
電話で話しながら床に座り込んだ国枝さん、テーブルの上の「オマモリ」に手を伸ばし、放り投げたり、テーブルに軽く打ちつけたりと、もてあそんでいる。まるでそれが、手すさびにちょうどいいおもちゃかなにかであるかのように。
「あ、おばあちゃん?……うん、久しぶり。母さんから話聞いた?……うん、そう。大したことじゃないんだけど、呪詛をかけられちゃって。……うん、そう、呪物で。え?ああ、呪言の書かれた和紙で糊付けされた、小さめの木箱。中身?ちょっと待ってね……」
スマホを置くと、机の上をあさり、見つけ出したカッターで無造作に和紙を切り裂き、蓋を開ける。出てきた白い石のようなものを指でつまみ取ると、目を細めて、子細に観察した。
「……ああ、おばあちゃん?今、中身確認したけど、どうやら骨みたい。……ううん、人間のじゃないし、鶏でもない。多分、豚じゃないかな。すごく新しいよ。洗って、きれいに磨いてある。……うん、そう。だから、本当に大したものじゃない。でもまあ、放っておくのもまずいでしょ?……うん、だよね。だから、呪詛返し、お願いできるかな」
国枝さんの実家は、田舎の、数百年続く旧家だ。江戸時代以前から戦後すぐあたりまで、ずっと土地を小作に貸し、自らも田で米を作って暮らしを立ててきた……というのは、表向きの話。広大な敷地に母屋と、いくつもの蔵を持つような屋敷を持つ立場になった真の理由は、彼女の家が、県南地域一帯でその名が知れ渡る「拝み屋」だったからだ。
農地改革によって広大な田畑のほとんどが人手に渡ってしまったため、地主はとしてはすっかり力を失ったが、拝み屋としては今もその名声は健在だ。周辺地域でなにか「怪異」や「変事」が起これば、決まって声がかかる。「そっち方面」の現当主である祖母は、普段は田舎の婆さんそのもの、といった感じの姿で畑仕事に精を出しているが、いざ「その手」の依頼があると、いかにもありがたそうな白装束に身を包み、現場に足を運んでは、「変事」の原因を解明したり、お祓いや浄化などの儀式を行ったりなどして、かなりな額の「お礼」をいただいている。
そんな家の、将来の当主だからということで、国枝さん、その手の儀式に無理矢理何度も参加させられたりしたし、蔵の中には依頼者に頼まれて預かった「因縁話にまみれた呪物」が、それこそ星の数ほど眠っていたのである。
そういった家に育てば、霊感が発達し、オカルト的なものに敏感な――迷信深い人間に育ちそうなものだ。なのに、なぜ彼女がこうも徹底した現実主義者になったかというと……。
「呪詛をかけた相手?うん、分かってる。大学の同級生。名前は……」
えりか達三人の名前を、フルネームで告げた後、
「三人とも、○○中学出身って言ってたから、県北地域の子だと思う。ちょっと遠いけど、大丈夫?」
と、やや気遣わしげに尋ねる。
が、その返事は、どうやら満足できるものだったらしい。
「分かった。じゃあ、お願いしてもいいかな。……うん、売られたケンカは買わないと、だよね。「こういった手段」でうちの一族に手を出したこと、思い切り後悔してもらわないと、「仕事」にも差し支えるし。……うん、分かってる。あ、でも、あんまり追い込みすぎないで、適当なところで手を打つようにしといて。じゃないと、後が面倒だし。あ、あの子達が映ってるビデオ、後で送っておくね。じゃあ……」
スマホをテーブルの上に置いた拍子に、「オマモリ」の残骸が散らかったままなことに気がついて、顔をしかめた。
それらをゴミ箱にざらざらと放り込み、天板を入念にティッシュでぬぐう。
そして、すっかりきれいになったテーブルに肘をつくと、浮かない顔で「あーあ……」とつぶやく。
これから先、えりか達三人を待ち受けている運命を思い、少しだけ、気の毒になったのである。
といっても、もちろん、彼女たちに超自然的な何らかの力が働き、不幸をもたらす、といったことではない。
呪いに、呪い返し。その実体は、どちらも誰かの手による「嫌がらせ」だ。
「嫌がらせ」を仕掛けてきた相手に対し、「拝み屋」は、親類縁者、恩を着せた知人、信者といったあらゆる地縁ネットワークを使い、その相手を特定。そして、逆に「嫌がらせ」を仕掛ける。
家の天井裏に大量のネズミの死骸を仕掛けたり、スズメバチの巣をひそかに庭木に作らせたり。「呪いの標的となった」ことがはっきり分かるよう、門柱に曰くありげな紙を釘で打ちつけたり、毎晩深夜に、陰々滅々とした呪詛の言葉の流れる電話がかかってきたり。
一つ一つは小さいことだが、なにしろ不特定の「味方」がさみだれ式に、粘り強く嫌がらせを行うのだ。ターゲットのほとんどは、一月もたたないうちに音を上げる。
そうなったところで拝み屋が登場。ターゲットを説得し、呪詛などというつまらない行為をやめさせ、同時に、「やってはいけないことに手を染めたことで起きた変事」を鎮めるため、お祓い等の儀式を執り行ってやる――もちろん、多額の礼金を取って。
こうして地域社会のいざこざを解消することで、国枝の家は名家としてあがめられ、畏れられながら、繁栄してきたのである。
一応釘は刺しておいたけど、あの三人、大丈夫かな。おばあちゃん、「こともあろうにうちの孫に手を出すとは!」って、すごく怒ってたからなあ。家族全員、心を病んで入院、なんてことにならないといいんだけど……。
だが、たとえ、軽い気持ちで手を出したにしろ、やらかしてしまった責任はきっちり取ってもらわなければならない。それが「この世界」の決まり事なのだから。
だから、ま……仕方ないよね。
国枝さん、ふ、と軽く息を吐き出すとやおら体を起こし、実家へメールを送信するため、机に向かったのだった。