船の上ですんな
エリシアは成り行きで魔王を倒しに行くパーティと行動を共にしていた。
そしてついに、漁船の上で魔王を見つけ、追い詰める。
船が大きく揺れる中、エリシアたちは魔王と対峙していた。周囲では船員たちが網の準備をしており、緊張感が漂っている。
「お前の悪行もここまでだ、魔王!」
勇者が剣を振り上げた。
「これが世界を恐怖に陥れた魔王……?」
エリシアは半信半疑で魔王を見つめた。
しかし、船の揺れが激しさを増し、他のメンバーたちの顔色が悪くなってきた。
「うっ……気持ちわる……も゛も゛、ボエえええぇ」
勇者が突然、船酔いのせいで嘔吐してしまった。
その瞬間、魔王もつられるように顔をしかめた。
「ちょ、待て……もらいゲロ……ボエえええぇ」
魔王も同じく嘔吐してしまった。
他のパーティメンバーも次々に倒れ込み、船酔いで吐き気を抑えられない。
「うぅ……気持ち悪い……」
「なんでこんな状況で……」
「船酔いで戦えない……」
エリシアは呆れ顔で周囲を見渡した。
「もう、何やってるんですの?」
彼女だけが平然と立っていた。
船が揺れ続ける中、エリシアたちは嘔吐で苦しむ仲間を見ながら、魔王と対峙していた。
魔王は顔を青ざめさせながら言った。
「乗り物酔いやねん……」
勇者は船の揺れでバランスを崩し、転倒しそうになりながらも剣を振るった。
「今度こそ……!」
しかし、勇者の剣は空を切り、魔王に当たりもしない。
「お前、本当に魔王なのか?」
エリシアは呆れた様子で魔王を見つめた。
「そんなに弱々しくて……」
魔王は船酔いで立つことすらままならず、フラフラと体を揺らしていた。
「うぅ……こんな状況で戦うなんて無理……」
エリシアはため息をつきながら、他のメンバーを見渡した。
「もう、全員がこんな調子では話になりませんわね」
彼女はしっかりと立ち、周囲の状況を冷静に観察していた。
賢者がポーションを取り出し、震える手で口元に運ぼうとした。
「これで少しは楽になるかも……」
しかし、船の激しい揺れでポーションの中身が全部こぼれてしまった。
「うわっ!全部こぼれちゃった!」
エリシアは呆れた顔で賢者を見た。
「本当に頼りになりませんわね」
一方、勇者も船の揺れに翻弄され、剣をどこかに落としてしまった。
「くそっ、剣が……!」
魔王はこの混乱の中で魔法攻撃を試みた。
「よし、今だ!」
しかし、魔王が呪文を唱え始めたその時、船員の一人が声をかけた。
「邪魔なんでどいてもらっていいっすか?」
魔王は網を操作するための邪魔になっていることに気づいていないようだった。
魔王は呆然とした表情で船員を見つめた。
「え、今ちょっと大事なとこ……」
エリシアは再びため息をついた。
「もう、何やってるんですの?こんな状況でまともに戦えるわけありませんわ」
戦士が顔を歪ませ、雄叫びなのかゲロの呻き声なのかわからない声を上げながら魔王に走り寄った。
「うぉおおおおお……げほっ!」
しかし、船の揺れに加え、床に落ちていたサバを踏んでしまい、バランスを崩して思い切りこけた。
「うわあああ!」
戦士は床に転がり、サバを蹴散らしながらゴロゴロと滑っていく。
「もう、情けないですわ……」
エリシアは頭を抱えながら、彼の姿を見つめた。
「こんな状態でどうやって魔王を倒すつもりなんですの?」
魔王もまた、戦士の様子に驚きながらも船酔いでフラフラしていた。
「ほんまに、どうしようもないな……」
戦士は床に這いつくばりながら、悔しそうに顔を上げた。
「くそっ、もう一度だ……!」
だが、その言葉を聞いたエリシアはさらに呆れた様子で言った。
「あなたたち、少しは冷静になってくださいまし。このままじゃ、勝てる戦いも勝てませんわよ」
魔王は顔を真っ青にしながら言った。
「陸で、陸でやれや……」
エリシアはため息をつき、近くにいた船員に声をかけた。
「すみません、どれくらいで陸に着きますの?」
船員は冷静に答えた。
「三日かかりますね」
エリシアはその答えに驚いた。
「三日!?」
その間にも、魔王は盛大に何かを吐いていた。