奴を消せ
川沿いのボロ小屋に、真夜中の冷たい空気が漂う中、二人の男が密かに会合を開いていた。
一人は、痩せ細ったギョロ目の男。何かに怯えたようにキョロキョロと周囲を見回し、その落ち着かない様子が不安感を漂わせている。
そして、もう一人は異様な存在感を放つ、全身がメタリックシルバーの男だった。
サングラス越しの目には狂気じみた光が宿り、細身のギョロ目の男を見下ろすかのように静かに立っている。シルバーのボディが月光に照らされ、不気味に光る。
痩せた男は、怯えるように後退りしながら、声を潜めて問いかけた。
「……依頼を受けてくれるのか?」
シルバーメタリックの男は、微動だにせず、冷酷な笑みを浮かべてうなずいた。
「もちろんさ。だがお前次第だぜ。」
ギョロ目の男は、手元から一枚の写真を取り出した。
震える手でそれをメタリックシルバーの男、ヴァイに差し出す。写真には、目標と思しき人物が写っていた。
外では、深夜の静けさを破るようにカエルの鳴き声が響き渡り、不気味な空気をさらに盛り上げる。
ギョロ目の男が持つバッテリー式の懐中電灯が、ヴァイの全身を不気味に照らし出していた。シルバーのボディに反射した光はギラギラと光り、ヴァイの狂気じみた笑みを際立たせる。
ヴァイは写真を受け取り、ちらりと目を通すと、ニヤリと口角を上げて男を見つめる。
ギョロ目の男は震えながら写真を指差し、説明を始めた。
「写真の……右の男を消して欲しい。」
ヴァイはそれを聞いて不敵な笑みを浮かべ、男を見下ろすように言った。
「で、いくら出せるんだ?」
ギョロ目の男は言葉に詰まり、顔を伏せたまま黙り込む。
雨上がりの湿気と川沿いの生臭い空気が小屋の中に漂い、重い沈黙が二人の間を支配する。
男は怯えた目でヴァイを見つめ返すが、ヴァイは一切の表情を変えず、待つように黙っている。その眼差しに押されるようにして、ギョロ目の男はやっとの思いで口を開いた。
「い、一万円」
ギョロ目の男が震える声で言うと、ヴァイの顔に驚愕の色が浮かんだ。
「ええええぇええぇ!?」
その瞬間、外から鳥が飛び去る羽音が響き、夜の静寂が一層際立つ。
ヴァイは一瞬黙り込むが、次の瞬間、堪えきれないかのように笑みを浮かべている。
ギョロ目の男は不安げにヴァイの顔を見つめ、何かを言おうとするが言葉が出ない。小屋の中に漂う空気は、もはや不穏というよりも異様な緊張感に包まれていた。
それからしばらくの月日が経ったある日、ギョロ目の男がいつものようにアパートの郵便受けを確認すると、見慣れない封筒が入っていた。
——差出人不明
不安が胸をよぎる。
男は封筒を手に取り、周囲を警戒しながら部屋へと急ぎ戻った。
そして、テーブルの上に封筒を置き、じっとそれを見つめる。開けるべきか否か、男はしばらく迷っていたが、意を決してそっと封を切る。
封筒の中に入っていたのは、たった一枚の写真だった。
——あの時、ヴァイに見せた写真だ。
「あっ……」
男はその写真を凝視した。
写真の右の男が、見事に消えている。
背景は綺麗に差し替えられ、まるで最初からそこには誰もいなかったかのようだ。余計な跡もなく、自然な仕上がりになっている。あまりにも完璧で、思わずため息が漏れた。
「そりゃぁ、一万円だしなぁ〜」
ギョロ目の男は、呆れと苦笑が入り混じった顔で写真を見つめた。
消えたのは物理的な存在ではなく、ただのデジタル処理の結果だったのだ。驚きと脱力感が一気に襲ってきたが、それでもどこかホッとしている自分に気づき、男は封筒を静かに机の上に置いた。




