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ネタ・アソート

 エリシアは、その日「エジプト展覧会」に足を運んでいた。


 展示会場の入り口で、彼女は自分の金髪を優雅にかき上げ、冷ややかな目で辺りを見回した。


「ふむ…エジプトですって?古代文明の魅力に触れに来たつもりでしたけれど、どれほどのものかしら?」


 彼女の視線は、スフィンクスやファラオの像、黄金に輝くマスクなどに注がれる。


 周りの人々が興奮気味に展示を見ている中、エリシアはどこか冷淡な表情を保っていた。展示物に見せられることもなく、彼女はゆっくりと進んでいった。


「この彫刻、まぁまぁですわね。黄金のマスクも、思ったよりも小さいですこと。ふふ、私が装った方が、もっと価値が出るんじゃなくて?」


 さらに、ミイラが展示された場所に到達すると、エリシアは一瞬だけ立ち止まった。


 彼女の目がわずかに輝いたように見えたが、すぐにその冷静さを取り戻した。


「ミイラ…?ただの古い包帯ですわね。これがどうして何千年も崇められているのか、私には理解できませんわ。ふふ、私なら、もう少し見応えのあるものを創造して差し上げられますのに。」




 エリシアは「エジプト展覧会」の目玉であるファラオの棺の前に立っていた。




 黄金に輝く棺には複雑な模様と古代のシンボルが彫り込まれており、展示会の中でも一際注目を集めている。


「ふむ、これが噂のファラオの棺ですのね…まあ、見る価値はあるかもしれませんわ。」


 そう思っていた矢先、突然、背後から異様な叫び声が響いた。






「お久しゅうございますうううぅ!我が王ぉお!うおおぉ!」






 その声は、悲嘆に暮れるかのように泣き叫ぶもので、エリシアは驚いて振り返った。


 すると、一人の男性が棺の前で膝をつき、涙を流しながら叫んでいたのだ。彼の声は感情に溢れ、まるで本物のファラオに再会したかのようだった。




「え、まじ?」




 エリシアは困惑した表情を浮かべ、思わずつぶやいた。


 その男性はまるで誰にも止められないかのように、ファラオの棺に向かって感情を爆発させ続けた。




「うっそおぉん……え、何年前ですの……」




 エリシアは完全に状況についていけていない。


 ファラオが蘇ったわけでもなければ、目の前で泣き叫ぶこの男が何者なのかもわからない。彼女の目がしばし虚空を見つめる。


 しかし、男性はそんなエリシアの困惑を全く気にせず、さらに感情を高ぶらせた。






「我が王!私がいない間に、こんなお姿にいいイィ!」






 彼は棺を見つめながら泣き崩れ、崇拝と後悔の入り混じった声で絶叫していた。エリシアはその光景をただ見つめ、何も言えずに呆然と立ち尽くした。



**********




 エリシアはいつものように、近所のコンビニで買い物をしていた。


 棚から商品を選びながら、ふと耳に入ってきたのは店内のスピーカーから流れるCMだった。




「令和帝国大学のここが凄い!」




 エリシアは最初、その言葉を聞き流していたが、次の瞬間、彼女の耳がピクリと反応した。




「実学の総合大学!」

「……?」




 エリシアは少し眉を上げ、興味を持ち始める。




「4つのキャンパス!」

「おぉ……」




 少し感嘆の声を漏らし、耳を澄ます。




「健康、医療、スポーツ、経済学など幅広い学問を学べる!」

「おお!」




彼女の目が輝き始める。




「全国有数の難関試験合格者第一位!」

「うおおおおっ!」




 エリシアは思わず拳を握りしめ、興奮の色を隠せない。




「帝国魂ィッ!」

「すげえですわ!願書出さなきゃ!」




 その瞬間、エリシアは決意を固め、レジに向かうことも忘れ、胸を高鳴らせて店を出た。


 ——そして後日、彼女は意気揚々と令和帝国大学の受付に願書を提出しに行った。


 だが、そこで待ち受けていたのは予想もしなかった一言だった。




「あの…住民票が必要ですが、お持ちですか?」




 エリシアは、ハッとした。彼女には「住民票」がなかったのだ。なぜなら、そもそもこの国の住民ではなかったからだ。


「……無理ですね。」


 受付の担当者は申し訳なさそうに頭を下げる。


 エリシアはがっかりした表情でその場を後にした。


「ちぇ……。」


 彼女は一言つぶやきながら、トボトボと歩き去っていった。




**********




 エリシアは、ベテラン歌手とタッグを組み、歌唱コンクールを目指していた。

 



