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エリシア、今日はお休みです……

 ヴァイはその冷徹な目でスクリーンを見つめていた。


 暗い部屋に唯一光を放つモニターには、ネット掲示板の書き込みが次々と表示されていた。その中で、ひときわ目立つ書き込みがヴァイの注意を引いた。


「チーズ牛丼を頼むやつはどうしようもないキモオタ。社会のゴミだ、チー牛ども!」


 投稿者は匿名の引きこもりニートで、過激な言葉で他人を中傷していた。そのコメントには、無数の「いいね」と「共感」がついていたが、その裏には卑劣な意図が隠されていた。


「標的、確認。」


 ヴァイは無感情にそう呟いた。


 ヴァイは依頼を受け、ただ任務を遂行するためだけに存在していた。


 今回のターゲットは、ネット上で悪質な言動を繰り返す引きこもりニート。


 彼の名前は「ニート・カズオ」。社会に対する憎悪を募らせ、匿名性を盾にして他人を傷つけることに喜びを感じていた。


 ヴァイはネットワークを通じてカズオの居場所を特定した。彼が隠れていたのは、郊外の古びたアパートの一室だった。


 ヴァイは瞬時にそのアパートの前に到着した。


 外見はひっそりとしており、まるで人が住んでいる気配は感じられなかった。しかし、ヴァイの感覚器は部屋の奥から微かな光と人の存在を感知していた。


 彼は静かにドアを開け、音を立てずに中へ足を踏み入れた。


 カズオの部屋はゴミと散らかった食べ物の容器で溢れ、悪臭が漂っていた。だが、部屋の中心にあるモニターだけは眩しい光を放ち、キーボードを打つ音が室内に響いていた。


 カズオは全く気づく様子もなく、モニターに向かってヘラヘラと笑っていた。彼は自分の書き込みに寄せられた反応を見て、勝ち誇ったかのように声を上げた。


「ほら見ろ、やっぱりチー牛どもはゴミなんだよ!俺様が正しい!」


 その瞬間、カズオの後ろに立っていたヴァイは、冷たい声で静かに話しかけた。


「カズオ、お前の行動には代償が伴う。」


 カズオは突然背後から聞こえた声に驚いて振り向いたが、そこに立っているのは全身がメタリックな輝きを放つヴァイだった。カズオは目を見開き、恐怖に震えながら椅子から転げ落ちた。


「だ、誰だお前!?なんでここに…!」


 ヴァイは冷徹な目でカズオを見下ろし、淡々と続けた。


「ネットの匿名性に隠れ、人を傷つけるお前の行為は許されない。お前は現実から逃げ、他人を蔑むことで自分の虚しさを埋めようとしている。だが、その代償を払う時が来た。」


 カズオは恐怖に駆られ、這いつくばって逃げ出そうとしたが、ヴァイの足は彼の動きを完全に封じた。


「や、やめろ!俺は何も悪くない!ただ遊んでただけなんだ!」


「お前の『遊び』が他人にどれだけの苦痛を与えたか、理解しているのか?」


 ヴァイは無表情のまま手をかざし、そこから発生するエネルギーが静かにカズオを包み込んだ。カズオは震えながら叫んだが、その声は次第にかき消されていった。


「お前はこれから、自分が蔑んだ者たちと同じ存在になる。二度と他人を傷つけることはできない。」


 ヴァイの言葉と共に、カズオは意識を失い、虚ろな目でその場に崩れ落ちた。ヴァイはその様子を一瞥し、無言で部屋を後にした。


 カズオはその後、完全に意識を失い、自分が何をしたのかを思い出すことは二度となかった。彼のモニターには最後の書き込みが残されていたが、そこに反応する者はもういなかった。


 ヴァイは静かに夜の街へと消えていった。彼にとって、任務はただの任務であり、感情は一切持たない。ただ次の標的を求め、冷徹に任務を遂行するのみだった。


 ヴァイが部屋を去った後、街の静けさが戻った。

 しかし、彼の任務はまだ終わっていなかった。


 ヴァイは冷徹なアサシンでありながら、単に制裁を加えるだけでなく、ターゲットに何かを教えることも時折求められていた。


 今回は「チー牛」呼ばわりするネットの風潮そのものに、何か言い足りないものを感じていた。


 ヴァイはカズオの部屋を出ると、近くの牛丼チェーン店に足を運んだ。


 ここで、彼は新たな任務を遂行するために一人の男を待っていた。


 その男は、ネット上で「チーズ牛丼を頼むやつはキモオタ」と嘲笑していた者の一人であり、自身も頻繁にその言葉を使っていた。


 ヴァイが店内に入り、無言で席に着いた。


 その姿は異様だったが、周囲の客は彼の異質さに気づかず、食事に集中していた。やがて、ターゲットの男が店に入ってきた。


 彼は普通のサラリーマンに見えるが、その実、ネットでの匿名性を利用して他人を攻撃する行為を楽しんでいた。


 男はカウンターに座り、注文を始めた。


「チーズ牛丼の特盛、頼むわ。けどさぁ、やっぱりネットでチー牛って呼ばれる奴ら、あれってほんと笑えるよな…」


 その言葉が口から出た瞬間、男の背後にヴァイが立っていた。


「チーズ牛丼を頼む者を『チー牛』と呼んで嘲笑する行為、それがどれだけ愚かなことか理解しているのか?」


 ヴァイの冷たい声が男の耳元に響き、男は驚いて振り返った。その目に映ったヴァイの異様な姿に、恐怖が広がる。


「な、なんだお前…!?誰だよ、急に…!」


 男は動揺しながら後退ろうとしたが、ヴァイの鋭い視線がそれを許さなかった。


「食べ物には人の好き嫌いがある。それを理由に他人を侮辱することは、人として最も愚かな行為だ。お前が笑っているチーズ牛丼を好む者も、お前と同じように日々の生活を送っている。食べ物の選択で人を判断することなど、何の価値もない。」


 ヴァイの言葉には重みがあり、その冷静なトーンが男を黙らせた。男は何も言い返せず、ただその場に立ち尽くしていた。


「食事は、他者を裁くための道具ではない。それぞれの人が選んだ食べ物に対して、無駄な偏見を持つな。お前のような行動は、誰のためにもならない。」


 ヴァイはそのまま男の目を見つめ、静かに続けた。


「もしお前が本当に社会に対して何かを感じるなら、それを他者を攻撃するために使うのではなく、自分自身を見つめ直すことに使え。今日、お前に警告を与えた。次はない。」


 男はヴァイの言葉を受け、恐怖と恥ずかしさで顔を赤くしながら、何も言わずに席を立ち、そのまま店を後にした。ヴァイはその姿を見送り、無言で店内に残った。


 やがて、ヴァイも静かに店を出た。彼の任務は完了したが、心のどこかにわずかな苛立ちが残っていた。人々が他者を攻撃するために無意味な理由を見つける、その愚かさをいつもながらに感じながらも、ヴァイはまた次の任務へと向かう決意を新たにした。


「食べ物は、人をつなぐものだ。人を分かつものではない。」


 ヴァイの冷徹な心の中に、ほんの少しだけ、温かみを感じさせる言葉が静かに響いていた。





         エリシアちゃんが休みの日でも、「お前の家に来る」からな。

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