失 望 ひ き 肉 工 場
薄汚い工場の中、腐ったような臭いが漂い、床には油と何かの液体が混ざり合っていた。
壁は煤で黒ずみ、天井からは漏れた水がポタポタと垂れている。機械の音と共に、どこからか悲鳴や呻き声がかすかに聞こえてくる。
ここは——。
失 望 ひ き 肉 工 場。
不衛生でずさんな管理がなされているこの場所では、過酷な労働環境が日常的に続いていた。
工場の奥では、拉致されてきたゴブリンたちが、絶望的な表情を浮かべながらコンベアから流れてくる肉の塊を無言でこねていた。その手は疲れ果て、動作は鈍く、機械的にペチペチと音を立てて肉をこね続ける。
ぺちこね……ぺちこね……
ペチペチ……コネコネ……
ペチ…… コネ……
工場内には厳しい規則があり、私語は一切許されない。
ゴブリンたちはただひたすらに作業を繰り返すだけ。誰も声を発することなく、何かを訴えることもできず、黙々と手を動かし続けていた。
彼らの顔には絶望の色が浮かび、力のない手が機械的に動き続けるだけだった。
工場内の無機質な音の中、ゴブリンたちは黙々と作業を続けていた。
しかし、一匹のゴブリンが過酷な労働と疲労に耐えきれず、うとうとと居眠りしかけていた。
彼のまぶたは重くなり、頭がゆっくりと垂れていく。
周りのゴブリンたちは、その様子に気づいていたが、誰も声を上げることはできなかった。彼らはただ、自分の身を守るために見て見ぬ振りを続けるしかなかった。
その時、工場の入り口から冷たい気配が漂ってきた。
ゴブリンたちは背筋が凍るのを感じた。鋭い足音が近づき、まもなくその原因が姿を現した。
——エリシアだ。
彼女は鋭い目つきで工場内を見渡し、居眠りしかけているゴブリンに気づくと、その方向にまっすぐに歩み寄った。
「何をしてますの？」
エリシアは鋭い声を響かせ、居眠りしていたゴブリンの前に立った。
次の瞬間、彼女は鞭を高く振り上げ、思い切りその背中に叩きつけた。
バシン！
鞭が皮膚を裂き、赤い線が走った。
ゴブリンは痛みによろめき、背中に走る激痛に悲鳴を上げそうになったが、口を押さえて必死に堪えた。エリシアの目は冷たく、容赦のない視線を向けていた。
「サボっている暇なんてありませんわよ！」
ゴブリンは震えながら、再び作業に戻り、ペチペチと手を動かし始めた。
エリシアの鞭の音が工場内に響き渡り、他のゴブリンたちはさらに沈黙を深め、ただ作業を続けるしかなかった。
工場内の暗い雰囲気の中、ゴブリンたちはただひたすらにペチペチと肉をこね続けていた。
誰もが疲労と絶望に押し潰されそうになりながらも、黙々と手を動かし続けている。
その沈黙を破るように、突然、一匹のゴブリンが作業台に拳を叩きつけ、発狂したかのように叫び始めた。
「もう耐えられねえ！こんなの地獄だ！やめてくれええぇ！」
その叫び声は工場内に響き渡り、他のゴブリンたちは驚きと恐怖で顔を強張らせた。慌てて周りのゴブリンたちが発狂した仲間を押さえつけ、必死に口を塞いだ。
「静かにしろ！お前まで巻き添えにする気か！？」
「やめろ、頼む！俺たちも危ないんだ！」
ゴブリンたちは恐怖に震えながら仲間を必死に押さえつけ、何とか事態を収拾しようとしたが、その時、冷たい声が館内に響き渡った。
「810番、810番、至急ミキサー室までお越しくださいませ」
その声が放送で告げられると、全員が息を呑んだ。
番号はさっき発狂したゴブリンのものであることは誰の目にも明らかだった。彼は蒼白な顔で立ち上がり、足元が震えるのを感じながら、ミキサー室へと向かわざるを得なかった。
ゴブリンたちは誰も何も言わず、ただ自分の作業に戻った。
工場内は再び静寂に包まれ、ペチペチと肉をこねる音だけが響いていた。誰もが、その音に自分の絶望を重ねるように、ただひたすら作業を続けた。
