遅い昼
魔界中央区、タワーマンション。
時刻は12:45。
休日のエリシアが、ようやく起床した。
スマホのスヌーズを切り、もぞもぞとベッドから這い出る。
そのまま洗面所へ向かい、歯を磨き、顔を洗う。
——バシャバシャ。
——キュ。
タオルで顔を拭き、今度は台所へ。
冷蔵庫の扉を開ける。
——ガラ〜ン。
もぬけの殻だった。
どうやら、食材はきれいさっぱり食べ尽くしたらしい。
「……」
——パカ。
ふと思い立ち、戸棚を開ける。
——がさっ。
そこにあったのは、一つのパッケージ。
【フライパンでカンタン! バターで作るポップコーン】
そんな文字が、鮮やかに印刷されていた。
パッケージの中には、乾燥したポップコーン用の種がぎっしりと入っていた。
——チッチッチッチッチ。
——ボウッ。
エリシアは早速フライパンを取り出し、ガスコンロに火を灯す。
バターを投入し、じわりと溶けていく香りの中へ、ポップコーンの種をざらりと注ぎ込む。
——ガサガサ〜。
数分も経たないうちに、バターの香ばしい匂いが台所いっぱいに広がった。
そして――
*PONG*
小気味よい破裂音とともに、ポップコーンがフライパンからひょいっと飛び出した。
「……」
*PONG*
*PONG*
*PONG*
PONG!! PONG!! PONG!! PONG!! PONG!! PONG!! PONG!! PONG!! PONG!!PONG!! PONG!! PONG!! PONG!! PONG!! PONG!! PONG!! PONG!! PONG!!PONG!! PONG!! PONG!! PONG!! PONG!! PONG!! PONG!! PONG!! PONG!!
まるで花火のように、次々と弾け飛ぶポップコーン。
「あ、ちょ」
——ペチッ。
勢い余って飛んできた一粒が、エリシアの顔面に直撃する。
「ちょ」
*PONG*
さらに次々と跳ね出すポップコーン。
調理台も床も、白い粒で埋め尽くされていく。
「ちょ、あ、ちょ」
PONG!! PONG!! PONG!! PONG!! PONG!! PONG!! PONG!! PONG!! PONG!!PONG!! PONG!! PONG!! PONG!! PONG!! PONG!! PONG!! PONG!! PONG!!PONG!! PONG!! PONG!! PONG!! PONG!! PONG!! PONG!! PONG!! PONG!!
(……ポップコーン作るのって、こんなんでしたっけ?)
いや、多分違う。
何か。そう、とても大事なことを忘れているような……。
そんなことを考えている間にも、フライパンからは容赦なく白い粒が飛び出す。
*PONG*
——ペチッ!
再び、エリシアの顔面に命中。
「ちょ、え、ちょ」
*PONG*
その頃、台所の隅。
ゴミ箱に放り込まれた空のパッケージには、こう記されていた。
【危険! 必ず蓋をすること!】




