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スーパーマーケット

 エリシアがスーパーマーケットを立ち上げたというニュースは、街中で話題になっていた。


 彼女は独自の奇妙な施策を次々と打ち出し、訪れる客たちを驚かせていた。




 店内を歩くと、まず目に飛び込んでくるのは、派手に貼られたシールの数々。


 しかし、それは誰もが期待する「半額」シールではなく、大きな字で「全額」と書かれたシールだった。


 どの商品にもこの「全額」シールが貼られており、割引を期待していた客たちは目を丸くして驚いた。




 さらに、毎週配布される「特売」のチラシには、期待を裏切るように定価がそのまま載っていた。


 どの商品も特に値下げされておらず、客たちは困惑しながらもその奇妙な価格設定に戸惑いを隠せなかった。


「これが……ここのやり方なのか……?」


 客たちは戸惑いながらも、エリシアの奇妙なスーパーマーケットに足を運び続けた。


 彼女の施策がどこに向かうのか、誰も予想できなかったが、エリシア自身は何も気にする様子もなく、店の運営を続けていた。




 スーパーマーケットのレジに並ぶ客たちは、会計を済ませるために順番を待っていた


 ふと目をやると、レジの台に置かれた募金箱が目に留まる。


 その募金箱にはエリシアの写真が大きく貼られており、そこには奇妙なメッセージが書かれていた。




「世界では1日が24時間なんです、恵まれない私に寄付を!」




 エリシアは写真の中で、何故か哀れむような表情を浮かべ、手を差し伸べている。


 募金箱を見た客たちは、初めて見るタイプの募金活動に驚きを隠せなかった。


「……恵まれないって、どういうことだ?」


「それに、なんで1日が24時間って……?」


 客たちは戸惑いながらも、エリシアの堂々とした顔つきに圧倒され、ついつい財布を開けて小銭を募金箱に入れてしまう。


 エリシアの写真はどこかしら威圧感すら感じさせ、募金箱には次々とコインが投入されていった。


 エリシアは、どこからかその様子を見ているかのように満足げに微笑んでいるのだった。




 エリシアのスーパーマーケットには奇妙な施策が多く、その多くが戸惑いを招いていたが、中には思いのほか好評を博しているものもあった。


 例えば、レジ袋の提供だ。


 客が何も言わなくても、商品を袋に入れてくれる。袋を受け取るたび、客たちは少し驚くが、その後、レシートを見ると勝手に5円が足されていることに気づく。


 最初は奇妙に思いながらも、結局袋を頼む人が多いので、気軽に使えると評判になった。


 さらに、プラスチックのスプーンや割り箸も、買い物をすると自動的に無料で付いてくる。


 お弁当やカップラーメンを購入した客にとっては、これが非常に便利だと感じることが多かった。




 エリシアのスーパーマーケットでは、他の店とは一線を画す独特のスタイルが浸透していた。その一つが、支払い方法に関する彼女の徹底した方針だ。


 店のレジで「ポイントカードはありますか?」と聞かれることを期待していた客は、驚きの一言を浴びせられる。




「ポイントカード?めんどくせえ、いらねえですわ。」




 エリシアはいつもの自信に満ちた態度でそう言い放つ。


 どれだけ世間がキャッシュレスだの、ポイント還元だのと騒いでも、エリシアは一切それに耳を貸さない。




「カード?うちはニコニコ現金払いですわよ!」




 クレジットカードや電子マネーを出そうとする客に、エリシアは無造作に釘を刺す。


 彼女の店では現金が唯一の支払い手段だった。


 店内には、「うちはニコニコ現金払い!」という張り紙が至る所に貼られていて、客たちを強制的に現金払いに誘導していた。




 エリシアのスーパーマーケットでひと際目を引くのが、異常に安いひき肉だった。


 精肉コーナーの棚には、そのパッケージがずらりと並んでおり、目を疑うほどの低価格が大きな値札で示されていた。


 他の商品がそこそこの価格で販売されている中、このひき肉だけは驚くほど安い。


 同じ重さの米よりも安く、それを見た客たちは誰もが「おかしい」と感じずにはいられなかった。




 しかし、そのパッケージを手に取ってみると、そこには一切の情報が記載されていなかった。




 品種も生産地も、さらには原材料が何の肉であるかすらも書かれていない。パッケージの表にはただ「ひき肉」とだけシンプルに印刷されている。


「……これ、何の肉なんだろう?」


「こんなに安いのに、何の情報もないなんて、怪しすぎる……」


 客たちは不安そうにひき肉を見つめ、手に取るべきかどうかを迷う。しかし、安さに惹かれて結局カートに入れてしまう者も少なくなかった。




 エリシアのスーパーマーケットで、異常に安いひき肉を手に取った客たちは、パッケージに何の情報も記載されていないことに不安を覚え、ついにエリシアに尋ねることを決心した。




「すみません、このひき肉、何の肉なんですか?」




 エリシアはその問いかけに、表情一つ変えず、ただにっこりと微笑んだ。


 そして、両手を広げて少し大袈裟にポーズを取り、まるで舞台に立つ役者のように言い放った。






「ひき肉でぇーす!」






 何かのモノマネをしているような妙に軽い調子で、エリシアはその場を誤魔化すように答えた。


 客はその予想外の返答に戸惑いながらも、エリシアの奇妙な振る舞いに圧倒され、それ以上追及することを諦めるしかなかった。


「……ひ、ひき肉って、そういう意味じゃ……」


「はい、ひき肉ですわよ!さあ、お買い得ですわ〜!」


 エリシアは一切の詳細を語らず、軽やかに話を流してしまった。


 客たちは疑念を抱きつつも、そのまま引き下がるしかなく、結局はその謎のひき肉をカートに入れてレジに向かってしまうことが多かった。


 エリシアの店では、こうした奇妙なやり取りが日常茶飯事であり、それこそが店の特徴ともなっていた。


 客たちは不安を抱えながらも、エリシアの独特の魅力に惹かれ、再びそのスーパーマーケットを訪れるのだった。




 エリシアのスーパーマーケットは、一時期その奇抜な施策で注目を集めていた。


 しかし、その独特な運営方法が次第に問題となり、ついに閉店を余儀なくされた。




 まず、レジ袋を無料で提供したことが環境保護の観点から問題視され、多くのクレームが寄せられた。




 また、何よりも問題となったのは、異常に安いひき肉の販売方法だった。


 品種も生産地も一切記載されておらず、何の肉なのかも不明なまま販売されていたため、ついに当局の目に留まり、食肉の不適切な販売方法として営業差し止め命令が下された。




 店内がガランとしたスーパーマーケットの前で、エリシアは悔しそうに地面を蹴りながら叫んだ。




「ちくしょうですわ〜!せっかくうまくいってたのに!」




 彼女は両手を握りしめ、どうにか再開の方法を考えようとしたが、当局の厳しい監視のもと、今すぐに店を再開することは不可能だった。


 エリシアは悔しそうに天を仰ぎながら、次の奇妙なビジネスプランを練り始めるのだった。

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