がんばれ!ドルイド君!
魔王城の昼下がり。
空調の低い唸りだけが響くリフレッシュルームに、いつもの二人。
「僕は大人だから、苦いコーヒーも飲めるぅ〜んだ!」
唐突な宣言とともに、ドルイド君はカップを掴み、やけに堂々とした動きでポットからお湯を注いだ。
湯気がもくもくと立ちのぼる。
粉は多め、砂糖もミルクも——なし。
「……」
エリシア、ポカーン。
まるで未知の儀式を見せられたかのような顔で、ただ見つめている。
ドルイド君はその視線を意識しているのか、わざとゆっくりとカップを口元へ。
そして言った。
「見てて欲しい〜んだ……飲むぅ〜んだ……」
「……」
静寂。
湯気の向こうで、彼は思い切り口をつけた。
――じゅっ。
「あっつ……アツ……!」
「……」
「あちち!……あっち!……あつ!」
「……」
魔王城の静かな午後に、情けない声が三拍子で響く。
エリシアは目を細め、煙草を咥えた。
*
魔王城の食堂。
時刻は12時5分。昼のピーク直前。
職員たちは丼物コーナーへと列を作り、湯気と香辛料の匂いが漂っていた。
トレーを手にした魔族も人間も、皆どこか戦場のような顔をしている。
そんなざわめきの中――
「僕は……僕は辛いカレーだって食べれるぅ〜んだ!」
唐突に響く高らかな声。
振り返ると、トレーを掲げたドルイド君が登場。
その向かいには、すでに席を確保していたエリシア。
「……?」
ポカーンとするエリシア。
いつもは「甘口」一択の男が、今日に限って中辛をチョイス。
やたらと勝負の顔をしている。
「僕だって……辛いカレー……食べるぅ〜んだ!」
「……」
スプーンを握り、気合いとともに口へ運ぶ。
一口、二口。
「あちち!……あっつ……あちっ!」
「……」
「あち!……あっつ……」
「……」
そもそも、出来立ての熱ささえも通過できないドルイド君だった




