朝礼
エリシア商事——朝の会議室。
いつもの朝礼。社長であるエリシアの一言から一日が始まる。
「——というわけで、周りの人々に我々の存在を知らしめることはとても重要!」
——シーン
ピクリとも動かない社員たち。
目の前に立つエリシアは、しかしまったく怯まない。
「それに伴って、あらゆる広報戦略や営業活動を考えていただきたいのですわ」
力強い言葉。だが空気はどこまでも重い。
「ところで——」
突然話が飛んだ。
社員がざわつく前に、エリシアは一人の社員をピンポイントで指差した。
「あなた」
「は、はいっ」
若手の男性社員がビクリと反応する。
「世界でいちばん高い山は?」
「……え、えっと……エベレスト……ですか?」
「そう、エベレスト」
エリシアはゆっくり頷いたあと、ふっと表情を変える。
「あのねぇ〜、オンリーワンとか言う前にねぇ、ナンバーワンを目指さないとダメですの」
どこからともなく「説教モード」へ突入。
そして、別の社員を指差す。
「じゃあそこのあなた」
「……?」
突然の指名に、眼鏡の中堅社員が戸惑う。
「阪神タイガースの歌……ちょっと歌ってみなさいよ」
「えっ!? い、いきなり……」
「ほら!」
「は、はい……」
気まずい空気のなか、社員がボソボソと歌い始める。
「六甲おろしに〜颯爽と〜♪」
「……」
「蒼天かける〜日輪の〜……」
「はい、そこまで」
間髪入れず、今度は別の社員に目を向ける。
「じゃああなた」
「へっ?」
「読売ジャイアンツの歌……ちょっと歌ってみなさいよ」
「えぇ……!? いや、無理ですって」
「早く!?」
「……あの……」
社員がもごもごと口を動かすが——
「……」
「わ、わかりません……」
「ほら見たことか!」
エリシアが勝ち誇ったように両手を広げる。
「結局、ナンバーワンにならないと公式ソングだって覚えてもらえないんですの!」
理不尽なようで、妙に説得力があるような……いや、やっぱり理不尽なような。
「これで阪神が日本一だって証明されましたわね!」
「……」
誰も異論を唱えられない。
「はい、じゃあしっかり業務に励むように!」
——パチン!
エリシアが指を鳴らし、朝礼は終了。
「以上!」
——ゾロゾロ……
社員たちは無言のまま、それぞれの持ち場へと向かっていった。
また一日が始まる——エリシア商事で。