 曲目は、アニメ「あわびさん」に登場するキャラクター「ノリよし」のテーマソングだった。




 練習スタジオで、ベテラン歌手がエリシアに指導をしていた。


「エリシアさん、この曲は、音の一つ一つを丁寧に歌うことが大事です。感情を込めて、しっかりと表現してみてください。」


 歌手は深い息を吸い、丁寧に声を出しながら、曲の冒頭を歌ってみせた。




「——テロレロレン♪テロレロレン♪テロレロ、テンテンテン♪」




 彼女の声はまさにプロのものだった。

 優雅で正確、音の一つ一つが響き渡る。


 しかし、エリシアはその歌詞にやや困惑した表情を浮かべた。


「ずいぶん変わった歌詞ですわね。これが本当にコンクール向きなのですの?」


 エリシアは首を傾げながら、曲の奇妙さを指摘したが、歌手は微笑みながら首を振った。


「エリシアさん、この曲は見た目以上に深いのです。ノリよしのテーマは、キャラクターの内面を音で表現しているんです。テロレロレン♪の部分は、彼の成長と迷いを表しているんですよ。」


 エリシアは目を見開いて、再び歌詞を頭の中で繰り返した。


「ふむ…そういうことなら、挑戦する価値はありそうですわね。私の声でこの曲を完璧に仕上げてみせますわ!」


 意気込むエリシアに、ベテラン歌手は笑顔で頷いた。




 次はエリシアの番だった。自信満々で、彼女はステージに立つように姿勢を正し、歌い始めた。






「テロレェエエン!テロレェン!テロレエェン!」






 だが、音が全て大げさで、どこか誇張されている。


 それだけでなく、巻き舌を使ってしまい、歌詞の「テロレロレン」がすべて奇妙にグチャッとした響きになってしまっていた。


 ベテラン歌手は顔をしかめながら、すぐに制止した。


「違う違う!もう一回、ちゃんと歌いますよ!」


 ベテラン歌手はもう一度模範を示すために、優しく柔らかい声で歌い直した。




「——テロレロレン♪テロレロレン♪テロレロ、テンテンテン♪」




 音は軽やかで、言葉が一つ一つ丁寧に響いている。エリシアはそれを聞き、再度挑戦しようとする。




「テレレェン!テロェン!」




 再び、彼女は見事な巻き舌で「テロレロレン」を全てグチャァっとした音に変えてしまった。音の一つ一つが不自然に強調され、全体が乱れてしまう。


 ベテラン歌手は頭を抱えながら、深い溜息をついた。


「エリシアさん、素敵な声ですが…どうしてそこまで巻き舌を強調するんですか…?」




 ベテラン歌手は頭を抱えた後、深呼吸をして冷静にエリシアにアドバイスした。


「エリシアさん、一音ずつ丁寧に行きましょう。焦らなくていいです。」


 彼は少しゆっくりと、明瞭に発音してみせた。




「テ・ロ・レ・ロ・レ・ン。」




 言葉を一つ一つ区切りながら、慎重に歌う。


 エリシアはその様子を真剣に見つめ、もう一度チャレンジしようとした。


「テ・ロ・レ・ロ・レ・ン。」


 今度は少し緊張しながらも、指示通り一音ずつ区切って歌った。巻き舌も抑え、音が明瞭に響く。


 ベテラン歌手は軽く頷き、微笑んだ。


「そう!それです。それでいいんですよ。完璧に近いです!」


 エリシアは少し得意げに胸を張りながら、うっすらと笑みを浮かべた。


「当然ですわ!私にできないことなどありませんの!」


 彼女は一瞬、余裕の笑みを見せながらも、次の挑戦に向けて気を引き締めるように姿勢を整えた。




 そして、迎えた本番当日。二人の練習の成果が試される日がやってきた。




 会場は満員で、拍手の音が静まり、ステージ上には緊張感が漂っていた。エリシアとベテラン歌手が舞台中央に立ち、スポットライトが二人を照らす。


 ベテラン歌手は静かに息を吸い込み、準備を整える。エリシアも自信満々に微笑みながら、歌う瞬間を待っていた。


 そして――




「テロレロレ――」


 ベテラン歌手が滑らかに歌い出す。美しい声が響き渡る中、エリシアも自分のパートに入る。






「テレェエン!テルオッレェン!」






 突然、巻き舌と大げさな音が戻ってきた。それも、練習前よりさらに酷く、彼女の声がステージ全体を覆い尽くす。


「いや、なんでやねん!」


 ベテラン歌手は心の中で叫んだが、何も言わずに歌を続けるしかなかった。


 だが、結果は明白だった。審査員たちの顔は困惑に包まれ、観客もどこか微妙な空気に包まれたまま、曲は無情に終わった。


 結果、予選敗退。


 エリシアは信じられないという表情でステージを去り、静まり返る舞台には拍手の音もなかった。

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