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試作品

 アルセール大陸某所。

 対魔王軍組織ユニオン。




 そこは、魔王軍や未知の脅威に備えるための拠点であり、兵器開発、ソルジャーの派遣、教育、調査など多岐にわたる活動が行われていた。




 その理事を務めるエリシアは、肩書きの重さにふさわしく、組織内のあらゆる業務を横断的にこなしている。




 ——ガサッ




 彼女のデスクに山のように積まれた承認待ちの書類。




 雑多に重なった束の中に「武器テスト依頼」の文字が紛れ込んでいた。




 ユニオンでは、開発部が製作した新型兵器を、実際の戦闘経験を持つ有識者に試用させ、その評価をもとに改良を進めるのが慣例だった。


 当然、理事であり現役の戦闘者でもあるエリシアのところにも、その依頼は優先的に回ってくる。




「……」




 数枚の依頼書を手に取り、パラリとめくる。

 デスクの上には、もうそれなりの厚みになっている案件の束。




「結構溜まってきましたわねぇ」




 彼女は眼を細め、書類をしばらく眺めると、ふっと笑った。




「それじゃあ、消化しますかねぇ」




 ところ変わって、アルセール大陸のとあるダンジョン。




 そこは、ただひたすらにモンスターが湧き出すだけの場所だった。




 宝もなければ隠し部屋もない。攻略の意味など皆無で、入る者にとってはただの地獄。

 伝承によれば、かつて人類が魔神ディアボロスと死闘を繰り広げていた時代、その余波として発生した“負の遺産”だという。




 今はフィレット教団が聖女による結界を施し、外部への被害を防いでいた。

 一般の冒険者や学者が足を踏み入れることはまずない。




 ——コツコツ……




 そんな中を、何事もないかのように歩みを進めるエリシア。

 目的はただひとつ、武器テスト。


 ここなら人間の目を気にする必要もなく、相手は無尽蔵に湧き出るモンスターのみ。

 理想的な実験場であった。




「早速やりますかねぇ」




 エリシアはバッグから一つの試作品を取り出した。




【ガンブレード】


 リボルバー拳銃の銃身にブレードを無理やり接合したような、いかにも実験機然とした代物。

 斬撃の瞬間にトリガーを引けば、火薬の爆発による衝撃が刃に伝わり、威力を上乗せするという設計思想らしい。


 装弾数は6発。




(まじかっけえ……)




 迫りくるゾンビの顔面を足蹴にしながら、エリシアは弾倉に弾を込めていく。




 ——スチャ……スチャ……




 軽快な装填音。

 彼女はガンブレードを握り直し、近くで這い寄ってきたドレイクに一気に距離を詰めた。




 ——ダッ!




「……!」




 ヒットの瞬間、引き金を引く。




 ——ドッパアアァン!


 ——ザン!




 一撃。


 ドレイクの巨体が抵抗もなく両断され、血と肉片を撒き散らしながら崩れ落ちる。




「おぉ……」




 その威力に、思わず感心の声を漏らすエリシア。


 しかし、ふと冷静になり、腰から普通のロングソードを引き抜いた。




 ——ダッ!




「……!」




 ——ズバァ!




 今度は近寄ってきたゾンビに斬撃を入れる。

 その胴体は、あっさりと真っ二つに裂けて床に転がった。




「……」




(あれ、これ……私が強すぎて比較できないんじゃ……)




 テストの意義が、早くも揺らぎ始めていた。




 気を取り直し、エリシアは再び武器テストを始めることにした。




「……」




 今度は一人ではない。


 結局、サンセット街の冒険者ギルドにいたジークを強引に引きずり出してきたのだ。




「——てなわけでテスターになっておくんなまし」


「知るか。俺は帰る!」




 迫り来るスケルトンを足蹴にして、出口へと背を向けるジーク。




 ——コツコツ……




 その足音を背に、エリシアがさらりと一言。




「え?でもユニオンから200万G出すって!」


「……」




 ジークの足が止まる。

 しばし沈黙したあと、渋々と振り返り、肩を落として戻ってきた。




「こんな……地獄みたいなダンジョンでしなくても……」


「いんや! 実戦で得たデータでないと価値がありませんの!」




「……」




 嫌そうに眉をひそめるジーク。

 一方のエリシアは、やる気に満ちた顔で次の試作品のケースを取り出していた。




 【ガンブレード】


 リボルバー拳銃に無理やりブレードを接合した、見るからに試作品といった代物。

 斬撃の瞬間にトリガーを引けば、火薬の爆発衝撃が刃に伝わり、威力を上乗せするという設計思想らしい。


 装弾数は6発。




「ほう……」




 弾倉と刃先を交互に見つめるジーク。




 ——わらわら……




 迫り来るモンスター群を一瞥し、そのまま駆け出す!




