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ネタ・アソート

 ついに、魔王との最終決戦の時が来た。勇者たちは、魔王が放った邪悪なダークスライムを難なく一蹴し、ついに魔王を追い詰めた。


「……我輩を追い詰めたつもりか」


 魔王は低い声でそう言い放ち、赤い瞳を鋭く光らせた。


 しかし、勇者は剣を握りしめ、余裕を崩さない。


「その通りだ。これが冗談とでも?」


 勇者の言葉に魔王は口元を歪め、ニヤリと笑った。


「フン、貴様らごときに我輩が屈すると思うな……。だが、よかろう。真の力を見せてやろうではないか!」


 魔王は手を掲げると、闇の魔力が溢れ出し、周囲を暗闇に包み込む。勇者たちはその圧倒的な魔力の波動を感じながらも、覚悟を決めて立ち向かう準備をした。決戦の行方は、果たして――。




 突然、ドアが勢いよく開いた!




「あのおおぉ!ピザの配達なんですけどぉ!」




 現れたのは、ピザ店員の帽子を被ったエリシア。片手にピザの箱を持ち、部屋に向かって元気よく叫ぶ。だが、当然ながら、誰もそんなものを頼んでいない。


 魔王が鋭い目でエリシアを睨みつける。


「何者だ貴様!新手の人間か!?」


 しかし、エリシアは魔王の言葉などまったく聞いていない様子で、ピザの箱を掲げたまま堂々と部屋に入ってくる。




 その瞬間――


 ——ズルッ!




 床に転がっていたダークスライムの残骸に足を取られ、エリシアはバランスを崩した。




 次の瞬間、彼女は華麗な片膝立ちのまま、ヌルヌルの床をスライドして、部屋の中央へと流れるように滑り込んできた。




 魔王はエリシアに目もくれず、勇者に向かってダークボールを放った!闇の魔力が凝縮された球体が猛スピードで勇者に迫る。




 その横で、エリシアはなんとか立ち上がろうとするが、足元のスライムのせいで滑ってしまい、両足が完全に開脚状態に!




 ——バギャッ!




 見事な開脚とともに、エリシアが持っていたピザの箱が空中に舞い上がり、魔王の顔面に直撃!




「うお!」




 思わぬピザの襲撃に、魔王の集中が乱れ、放たれたダークボールは勇者を外れ、真上のシャンデリアに向かって飛んでいく。




 ——ガシャァン!




 シャンデリアが砕け散り、破片が部屋中に飛び散った。魔王も勇者も、エリシアの予期せぬ介入に困惑しつつ、場のカオスな状況に巻き込まれていく。


 エリシアは、開脚状態から地面を這いつくばるようにして、なんとか姿勢を元に戻そうとする。


 しかし、さっきの衝撃で骨盤あたりを痛めたのか、歩き方がガニ股になってしまい、ヨタヨタとふらつきながら進み始めた。


 その間に、魔王は顔に貼り付いたピザを無造作に剥がし、地面に投げ捨てた。


「ふんっ!他愛もない!」


 しかし、その瞬間、武闘家が叫んだ。


「喰らえ!無限の舞!」


 武闘家は目にも止まらぬ速さで演舞を繰り出す。無数のフェイントと攻防を織り交ぜた、その技はまさに究極の攻撃だった。しかし――




 ——ズルッ!




 魔王が投げ捨てたピザで、武闘家の足元が滑った!




「ああああぁ!」




 その勢いで、武闘家は見事に開脚し、床に転がった。


 立ち上がるものの、明らかに骨盤を痛めたようで、エリシアと同じくヨタヨタとした歩き方で、痛みを押し殺しながら魔王に立ち向かう。


 その奇妙な光景に、場の緊張感はどこか崩れ、魔王ですら呆然と二人を見ていた。




 エリシアは、何事もなかったかのように、料金を請求することもなくヨタヨタと出口に向かい始めた。そのガニ股のまま、堂々と去っていく彼女の背中を見送りながら、魔王と勇者たちはしばらく呆然と立ち尽くしていた。




