第3話 暴かれる陰謀
なんかどんどんおかしくなっていくような気が……
翌日の正午、アルフレッドは全ての条件を飲んだ。
そして一週間後——
「エリザベス様、お待ちしておりました」
私の執務室に、一人の老紳士が姿を現した。グレゴリー・フォン・シュタイン枢機卿。王国の宗教界において、絶大な影響力を持つ人物である。
「よくいらっしゃいました、枢機卿様」
私は微笑みながら、用意しておいた高級な紅茶を差し出した。
「北部鉱山の採掘権が、ヴァイスブルグ家からロートシルト家に移譲されたそうですね」
「ええ。父上も驚いていましたわ」
グレゴリーは紅茶に口をつけ、味わうように目を細めた。
「婚約破棄の一件も、噂に聞いております。ヴァイスブルグ家当主が、直々に謝罪に訪れたとか」
「ええ。家格に相応しくないという理由でしたけれど」
私は愉快そうに笑う。
「でも、本当の理由をご存知なのでしょう? 枢機卿様」
グレゴリーの手が、かすかに震えた。
「アルフレッドの横領は、貴方が仕組んだものですわ」
「……何のことやら」
「北部鉱山の利権を狙って、アルフレッドに国庫からの横領を持ちかけたのは貴方。そして彼を操って、私との婚約を破棄させようとしたのも」
グレゴリーの表情が凍り付く。
「証拠はありますの」
私は机の引き出しから一通の手紙を取り出した。
「貴方とアルフレッドのやり取りです。彼、案外大事なものを適当な場所に置いていくのね」
「まさか……!」
「そして何より」
私はゆっくりと立ち上がる。
「北部鉱山の地下に、何が埋まっているのかも知っていますわ」
「!!」
グレゴリーの顔から血の気が完全に引いた。
「古代の聖遺物。その発掘権と独占的な研究権を得れば、宗教界での貴方の立場は揺るぎないものになる...そう考えたのでしょう?」
「……お見事です」
グレゴリーは諦めたように深いため息をつく。
「確かに、私です。全ては私が仕組んだこと」
「でも、計画は失敗しましたわね」
「ええ。むしろ逆に利用されてしまった」
彼は苦々しく言った。
「あなたはアルフレッド君の裏切りを見抜き、私の計画を暴き、そして……全てを手に入れた」
私は満足げに頷いた。
「ですが、まだ終わっていませんわ」
「なにか?」
「これから、貴方には少し働いていただきます」
グレゴリーの目が大きく見開かれた。
「私たちの本当の標的のために——」