 ——バッ!




「……フッ!」




 ドレイクに斬撃を浴びせる瞬間、トリガーを引いた。




 ——ドパアァン!


 ——ザバ!




「……!」




 噛みつきのカウンターをギリギリで回避。

 一撃で深手を負わせたものの、ドレイクはまだ倒れない。




「バランスが悪い!」




 それでもゾンビ、リザード、スライムと次々に斬り倒していくジーク。だが表情は不満げ。




「弾倉のせいで無駄に重い……威力も乗らん」




 やがて6発を撃ち尽くす。




「弾の装填ですわね」




 エリシアが軽く声をかける中、ジークは弾倉をスライドさせ、薬莢を一発ずつ差し込んでいく。




 ——チマチマ……




「……」




 ——うゔぉあぁ……




「……邪魔!」




 ——げし!




 迫ってきたゾンビを蹴り飛ばしつつ、再装填を続ける。




 ——ちまちま……


 ——ちまちま……




「ふう」




 ——カチャ




 ようやく弾を込め終え、再び突撃。




「……ふん!」




 ——ドッパアァン!




「グボあ」




 一撃でゾンビは倒れる。

 しかしドレイクには二発必要。


 そして、また弾切れ。




「……」




 ——カチャ




 空薬莢が床に散らばる音。ジークは再度、無言でリロードに入る。




 ——ちまちま……


 ——ちまちま……


 ——ぎゃおぎゃお……




「邪魔!」




 迫り来るリザードを蹴り飛ばしながら、黙々と装填。


 やがて、苛立ちを隠さず吐き捨てる。




「やっぱダメだ!使えん!」




 ——ぽい!




 ジークはガンブレードを投げ捨てた。




 そして次の武器。




【パイルバンカー】


 腕に装着するタイプの試作品。

 バングル状の基部を腕にはめ、手元のグリップを握り込む。


 内蔵された金属製の杭を火薬の爆発で前方に射出し、強烈な一点突破の一撃を繰り出すという設計思想。




 ——ガチャ




「……重いぞ……」




 ジークの右腕には、無駄に巨大で物々しい杭の射出装置がぶら下がっていた。

 それを振り回しながら、彼はそのまま突撃。




 ——バッ!




 目の前に立ちはだかるサラマンダーに狙いを定め、腕を突き出す。

 そして、トリガーを引いた。




 ——バコオオオォン!


 ——ガキィン!




 凄まじい爆音。

 鉄杭はサラマンダーの頭部を正確に貫き、火花を散らしながらめり込む。




「ぎゃお」




 短い断末魔を漏らし、そのまま絶命。


 続けてターゲットを泥人形に切り替える。




「……シッ!」




 再び腕を突き出し、トリガーを引く。




 ——カチ……


 ——カチカチ……




 ……何も起こらない。




「あ〜もう!」




 ——ゴイイィン!




 仕方なく射出装置ごと泥人形の頭をフルスイングで殴り飛ばすジーク。

 泥人形は鈍い声を漏らしながら吹っ飛んでいった。




「ご……」




 ジークが、呆れ顔でエリシアに振り返る。




「なんだこれ! 一回で使えなくなった!」




 エリシアは眉をひそめ、仕様書をペラペラとめくった。




 ——パラパラ……




「あ、それ火薬の装弾数1発ですわね」


「……」




 ——ガチャ




 チャンバーを開けると、空薬莢がバネ仕掛けで弾き飛ばされ、どこかへ転がっていった。




 ——チン……




「使えん! 重い! しかも一発だけ!」




 ジークは怒鳴りながら、パイルバンカーを盛大に投げ捨てた。




 次の武器。




【ショットガンハンマー】


 ハンマーのヘッド部分に回転式の弾倉を搭載し、ショットガン用の弾丸をそのまま装填できるようにした代物。


 ヘッドにはドリルで穴が空けられており、振り下ろした衝撃で散弾が穴から射出される仕組み。大型モンスター討伐用に設計された実験機である。




「お、おっも……!」




 ジークが両手で構え上げる。

 弾倉の回転機構と散弾の重量が、ただでさえ重いハンマーにさらに負荷をかけていた。


 とにかく突撃。




 ——ダン!




