表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/724

開けろ!開けてくれ!

 



 ——ゴンゴン!




 雨が降りしきる夜、騎士団の一人が重い扉を力強く叩いていた。




「騎士団だ!」




 外からは、嵐に紛れて足音がかすかに聞こえる。おそらく住人が玄関へと近づいているのだろう。団員は苛立ちを募らせ、再び拳を扉に叩きつける。


「おい!開けろ!」


 雨がさらに激しさを増し、彼の鎧には無数の水滴が叩きつけられる。


 握りしめた紙には罪状が書かれており、彼はそれを無意識にぐしゃぐしゃに握りつぶしていた。湿った紙からは、嵐の冷たさ以上に、団員の怒りと焦りが伝わってくる。


 彼は、紙を握りしめる手に力を込め、再び扉を叩いた。


 扉の向こうから、どこか優雅で落ち着いた声が響いた。




「どなたですの〜?」




 団員はさらに苛立ちを隠せず、怒鳴り返す。




「騎士団だ!開けろ!早くしろ!」




 その言葉に反応がないまま、団員はますます強く扉を叩きつける。




 ——ドンドンドン!




 雨はますます激しくなり、騎士団員の鎧を濡らして冷やしていく。その冷たさとは裏腹に、彼の内側には不安と焦燥が募り、じっと待つのを許さない。


 扉の向こうから、信じがたい返答が返ってきた。




「え〜?私は騎士団じゃありませんわよ〜」




 団員は一瞬、言葉を失い、呆気にとられた。しかしすぐに我に返り、強い口調で応じる。




「違う!お前じゃない!俺が騎士団だ!早く開けろ!」




 ——バンバン!




 彼が再び拳を叩きつけた瞬間、遠くで雷鳴が轟いた。


 雨はさらに勢いを増し、騎士団員の声がかき消されるようだ。


 通りすがりの市民たちは、騒ぎに気づきつつも、冷たい雨を避けるように足早に立ち去っていく。団員はその場に取り残され、焦りと苛立ちで拳を握りしめる。




「おい!聞いてるのか!?早く開けるんだ!」




 しかし、扉の向こうからの応答はない。団員の中に不安が徐々に広がっていく。


 扉の向こうから、相変わらずの間延びした声が響いてくる。




「え?どちらさんですの〜?」




 団員は怒りを押さえきれず、拳で扉を強く叩きつけ、声を張り上げた。


 ——ドンドン!ガンガン!


「騎士団だ!いい加減にしろ!開けろ!」


 すると、再びのんびりとした返答が返ってくる。




「え?なんて?」




 団員は大きく息を吸い込み、さらに強く怒鳴る。




「き・し・だ・ん、だ!騎士団!」




 彼の声と共に、拳が扉をドンドン!ガンガン!と叩き続けるが、返事はなく、ただ嵐の音が重たく耳に響くばかり。団員は苛立ちを押し殺しながら、雨に濡れた拳を再び振り上げた。


 団員はついに懇願するように声を震わせた。




「たのむ!開けてくれ!それだけでいいから!あとは何もしないから!開けろおおお!」




 しかし、扉の向こうから返ってきたのは、相変わらずののんびりとした間延びした声だった。




「え〜?……どちらさんですの〜?」




 団員は怒りと焦りで声を限りに叫ぶ。




「騎士団だああああああぁああぁ!」




 その声に合わせて、団員は扉を激しく叩きつける。


 ——ガコンガコン!


 しかし、返事はまたしても曖昧なもの。嵐は一層激しさを増し、通りはほとんど無人に。彼の叫びと扉を叩く音だけが虚しく響き続けていた。


 扉の向こうから、再びのんびりとした声が響く。




「でもここは騎士団じゃありませんわよ〜!」




 その言葉に団員はついに堪忍袋の緒が切れたかのように叫んだ。




「違うううううぅ!お前じゃねええ!俺が騎士団だあああ!俺が騎士団から来たんだ!」




 彼の声が嵐の中に消されることなく、あたりに響き渡る。しかし、扉の向こうからの返事はない。団員の叫びが虚しく反響し、雨音だけが強まる中、彼は一人、ずぶ濡れのまま扉の前に立ち尽くしていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