スタイリスト
エリシアは自ら開業した美容院で、静かな朝を迎えていた。
店内は清潔感があり、柔らかな音楽が流れる中、彼女は客を待ちながら丁寧に道具を整えていた。
その時、店の扉が勢いよく開き、気合の入ったバッチバチのヤンキーが入ってきた。彼の髪型は尖っていて、全身から強いオーラを放っていた。
「激渋なヤツ頼むわ!」
ヤンキーは堂々とした声でエリシアに言い放つ。
エリシアは少し驚いた表情を見せたが、すぐに笑顔に戻り、彼の要望に応じることにした。
「承知いたしました。どのようなスタイルをご希望ですか?」
エリシアは、彼の個性的なスタイルに合わせてしっかりとヒアリングを行う。
エリシアはヤンキーの要望をしっかりと受け止めたものの、突然彼の様子を見ていて、思いついたように言った。
「それでは、『エリシアおまかせコース』を始めましょう。」
ヤンキーが何か注文をつけるよりも早く、コースが自動的に始まった。まずは、丁寧な顔剃りからスタートする。
「リラックスしていてくださいね。」
エリシアは落ち着いた声で言いながら、慎重に顔剃りを進めていく。
ヤンキーはその心地よさに身を委ね、徐々に気持ちが良くなっていく。顔剃りが終わると、エリシアは彼を洗髪台に案内した。
洗髪が始まり、心地よいシャンプーの香りとともに、エリシアの指先が彼の頭皮を優しくマッサージしていく。
ヤンキーはその気持ち良さに思わず目を閉じ、気持ちよさに身を任せているうちに、いつの間にか居眠りを始めてしまった。
周囲には静かな音楽が流れ、エリシアは手際よく次の工程へと進めながら、リラックスした雰囲気を楽しんでいた。ヤンキーの穏やかな寝顔を見ながら、エリシアは思わず微笑んだ。
ヤンキーが目を覚ますと、驚くべき光景が目の前に広がっていた。
彼の体は椅子ごとチェーンでぐるぐる巻きにされていた。動こうとしても身動きが取れず、彼は困惑した表情を浮かべた。
「な、何やねんこれ!?なんで俺がこんなに……!」
ヤンキーは大声で叫び、混乱した様子で周囲を見渡した。
しかし、その叫び声はすぐにエリシアの冷たい声に遮られた。
「うっさい!集中できねえですわよ!」
エリシアはヤンキーに目を向けることなく、手元の道具に集中し続けていた。彼女の口調は厳しく、ヤンキーはその言葉に一瞬言葉を失った。
「ちょ、ちょっと待て!なんで俺がこんな目にあうねん!」
ヤンキーは混乱しながらも、再び叫び続けたが、エリシアは意に介さず、自分の仕事に没頭していた。彼女の姿はまるでプロの美容師のようで、全く動じることなく作業を続けていた。
エリシアは冷静にチューブからジェルを手に取り、指先でしっかりと馴染ませた。
彼女はそのまま、ヤンキーの髪に向かって手を伸ばす。
「これで決まるといいですわね。」
彼女は優雅に髪にジェルを塗り込みながら、もみあげから襟足にかけて全ての髪を丁寧に扱った。エリシアの手際は見事で、まるでアートを描くかのように、髪を天井方向に集め始めた。
ヤンキーは体がチェーンで固定されているため、どうすることもできず、焦りと戸惑いの中でエリシアの動きを見守るしかなかった。
「おい、これ、何する気やねん!動かせへんやんけ!」
しかし、エリシアはその声には耳を貸さず、真剣な表情で髪の形を整えていく。
髪が天井に向かって持ち上げられ、ヤンキーの頭は次第に奇妙な形になっていった。エリシアは満足げに微笑みながら、彼の髪を整えていく。
エリシアはチューブを一気にブッチュウウウゥと絞り出し、全てのジェルをヤンキーの頭に塗りたくった。
髪に塗り込まれるジェルの感触に、ヤンキーは困惑しながらも何もできずにいた。
「これでしっかり固めてあげますわよ!」
彼女はそのまま、髪の毛をさらに集めて形を整えていく。
髪は次第にジェルで固められ、まるで逆さまにした針のようなシルエットを形成していった。
「おい、これ、どうなってんねん!なんでこんな形にするんや!」
ヤンキーは恐怖と驚きの声を上げたが、エリシアはその反応にはお構いなしだった。彼女は真剣な表情で、髪を整え続ける。彼女の手は動き続け、ジェルが髪にしっかりと馴染んでいく。
「これでみんなの注目を集められると思いますの。素敵なスタイルになるはずですわ!」
エリシアは嬉しそうに言い、ヤンキーの頭を仕上げていった。彼の髪型はますます異様な形になり、周囲の人々の視線を集めることは間違いないだろう。
ヤンキーの髪型が完成かと思われた瞬間、エリシアが手を離すと、髪の頂点がふにゃりと下に垂れ下がってしまった。
エリシアはその光景を見てムカッときて、思わず眉をひそめた。
「なんでこんなことになるのですの!?」
彼女は不満を抱えたまま、店の奥に引っ込んでいった。
しばらくして戻ってきた彼女の手には、何か奇妙な物体が握られていた。
それには「3N社製、なんとかボンド(耐候性)」と書かれていた。
「これを使えば、絶対に固定できますわ!」
