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レストラン

 エリシアは、見習いウェイターとして高級レストランで働くことになったが、まさか自分がこんな役目を負うとは思ってもいなかった。




 ある晩、エリシアが料理を運んだテーブルの客が、特にステーキのソースを賞賛し始めた。




「このステーキのソース、素晴らしいです!一体、なんのソースを使っているのか教えてもらえますか?」




 エリシアは一瞬で焦りの汗がにじんだ。


 彼女は料理については詳しくないし、シェフの意図など知るはずもない。笑顔を保ちながら、なんとか場を取り繕うために客に頭を下げた。




「少々お待ちくださいませ。すぐにシェフを呼んでまいりますわ。」




 彼女は急いで厨房に向かい、シェフの肩を叩いた。




「シェフ!あのお客様がステーキのソースについてお尋ねですわ!」




 シェフは面倒くさそうに顔をしかめた。


「なんのソース?そんなもん、知らんがな!」




 エリシアはさらに焦り、声をひそめながら尋ねた。


「知らんって……あなたが作ったんでしょ!?一体どういうソースなんですの?」




 シェフはさらに顔をしかめながら答えた。


「テキトーに掛けただけやがな!どないしたらええねん!」




 エリシアは内心で頭を抱えつつも、客の不審がらないようにしなければならないと思い、シェフに問い詰めた。




「何か、それっぽく言いなさいな!お客様に失礼ですわよ!」




 シェフはしぶしぶ思い出すように呟いた。


「……イン。白い……わ、ワインやね……」




 エリシアはシェフの言葉を受けて、一瞬だけ微笑みを浮かべると、客のもとへと戻った。




「お待たせいたしました。このソースはですね、シェフ特製の……白ワインを使ったソースでございます。」




 客は納得したように頷き、微笑んだ。




 エリシアと料理長が並んで立ち、客に向かって作り笑顔を浮かべていた。客はエリシアの説明に興味を示しつつ、ふとソースの色に気がついた。




「へぇ、白ワインでもこんな色のソースになるんですね?」




 その言葉にエリシアはギクリとし、心臓が跳ね上がった。すぐにその場を取り繕おうとしたが、もう我慢ができず、口を開いた。




「ち、違いますわ!白ワインじゃねえですの!?あ、いえ……」




 料理長がすかさずエリシアの言葉を遮るように囁いた。




「うっさいわ!あんま大きい声出すな!」




 二人はお互いに睨み合い、料理長が焦りの汗をかきながら、エリシアに向かって小声で続けた。




「お前が余計なこと言わんかったら、何も問題ないやろが!」




 エリシアは冷静になろうとしつつも、再び笑顔を作り直し、客に向かって頭を下げた。




「失礼いたしました、あの……お口に合えば何よりですわ。」




 客は二人のやり取りを見つつも、あえて突っ込むことなく、ただ微笑んで頷いた。エリシアと料理長はなんとかその場を乗り切ったが、二人とも心の中で冷や汗を流していた。


 客がふと興味深げに尋ねた。




「ところで、このステーキの材料は何ですか?」




 その言葉にエリシアと料理長は顔を見合わせ、次の瞬間、二人は物陰に隠れるようにして小声で言い争いを始めた。




「お前が説明しろや!」


「いやいや、お前が言えや!お前が作ったんやろ!」




 二人は焦りながらお互いに責任を押し付け合っていたが、やがてエリシアが観念して料理長をちらりと見た。




「……わ、ワニ……」




 エリシアが半ば疑問形で答えると、料理長はすかさず口を挟んだ。




「あぁ、いや、羊……!」


「羊やねん!そう!羊やねん!」




 料理長が無理やり話を合わせたが、二人の声には明らかな焦りが滲んでいた。


 客が驚いた様子でエリシアと料理長を見つめた。




「羊の肉ですか!?」




 その言葉に二人は再び目を見合わせ、エリシアが焦りながらもなんとか言い返した。




「やっぱ違うやんけ!」


 料理長も負けじと声を上げる。




「分かるわけないですわ!あんたが仕入れたんでしょ!?」




 料理長は少しイライラしながら答える。


「冷蔵庫に入れたんお前やがな!」




 二人はお互いに責任を押し付け合い、ますます焦りを募らせていた。




 お会計の時間になり、エリシアは焦りながら料理長に尋ねた。




「いくらですの!?」




 料理長は無関心そうに肩をすくめながら答えた。


「知らんわ、メニュー見たらええやんけ。」




 エリシアは苛立ちながら、料理長に食ってかかった。


「こいつが、どれ頼んだかなんて知りませんの!」




 料理長はエリシアを睨み返し、少し声を荒げる。


「覚えとけや!」




 二人の口論が続く中、客は困惑しながらも黙ってその様子を見守っていた。




 エリシアは急に落ち着きを取り戻し、客に向かって微笑みながら言った。


「2000Gでございますわ。」




 客は驚いて声を上げた。


「え、やっす!?じゃあ10000Gからで。」




「ちょ、お釣りくださいまし。」




 エリシアが慌てて言うと、料理長は無愛想に答えた。


「あらへんがな。」




 エリシアは小声で料理長に詰め寄り、二人は物陰で揉み合い始めた。エリシアは必死に料理長のポケットから財布を引っ張り出し、お札を取り出すと、無理やりそのまま客にお釣りを渡した。




 客が1000G足りないことに気づき、不機嫌そうに声を上げた。




「あれ?足りないんですけど」




 エリシアは目を細め、料理長に向かって手を差し出した。


「もっかい財布よこしやがれ!」




 料理長は渋々と財布を渡した。エリシアは無言で財布をひったくると、客の目の前で10Gや100Gの小銭を皿の上にボトボトと落としていく。




 料理長が焦った声でささやいた。


「おい、客の前やぞ!」




 エリシアはため息をついて答えた。


「ええねんもう!」




 料理長はイライラしながら反論した。


「てか何で俺が出さなあかんねん!」




 エリシアは財布から出てきたしわくちゃのお札を見て、眉をひそめた。


「てめえのお札、ぐしゃぐしゃですわ!ピン札は!?」




 料理長は不機嫌そうに答えた。


「あるわけないやろ、こら!」




 客がふと思い出したように言った。




「そういえば、ワインも頼んだんですけど…」




 エリシアと料理長はすぐさま物陰で小声で言い争い始めた。




「ワインなんぼやねん!?」

「知りませんわ!」

「値段見とけや!」




「あぁ!?何でそんな偉そうに言われなあきまへんの!?」




 エリシアは冷静を装い、客に向かって告げた。




「5万Gですわ!」

「えぇ〜!?」




 客は転げ落ちそうになった。




 再び二人は物陰でヒソヒソと激しい口論を続ける。




「絶対違うやんけ!」

「知りませんわよ!」


「なんぼや!?」

「いくらですの!?」




 エリシアは最後にしぶしぶ答えた。




「ひゃ、150Gですわ」




「やっす!」と客は驚きながらもビビりつつ会計を済ませた。

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