川越支部の掟
悪の組織川越支部。今日はいつもの冷たい緊張感が、どこか微妙に薄れていた。
なぜなら、ボスが幹部会議のため不在だったのだ。
そんな中、代行として指名されたのは――エリシア。
エリシアはいつも通り優雅にその役割をこなしていた。
彼女は支部の中央に座り、さまざまな命令を下していたが、今日は買い物を部下に任せていた。
「エリシア様ぁ〜、買ってきましたよぉ〜!」
一人の部下が袋を手に、嬉しそうに報告に駆け寄ってきた。
彼はエリシアに頼まれたビールを、ほとんど誇らしげに差し出した。
だが、次の瞬間、エリシアの表情は凍りつき、優雅な顔つきが一瞬で険しいものに変わった。
「ちょっと!私がビールって言ったら、アビスビールでしょ!?」
部下が買ってきたのは発泡酒。
エリシアはそのパッケージを睨みつけ、怒りを抑えきれずに声を張り上げた。
「これは何ですの!?私が発泡酒なんて飲むと思ってますの!?」
部下は慌てて頭を下げ、震えながら謝罪するしかなかった。
エリシアは再び部下に指示を出した。
今度の任務は――トイレットペーパーの購入だ。
「エリシア様ッ!買ってまいりましたッ!」
部下が誇らしげに袋を持って戻ってくる。
彼は敬意を込めて袋をエリシアに差し出した。
エリシアはそれを受け取り、軽く頷いて袋の中をガサゴソと探る。
だが、その瞬間、彼女の顔に怒りが浮かんだ。
「ちょっとぉお!私がトイペって言ったら、ダブルロール(香り付き)でしょ!?」
彼女は袋からシングルロールの無香料トイレットペーパーを取り出し、部下に突きつけた。怒りの火花がその場に散ったような気配が漂う。
「これじゃあ足りませんの!どうしてわからないの!?トイレットペーパーと言えばダブルロールで、しかも香り付き!それが常識ですわ!」
部下は顔を真っ青にして震えながら頭を下げた。
今度はエリシアが部下にシャンプーを買ってくるように命じた。
「エリシア殿!買ってきましたぞ!」
意気揚々と部下が袋を手に戻ってきた。
エリシアは期待半分、不安半分で袋を手に取ると、中を確認するためにガサゴソと手を突っ込んだ。
しかし――
「ちょっと!私がシャンプーって言ったら、「専門店E-SOAP」でしょ!?」
彼女は袋から一般的なスーパーのシャンプーを引っ張り出し、不満げに部下を睨みつけた。香りも手触りも、エリシアが愛用するものとは程遠い。
「私の髪にそんな量産品を使うと思ってますの!?」
部下はその視線にたじろぎ、慌てて手を合わせながら深く頭を下げた。
「申し訳ありません、エリシア様!専門店のことをすっかり忘れていました!次こそ、E-SOAPのシャンプーを!」
エリシアは再び溜息をつき、やや呆れたように言い放つ。
「まったく…この髪は手入れが命なのですわよ。次こそ頼みましたわ。」




