ネタ詰め合わせ
アパートの合鍵を作ろうと思った男性は、「超スピードでお渡しします」という看板に目を留め、その文言に惹かれて店に入った。店内は少し暗く、埃っぽい雰囲気が漂っていた。
カウンターの向こうには、金髪の女性――エリシアが肘をついて雑誌を読んでいた。
表紙には「めっちゃええ感じvol3」と書かれており、彼女はその内容に夢中になっているらしく、ゲラゲラと笑い声をあげていた。
男性は少し戸惑いながら、カウンターに近づいて声をかけた。
「あの……すみません、合鍵を作りたいんですが……」
エリシアは笑いをこらえながら顔を上げ、男性を見た。
エリシアは男性にほとんど目もくれず、手を差し出して無言で代金を要求した。男性は戸惑いながらも財布からお金を取り出し、彼女の手に渡した。
エリシアはお金を受け取ると、カウンターの下から無造作にバールを取り出し、ドンとカウンターに置いた。
「はい、合鍵」
エリシアは満足げに微笑んで、再び「めっちゃええ感じvol3」を手に取って読み始めた。男性は呆然とした表情でバールを見つめ、どうすればいいのか分からずに立ち尽くすしかなかった。
おわり
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パソコンの動作が重くなって困っている老人が、机の上に散らばった書類の中から一枚のチラシを見つけた。「お悩み解決!」と大きく書かれた文字に引かれ、彼は迷わず電話をかけた。
「すみません、パソコンが重くて困ってるんですが……」
電話の向こうから、やたら元気な女性の声が返ってきた。
「はい、パソコンが重いんですのね?すぐいきますわよ!」
その声は、妙に勢いがあって、まるで今すぐにでも飛んでくるかのようだった。老人は少し驚きながらも、助けが来ることに安心して電話を切った。
しばらくして、老人の家に勢いよく玄関のチャイムが鳴った。
老人がドアを開けると、そこにはエリシアが立っていた。
しかし、彼女の後ろには、筋肉ムキムキの屈強な男たちがずらりと並んでいた。
エリシアは満面の笑みを浮かべ、胸を張って言った。
「で、どこまで運びますの?」
老人は目の前の光景に唖然とし、言葉を失った。男たちは今にもパソコンを運び出そうと待ち構えていた。
おわり
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エリシアは薄暗い部屋の中で昼寝をしていた。
窓から差し込む柔らかな光が、彼女の顔を優しく包んでいたが、外から聞こえる選挙カーの声が次第に大きくなり、彼女の安らかな眠りを妨げ始めた。
「〇〇候補、〇〇候補をどうぞよろしくお願いいたします!」
エリシアは眉間にしわを寄せ、寝返りを打つ。
だが、選挙カーの音は止むことなく、外をぐるぐると回り続けていた。
そのうち、今度は拡声器からの声が響き渡った。
「いしや〜きいも〜……、お・い・も」
その声が耳に届くと、エリシアの眉間がピクッとなる。しかし、彼女は何とか我慢して、目を閉じ続けた。
だが、次に聞こえてきたのはさらに耳障りな声だった。
「わらび〜もち、わらび餅だよぉ〜ん。甘くて冷たい、わらび餅!……プルプルプル、っぷるぅ~ん!」
エリシアの目がぴくぴくと動き始める。
寝続けようと必死に耐えるが、音はどんどん大きくなっていく。
それに加えて、焼き芋の屋台とわらび餅の屋台が競うように音量を上げ、声が重なり合い、騒音が一層ひどくなる。まるで外で音のバトルが繰り広げられているかのようだ。
「いしや〜きいも〜!」
「わらび〜もち!」
「〇〇候補をどうぞよろしくお願いいたします!」
さらに、そこに加わるように新たな拡声器の声が響いた。
「こちらは不用品回収です。ご家庭でご不要になった、テレビ、エアコン、洗濯機、壊れていてもかまいません」
「竹や〜竿だけ〜!」
エリシアはついに限界を迎え、勢いよく窓を開けようとしたその瞬間、外で思いもよらない展開が繰り広げられているのが聞こえてきた。
「おい、お前、うっさいねん。選挙妨害やぞ!」
選挙カーに乗っている候補者がマイクを通して、焼き芋の店主に向かって声を荒げた。
焼き芋の店主は顔を真っ赤にして、怒りを露わにしながら選挙カーに向き直った。
「お前こそうっさいわ!営業妨害やんけ!焼き芋売ってるんやぞ!」
二人の声はますます大きくなり、街中に響き渡った。
選挙カーの候補者と焼き芋の店主が、互いに言い争い始める中、わらび餅の屋台がその様子を見てニヤリとし、さらにボリュームを上げて売り声を響かせる。
「わらび〜もち、わらび餅だよぉ〜ん!プルプルプル、っぷるぅ〜ん!」
混乱が広がり、街の静寂は完全に破壊された。騒音がますます大きくなる中で、エリシアは怒りを抑えつつ、事態の収拾がつかなくなっている様子に呆然と立ち尽くしていた。
外の騒音が収まるどころか、ますますエスカレートしていった。
選挙カー、焼き芋屋、わらび餅屋、不用品回収業者が互いに競い合うように音量を上げ、誰もが一歩も引かない状態になっていた。
エリシアも我慢の限界を超え、窓を開け放ち、怒りの声を張り上げた。
「うるせえええぇ!」
それを聞いた他の住民たちも次々と窓やドアを開け、同じように叫び始めた。
「うっせえええぇええ!」
「お前がうるさいんだよ!」
「いい加減にしろ!」
近隣の全ての住民が互いに怒鳴り合い、まるで街全体が一つの大きな喧嘩に巻き込まれたかのようだった。
通りは「うっせえええぇええ!」という大合唱で埋め尽くされ、混乱はピークに達した。
その時、警察がパトカーで現れ、サイレンを鳴らしながら、必死に騒ぎを鎮めようとマイクを手に取り叫んだ。
「お静かに!お静かに!」
しかし、その声さえも騒音にかき消され、誰も聞く耳を持たなかった。むしろ、住民たちはその警察の声にさらに反応し、警察にも文句を言い始めた。
「お前こそ、うるせえんだよ!」
「何なんだよ!お前らが一番騒いでるじゃねえか!」
警察官が怒りを抑えきれず、顔を真っ赤にして応戦する。
「あ゛ぁん!?公務執行妨害やぞ!逮捕すんぞ!」
誰も彼もが怒鳴り合い、街中は完全にカオスと化した。通りは怒声と叫び声で溢れかえり、誰が何を言っているのかさえ分からない混沌とした状況に。エリシアも周囲の喧嘩の中心に巻き込まれ、事態は収拾がつかなくなっていた。
街中が騒音と怒号で混沌としている中、誰もが怒鳴り合い、何が起こっているのかさえ分からないような状態だった。
その喧騒のただ中を、突然、まるで何事もなかったかのように「雪やこんこん、アラレやこんこ〜♪」と灯油販売のトラックが通り過ぎていった。
おわり