エリシアは自信満々に言い、ヤンキーの髪に再度向かっていく。その表情は真剣そのもので、何が何でもこの髪型を維持する決意が見えた。
「これでバッチリ仕上げますわよ!」
彼女はそのボンドを使い、ヤンキーの髪をしっかりと固定する準備を始めた。ヤンキーは不安げにその様子を見つめ、再び何が起こるのかを心配していた。
エリシアは「3N社製、なんとかボンド」を使い、ヤンキーの髪型をまるで一本の針のように固めていった。
彼女の手際は見事で、ボンドが髪の毛全体に均等に行き渡るように塗り込まれていく。
髪の表面は次第に光沢を増し、まるで飴のようにテカテカと輝き始めた。
完成した髪型は、見た目にも美味しそうな印象を与え、まるでカラフルなキャンディのようだった。
「これでバッチリですわね!」
エリシアは満足げに微笑み、ヤンキーの頭を見上げた。ヤンキーは自分の髪型を見て驚きと共に、思わず口を開いた。
「飴かよ……」
彼の言葉に、エリシアは少し笑いながら言った。
「確かに美味しそうですけれど、食べないでくださいませ。これは髪型のためのものですから。」
ヤンキーはその後、自分の新しい髪型に満足しつつも、なんとも言えない気持ちでその場に立っていた。周囲の視線を集めることは間違いなく、彼の心には不安と期待が入り混じっていた。
エリシアは仕上げの最後のダメ押しをすることに決め、力強く言い放った。
「きえエエェエエえええぇ〜!」
彼女は声を上げながら、ヤンキーのおでこの生え際をものすごい力で上に引き上げた。
その瞬間、ヤンキーの目が吊り上がり、驚愕と痛みが入り混じった顔になった。まるで彼の表情はエグい顔に変わり、周囲の人々が思わず目をそらすほどだった。
「う、うわぁ!な、なんじゃこれ!?」
ヤンキーは思わず悲鳴を上げ、恐怖と混乱の中で自分の顔を触った。エリシアはその様子を見て、ますます興奮を感じた。
「これで完璧ですわ!ヴァイもこれを見たらビビると思いますよ。」
彼女は満足そうに言いながら、完成した髪型を眺めた。
ヤンキーの奇妙な姿は、まるで他の誰も見たことのないもののようで、エリシアはその状況に満足していた。彼女は自分の技術に自信を持ち、どこか誇らしげだった。
やっと終わったと思ったヤンキーは、呆然とした表情で席を立った。
しかし、エリシアはその様子を見て再びイラッと来てしまった。
「何ですの、その顔。柔らかすぎるじゃありませんこと?」
彼女はふんっと鼻を鳴らし、内心の苛立ちを隠せずにいた。
ヤンキーはその言葉に戸惑いながらも、どう反応すればよいか分からなかった。
エリシアは一旦奥に行くと、すぐに戻ってきた。
今度は「スコッチテープ?」のような名前のテープを手に持っていた。
「これを使えば、もっとしっかりと固定できますわ!」
ヤンキーが驚く間もなく、エリシアはそのテープを彼の顔の左右に貼り付け、思い切り上に引き上げた。テープがピンと張られ、彼の顔はさらに不自然な形に固定されてしまった。
「ほら、これで完璧ですわ!もっと引き締まった印象になるはず!」
ヤンキーはその瞬間、再び恐怖と驚きの表情を浮かべ、鏡を見て自分の顔を確認した。
彼の表情はまるで別人のように変わり、周囲の人々はその姿に再び目を奪われてしまった。エリシアは満足げにその様子を眺めていた。
エリシアは、店を後にするヤンキーの背中を見送っていた。彼がドアを開けて外に出ると、その後ろ姿に思わず目を細めた。
「後ろから見ると、毛根そのものが歩いてるみたいでヤバいわ。」
彼の髪型は異様に尖っていて、まるで一本の針のように見えた。
その不気味な姿に、通りすがりの人々は一斉に道を開け始めた。人々の表情は驚きや戸惑いでいっぱいになり、まるで彼を避けるかのように距離を取った。
「これが私の作品ですのよ!」
エリシアは心の中で少し満足しながら、ヤンキーの背中を見続けた。
道を開ける人々の中で、彼だけが異彩を放っているように感じられた。ヤンキーは周囲の視線を受けながら歩いて行く。エリシアはそんな彼を見つめ、内心で微笑みを浮かべていた。
あれから数日後、静かな日常が続いていたある日、エリシアの美容院の店内に突如として大きな音が響き渡った。
——ドーン!
驚いて振り返ると、なんとダンプカーがそのまま店に突っ込んできた。
粉々になったガラスや家具が飛び散り、店内は一瞬にして混乱に包まれた。
エリシアは呆然とし、何が起きたのか理解できずにいたが、すぐに状況を把握した。彼女の店は、ダンプカーによって破壊されてしまったのだ。
「なんてことですの……!」
混乱の中、エリシアはため息をついた。
結局、この事故によって彼女は店を閉店せざるを得なくなった。周囲には人々が集まり、騒然とした雰囲気が漂う中、彼女は自分の店が壊れてしまった現実を受け入れるしかなかった。
「本当に、何が起こるかわからないものですわね…」
静かにその場を離れ、彼女は新たなスタートを切るための準備をしなければならないと心に誓った。