 目の前のアイアンタートルに向け、渾身のフルスイング。




「うおおぉ!」




 ——ブン……!




 ——ドッドオオオォン!


 ——バガァン!




「うおっ!」




 反動があまりに強烈すぎ、ハンマーが逆に跳ね上がり、ジークの体が大きくよろめく。

 だが頭部に直撃したタートルは即死。甲羅ごと粉砕されて沈黙した。




「反動がデカすぎだ!」




 今度はアイスドレイクへ突撃。




「……ぬぅん!」




 ——ブン!


 ——ボガアアアァン!




「ぎゃ……」




 アイスドレイク、打撃と散弾のダブル直撃で即死。




 ——バイーン!




「うお!」




 反動に振り回されるジーク。




 結果、左側のモンスターを叩き、その反動で右のモンスターを殴り飛ばすという奇妙な連撃パターンが成立。




 ——バオオォン!


 ——ドガアアァン!


 ——ボガァン!




「おお! それいいですわね!」


「一回やったら、使い切るまで体が止まらん……」




 すでに腕はバキバキ。呼吸も荒い。

 ジークはついに耐えきれず、ショットガンハンマーを乱暴に投げ捨てた。




「あ、そうだ。開発部はこんなのも作ったみたいですわね」




 ——がさ




 エリシアが袋から取り出したものを、ジークが受け取る。




「ん? なん——邪魔!」




 迫り来るゾンビを足蹴にして退けながら、視線を落とす。




 手の中にあるのは、大きめのガラス瓶。その中に、どろりと黄色い液体が詰まっていた。




「なんだこれ……」


「えっと……」




 エリシアが仕様書をペラリと確認する。




「エレキボムですわね」




【エレキボム】


 何匹ものエレキスライムを無理やり瓶詰めにした手投げ弾。

 投げた地点の周囲に感電をもたらし、敵を痺れさせる。




「……」




 ジークは無言でモンスターの群れを睨み、肩を引いた。




「ふん!」




 ——ポイ!




 エレキボムは、群れのど真ん中に落ちる。




 ——バチバチ……


 ——バリバリバリ! ビリビリバリバリ〜!




「ギャオ!」


「うゔぉあ!」


「じゃ……」


「ペッ……」




 一斉に痙攣し、黒焦げになって崩れ落ちていくモンスターたち。




「なんて威力だ……」




 ジークが感心しかけた、そのとき。


 瓶が砕け、液体の中からずるりと這い出すものがあった。




 ——ピチョン、ピチョン


 ——ズリ……ズリ……


 ——ぬうううぅ……






 中に詰め込まれていたエレキスライムたちが、今度は敵としてジークのほうへじりじりと迫ってくる。






「ちょ、おま……」




 ジークの顔が引きつった。




 さらにエリシアは袋の中をごそごそと探り、またひとつ物騒なものを取り出した。




「次はこれ」




【アイスボム】


 アイススライムを容器に無理やり詰め込んだ手投げ弾。

 投げた先の敵を一瞬で凍結させる。




 ジークはもう半ばヤケクソ。

 受け取るなり、肩に力を込めて投げつけた。




「ふん!」




 ——ぽい!




 ボムはリザードの群れに直撃する。




 ——パリン……


 ——ガキイいいいいぃん!




 一瞬で氷像と化すリザードたち。

 その見事な凍結に、思わずジークは口を開きかけた。




 ……が、その直後。




 ——ピチョン! ピチョン!


 ——ぬるううぅ……


 ——ズルズル〜






 容器から這い出したアイススライムが、敵ごと氷漬けにされるのを免れ、そのままジークへと向かってきた。






「やめろ! 来んな!」




 必死に殴り、斬り、なんとか撃破する。

 肩で息をしながら、ジークはうめくように叫んだ。




「ゴミばっかじゃねえか!」




 そう吐き捨て、武器を放り出し、帰っていった。




 ——サラサラ……




 残されたエリシアは、涼しい顔でレビュー用紙に筆を走らせる。






【ガンブレードは、かっこいいので売れると思います。あ、他はゴミです】






 ——ポン




 捺印を押し、満足げに紙を揃えた。




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