工場内でひたすらペチペチと肉をこね続けるゴブリンたち。
その中の一匹が、流れてきた肉の塊に何か硬いものを感じた。
彼が手を止めて肉を掻き分けると、輝く指輪が出てきた。
ゴブリンは驚きと興奮で胸が高鳴るのを感じた。
自分にとっての脱出の可能性を見たかのように、彼はその指輪をそっと手のひらで隠し、次の瞬間には素早く口の中に押し込んだ。誰にも気づかれないようにと、彼は慎重に作業を再開した。
しかし、この工場の全ては監視カメラで隅々まで監視されていた。
ゴブリンが指輪を隠した瞬間、その様子は既にエリシアの目に届いていた。
数分も経たないうちに、工場の重い扉がギギィと音を立てて開き、エリシアが現れた。彼女は冷たい目でゴブリンを見つめながら、ゆっくりと彼に近づいた。
「口を開けなさい」
エリシアの声は冷たく、威圧的だった。
ゴブリンは恐怖で身を竦ませたが、口を閉じたまま動かなかった。だが、次の瞬間、エリシアは無造作に彼の頭を叩き、力なく開いた口から指輪がポロリと落ちた。
指輪はチリンという小さな音を立ててエリシアの手の中に落ちた。
エリシアはその指輪を軽く眺めると、無言でポケットにしまい、ゴブリンを冷たい視線で見下ろした。
「こんなもの、あんたには不要ですわ」
エリシアはそう言い残し、再び無感情な表情で工場を後にした。
ゴブリンはその場に立ち尽くし、失った指輪と共に、わずかな希望も消え去ったことを痛感しながら、再びペチペチと肉をこねる作業に戻るしかなかった。
工場内の疲労と絶望の中、一匹のゴブリンが再び居眠りしてしまった。
今日で二回目だ。彼は疲れ切った体を支えきれず、作業中にまぶたが重くなり、ついに意識を失った。
その瞬間、館内放送が無情にも響き渡った。
「931番、931番、至急ミキサー室へお越しくださいませ」
その番号が告げられた瞬間、ゴブリンの顔が青ざめた。彼は必死に持ち場にしがみつき、何とか自分を奮い立たせようとした。
「嫌だ……待ってくれ……、まだ働ける！頼む！お願いだ！」
ゴブリンは恐怖で震えながら叫び声を上げ、持ち場を離れようとしなかった。他のゴブリンたちは彼を見ないようにしながらも、心の中で同情と恐怖を抱えていた。
しかし、すぐにエリシアが現れた。
彼女は無表情のまま、怯えるゴブリンに向かって無言で歩み寄ると、ためらいもなくその体を無茶苦茶に殴りつけた。ゴブリンは悲鳴を上げながら抵抗したが、エリシアの力には到底かなわない。
「さっさと来なさい！サボっている暇なんてありませんわ！」
エリシアは冷酷な表情を浮かべ、ゴブリンの体を力任せに引きずり始めた。
ゴブリンは地面に爪を立てて必死に抵抗しようとしたが、エリシアの強力な力に引きずられ、無情にもミキサー室へと連れて行かれた。
工場内は再び静寂に包まれ、残されたゴブリンたちはただ黙々と作業を続けるしかなかった。彼らの心には、もう希望も無く、ただ絶望の中で機械的に手を動かすことしか残されていなかった。
王国の城下町で、最近話題になっている格安ハンバーグ店があった。
店の前には長蛇の列ができ、店内は活気に満ちていた。ハンバーグの香ばしい匂いが漂い、食欲をそそる。
店の人気の理由は、その安さとポイントシステムにあった。
肉を食べれば食べるほどポイントが貯まり、割引や豪華な景品がもらえるという。家族連れや若者たちがこぞってこの店に集まり、安くて美味しいハンバーグを求めて次々と注文していた。
誰もが、目の前にある美味しそうなハンバーグに夢中で、これが何の肉なのか、どこから来たのかなんて気にも留めていなかった。
美味しくて安ければそれで良かった。
食べることが楽しければ、それで満足だった。