「……何だったんだ、あいつは」




 魔王がポツリと呟く。勇者たちも言葉を失い、その場に不安と困惑が漂う中、緊張の糸が切れたように戦意を喪失してしまった。




 そして――この後、勇者たちは普通に全滅した。






********************






 エリシアは、取り調べ室でゴブリンを睨みつけ、ライトを強く当てていた。狭い部屋には、緊張感が満ちている。




「じゃあ勝手に金貨があなたのポケットに飛んでいったっていうんですの!?あ゛ぁん!?」




 ゴブリンは冷や汗を浮かべ、目をそらしながら必死に言い訳を続ける。


「い、いやぁ……!オレがやったんじゃなくて、その……気づいたら、ポケットの中に入ってたっていうか……。」


 エリシアは更にライトをゴブリンに向け、まるで手を緩める気配はない。


「あら、そうですの?じゃあ、次はその指輪のことも説明してもらえますのねぇ?」


 ゴブリンはしどろもどろになりながらも、エリシアの厳しい視線に動けず、言い逃れはもはや通用しないと観念し始めていた。




 エリシアはZIPPOで葉巻に火をつけると、ふっと大きく吸い込み、ゴブリンに向けて煙を吹きかけた。




「いいかげん、認めなすって。」


 ゴブリンは怯えた様子で叫ぶ。


「俺はやってねえよおぉ!」




 エリシアは冷笑を浮かべながら、ジュッと音を立てて、葉巻の熱い先端をゴブリンの首に押しつけた。




「あっつううう!あああぁ!」


 ゴブリンは身をよじらせ、叫び声を上げた。


 エリシアの手は一切ぶれることなく、冷酷なまでの態度を崩さずに続ける。プレッシャーはどんどん強まり、ゴブリンの嘘が一つ、また一つと暴かれていく。




 突然、取り調べ室のドアが開かれ、一人の男が入ってきた。




「どうも!弁護士です!」




 国選弁護士と名乗るその男は、四角いメガネをクイッと上げ、にこやかに登場した。


 ゴブリンは、待ってましたとばかりにエリシアを指差し、声を張り上げる。


「弁護士さん!この人めちゃくちゃですよおお!」


 弁護士は状況を一瞬で理解し、すぐにエリシアに向き直る。


「ふむ……エリシアさん、これは少しばかり問題がありそうですねぇ。」


 エリシアは涼しげな表情のまま、弁護士の方に視線を移す。


「あら、問題ですの?」


 部屋には新たな緊張感が漂い始めた。


 ゴブリンは必死に訴えた。




「この人、葉巻を俺の首に当てたんですよ!火傷の跡だって、見てくださいよ!」




 弁護士はクワッと表情を変え、少し芝居がかったように、真剣な表情を作る。




「むむむ〜!」




 そして、大げさな声でエリシアに向かって言い放った。




「それはいけません!やめてください!」




 その反応に、エリシアは失笑し、ゴブリンは口をぽかんと開けた。


「いやいや、じゃなくて!ほんとに火傷してるんですよ!」


 ゴブリンは火傷の跡を指差し、弁護士に見せようとするが、弁護士は相変わらず頼りない様子で、状況を飲み込むのに時間がかかっているようだった。




 エリシアは、冷笑を浮かべながらゴブリンに向かって言葉を浴びせた。




「刑務所はあったかいですわよぉ〜。ご飯も3食ついて、ねぇ〜」




 ゴブリンの動揺を見て取り、エリシアはさらに舐め回すような視線を送って煽る。そして、まさかの行動に出た。




 ——ペロッ。




 なんと、エリシアがゴブリンの耳を舐めたのだ。しかし、途端に顔を顰めて叫ぶ。


「ゔぉえ!」


 次の瞬間、エリシアはスタンドライトを掴み、ゴブリンに叩きつけた。


「まずいですわねぇ!お前の耳!」




 ——パコン!




 音が響き渡り、ゴブリンはたまらず叫び声を上げた。取り調べはもはや尋問どころか、エリシアの独壇場となり、ゴブリンはその場で震え上がるしかなかった。


 ゴブリンは限界を超え、必死に叫んだ。




「弁護士さん!助けて!暴力だあああ!こんな取り調べ許されるか!」




 すると、弁護士はついに重い腰を上げて立ち上がった!




「刑事さん!それはいけませんよ!やめてください!」




 その一言を放つと、何事もなかったかのようにすぐに座り直した。




「……」

「……」




 ゴブリンと弁護士は、ただその場で呆然と無言のまま見つめ合う。弁護士の曖昧な対応に、空気は一層緊迫したものの、なんとも言えない虚無感が漂った。






********************






 若き魔術師は、偶然にも禁じられた魔法書を発見し、その重厚な表紙を慎重に開いた。




 その書物には「全てを知る者」が封じ込められており、一度だけどんな質問にも答えてくれると言われている。




 ——しかし、開いた瞬間に現れたのは、なぜかエリシアだった。




「……」

「……」




 魔術師は戸惑いながら声を絞り出した。




「だ、誰!?」




 エリシアは優雅に髪をかき上げ、微笑む。




「私はエリシアですわね〜。」




 魔術師はさらに困惑し、言葉を失った。




「……」




 エリシアは涼しげな顔で続けた。




「質問にはお答えしましたわよ。じゃ、この辺で。」


 魔術師は必死に本を掴み直し、口をぱくぱくと開閉させた。


「え、えええぇ!?ちょ、おま……、え、えええぇ?」




 その混乱をよそに、エリシアはふっと姿を消し、魔術師は取り残されたまま、本を呆然と見つめるのだった。



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