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陶芸の魂

 山奥の静かな工房で、陶芸家が陶器を丹念に作り上げていた。




 ろくろを回しながら、彼の目は鋭く、手は熟練の動きで粘土を形作っていく。だが、何度も何度も試しても、納得のいく形にはならなかった。




「これも違う!」




 彼は叫び声と共に、完成間近の陶器を手から放り投げた。




 ——ガシャァン!




 陶器は壁に激突し、粉々に砕け散った。その音が工房に響き渡り、静寂が戻った。しかし、陶芸家はまた新たな粘土の塊を手に取り、再びろくろを回し始める。




 陶芸家は苛立ちを抑えきれず、次々と作り上げた陶器を床に放り投げていった。作品が砕け散る音が工房に響き渡り、その度に彼の焦りは募っていく。




「これも違う!」


 ——ガシャァン!




「違う!」


 ——ガシャァン!




「違うのじゃあああぁ!」


 ——ガシャァン!





 彼は怒りを込めて、卵形の陶器を力強く床に投げつけた。




 ——ガシャァン!




 陶器は無惨にも砕け散り、その破片が床に飛び散った。陶芸家は深い溜息をつき、再びろくろに手を伸ばした。




 突然、どこからともなく怒りの叫び声が響いた。




「こらああぁ!」




 その瞬間、小屋の土壁が派手な音を立てて崩壊した。


 陶芸家は驚き、振り返ると、瓦礫の中から姿を現したのは――。




 ニワトリに扮したエリシアだった。




 彼女は頭にニワトリの冠を被り、羽のような衣装をまとい、まるで本物のニワトリのように見えた。

 エリシアは鋭い目つきで陶芸家を睨みつけ、怒りを抑えきれずに叫んだ。




「せっかく産んだんですわよ!何してくれとんねんコラァあ!」




 エリシアの声が工房に響き渡り、陶芸家はその異様な光景に呆然と立ち尽くすしかなかった。


 エリシアは激怒したまま、さらに声を張り上げ、ものすごい剣幕で喚き散らし始めた。




「なんですの!?こんなに頑張って産んだのに、何も考えずに投げつけるなんて、許せませんわ!一体どういうつもりですの!?」




 彼女は手を振り回し、羽を広げるような仕草をしながら、陶芸家に向かって次々と怒鳴りつけた。その勢いは止まることなく、まるで嵐のように喚き続ける。




「一つ一つ大事に作り上げたものを、こんなに簡単に壊してしまうなんて、本当に信じられませんわ!私の魂が込められてますのよ!どうしてこんなことができるんですの!?まったく、何度も何度も同じことを言わせるんじゃありませんわ!」




 陶芸家はその猛烈な勢いに圧倒され、呆然と立ち尽くすしかなかった。エリシアの怒りの嵐は止む気配がなく、彼はただその場に立ち尽くし、エリシアの怒りが収まるのを待つしかなかった。




 突然、工房の中に異様な雰囲気が漂い始めた。




 その場に現れたのは、全身がメタリックカラーで輝く謎の男――ヴァイだった。




 彼は冷静な表情で、怒り狂うエリシアに近づき、軽く肩を叩いて宥め始めた。




「まあまあ、もう済んだことだ。落ち着け、エリシア。」




 しかし、エリシアは収まらず、再び奇声を上げる。




「キエエエエェェェッ!!」




 ヴァイはそれでも動じることなく、冷ややかに笑いながら陶芸家に目を向けた。




「すまんな〜、うちのボスも怒り出したら聞かないんだよなぁ〜。」




 その言葉とは裏腹に、ヴァイの顔には不気味な笑みが浮かんでいた。


 目元にかけたサングラスの奥から、鋭い光がちらりと覗いている。彼の異様な雰囲気に、陶芸家は唖然とし、言葉を失って立ち尽くすしかなかった。


 エリシアの奇声とヴァイの不気味な笑みが、工房に不穏な空気を漂わせ、陶芸家はその異常な状況に戸惑いを隠せなかった。




 エリシアは再び声を張り上げ、烈火のごとく吠えた。




「ニワトリ舐めんなよ!」




 その一言に工房の空気が一層張り詰めた。


 エリシアは怒りのままに、羽を広げるような仕草をし、まるでその場のすべてを威圧するかのように立ちはだかっていた。


 そんなエリシアを宥めようと、ヴァイが少し困った様子で口を開いた。




「まああの……、そうだな……。やっぱり卵を割られたら、ニワトリも黙っちゃいられないよな。」




 彼はゆっくりと陶芸家に目を向け、不気味な笑みを浮かべながら続けた。




「あんたも分かるだろ?」




 ヴァイの言葉に込められた静かな圧力を感じ、陶芸家は戸惑いながらも頷くしかなかった。


 エリシアの怒りは未だ収まらず、彼女の視線が鋭く陶芸家に突き刺さる中、ヴァイの冷静さがかえって不気味さを増していた。




 ヴァイはエリシアを宥めながら、急に思いついたように陶芸家に向き直り、口を開いた。




「とりあえず……、5,000円でええわ。」

「えぇ……」




 困惑する陶芸家は、突如として要求された金額に戸惑いを隠せなかった。だが、その様子を見たヴァイの目が急に鋭くなり、表情がヒートアップしていく。




「うちのボスが5,000円で許すって言ってんだよ!あ゛ぁん!?お前、こんな卵にもな……命が入ってんだよ!」




 ヴァイは一気に声を荒げ、凄まじい勢いで陶芸家に詰め寄る。


 彼の顔には狂気じみた笑みが広がり、目はまるで獲物を狙う猛禽類のように鋭かった。陶芸家はその恐ろしい迫力に押され、凍りついたように動けなくなってしまった。


 工房の中は、一瞬にして静寂が訪れ、ヴァイの威圧的な態度が全てを支配していた。


 陶芸家は何とか逃げ出したい気持ちを抑えながら、冷や汗を流しつつ、次の行動を考えることさえできずに立ち尽くしていた。




 陶芸家は仕方なく、冷や汗を流しながら財布を取りに行き、5,000円をヴァイに差し出した。




 ヴァイはそのお札を鷲掴みにし、無造作に自分のポケットに突っ込んだ。


 その時、陶芸家が財布から何かを取り出した際に、古い領収書がひらりと床に落ちた。


 ヴァイはそれを拾い上げ、無表情でその文字を読み上げた。




「三宮のモータープール?」




 陶芸家はただ黙ってヴァイの顔を見つめることしかできなかった。


「……」




 沈黙が続く中、ヴァイは突然、妙に明るい調子で言葉を続けた。




「三宮、駐車料金高いよなぁ!?」




 その奇妙なセリフを残し、ヴァイは笑みを浮かべながらエリシアと共に工房を後にした。


 陶芸家は、二人が去っていく姿を呆然と見送り、意味の分からない言葉と出来事に頭を抱えたまま、その場に立ち尽くしていた。

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