表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/724

助けて!エリシア!

 戦士風の男たちは、醜悪なゴブリンを弄んでいた。




 ゴブリンはボール代わりに蹴られたり、逆さまに吊るされたりと、彼らの遊び道具にされていた。ゴブリンはクッソ汚い声で喚き散らし、必死に抵抗しようとするが、力の差は明らかだった。




 その時、突然空気が変わった。




「お待ちなさい!」




 透き通るような凛とした声が響き、戦士たちは一瞬動きを止めた。エリシアが姿を現し、その美しい佇まいと冷ややかな視線で男たちを見下ろした。




「そろそろ、止めていただけます?」




 エリシアは穏やかながらも有無を言わせぬ態度で男たちに近づき、軽く肩に手を置いて押し出した。




「じゃあこの辺で」




 そう言いながら、彼女は男たちを優雅に送り出す。戦士たちはなぜか抵抗することなく、静かに去っていった。




 帰り際、エリシアは軽く手を振りながら、「後で電話しますわ」と言い残した。




 その言葉に、ゴブリンは首をかしげるが、意味が全く分からないまま、ただ呆然とする。




 エリシアはゴブリンの傍に寄り、ベンチに座った。




 しばらくの間、二人は黙って座っていたが、エリシアはそのまま静かにゴブリンと時間を共有するように、柔らかい表情で景色を見つめていた。


 ゴブリンはしばらくエリシアと一緒にベンチに座り、落ち着きを取り戻した。




 そして、エリシアの方を見上げて感謝の気持ちを口にした。




「お、俺を助けてくれて…ありがとよ…。あんた、強そうだな。」




 エリシアは微笑みを浮かべ、ゴブリンの言葉を静かに受け止めた。




「どういたしまして。」




 ゴブリンはふと興味を持ち、エリシアが持っているカバンを指差して尋ねた。




「それで、そのカバンに何が入ってるんだ?」




 エリシアは一瞬考え込み、少し照れたような表情を浮かべながら答えた。




「……パンシロン。」




 その答えを聞いたゴブリンは、一瞬呆然とした後、再び首をかしげる。




 エリシアの言葉の意味はゴブリンにはまるで理解できなかったが、彼女の優しさと落ち着いた態度に、再び感謝の気持ちが胸に湧き上がった。


 ゴブリンはエリシアとベンチに座ったまま、しばらく沈黙していたが、やがて悩みを打ち明けるように口を開いた。




「俺たちゴブリンは、いつも人間にいじめられてばっかりなんだ…。どうしてこんなに弱いんだろう…。もう疲れちまったよ。」




 ゴブリンの声には、深い疲労と絶望が滲んでいた。エリシアはゴブリンの言葉を聞きながらも、どこか興味なさそうな表情を崩さないまま、軽く肩をすくめた。




「魔物らしくないんですわ。もっと筋トレでもしたら?」




 彼女は淡々とそう言い、空を眺めながら軽く手を振る。エリシアの言葉に特別な感情は込められておらず、アドバイスというよりはただの提案に過ぎなかった。


 ゴブリンはその答えを受けて、しばらく考え込むような素振りを見せたが、エリシアのあっさりとした態度に少し拍子抜けした様子だった。




 ゴブリンはエリシアの提案をしばらく考えた後、ふと目を輝かせて、エリシアが持っていた大きな杖に目を留めた。




「手っ取り早く強くなりたいんだ。俺もあんなのがあれば…」




 ゴブリンはエリシアの杖を指差し、憧れの眼差しを向けた。


 杖は立派で重厚なデザインで、いかにも強力な魔力を秘めていそうな雰囲気を漂わせていた。




 エリシアはその言葉に少し困ったような表情を浮かべ、口をモゴモゴさせながら答えた。




「これは……まあ、セカストで買ったやつやし。」




 その言葉に、ゴブリンは一瞬キョトンとした顔をしたが、すぐに強そうに見える杖に再び目を奪われた。


 彼にとって「セカスト」という言葉の意味は全く分からなかったが、エリシアが持つその杖は、ゴブリンには途方もなく強力なものに思えた。


 ゴブリンはただ、それが自分にも手に入るかのように、憧れの目でエリシアを見つめていた。




 エリシアはゴブリンの熱い視線を感じ取り、ふと何かを思いついたように微笑んだ。




「そうですわね、この杖、あなたに譲ってあげてもいいですわ。」




 ゴブリンは驚いて目を見開いた。


「えっ、本当に!?俺に?」




 エリシアは軽く頷きながら、杖を見つめた。




「まあ、本当は100,000Gで買ったものなんですけどね。でも、もう黄ばんでるし、5,000Gでいいですわよ。」




 エリシアは淡々とした調子で言い放つと、再び視線をゴブリンに戻した。ゴブリンはその言葉に驚きながらも、少しの間考え込み、ポケットから古びた財布を取り出した。




「5,000Gか……でも、強くなれるなら……」




 ゴブリンは小さな財布を開いて、中にあるわずかな金額を数えながら悩んでいた。彼にとって5,000Gは決して安くない額だが、エリシアの杖が持つ力に魅了され、どうするべきか決めかねていた。


 ゴブリンが悩みながら財布の中を覗き込んでいると、エリシアはその様子を見て、待ちきれない様子でさっと手を伸ばした。




 彼の手に握られていたお札を、もぎ取るようにして引っ張ると、満足げに頷きながら杖をゴブリンの前に置いた。




「これでお取引成立ですわね。どうぞ、大切にお使いなさい。」




 エリシアはそう言いながら、杖をそのままゴブリンに押しつけると、特に何も言わずにくるりと身を翻して、その場をさっさと後にした。




 ゴブリンは、エリシアが去っていくのを呆然と見つめながら、手に残った杖を見下ろした。




 彼は自分が本当に強くなれるのかどうか半信半疑だったが、手にした杖の重みとエリシアの自信に満ちた態度に、少し期待を抱いていた。




 次の日、ゴブリンは再び戦士たちに絡まれていた。




 しかし、今回は違った。彼は意気揚々とあの杖を掲げ、戦士たちに向かって叫んだ。




「今までの俺とは思うなよ!」




 そう言いながら、ゴブリンは勢いよく杖を振り下ろした。




 だが、次の瞬間、杖は脆くも粉々に砕け散った。




 紫外線で劣化したプラスチック製の杖は、ゴブリンの期待を裏切り、あっという間に使い物にならなくなってしまったのだ。




 戦士たちは一瞬呆気に取られたが、すぐに笑いながらゴブリンを逆さ吊りにした。ゴブリンは結局、またいつものようにいじめられる羽目になった。


 その光景を通りすがりに見たエリシアは、半笑いを浮かべながら眺めていた。




「ふっ、ふふ……」




 彼女は特に助けるでもなく、その場を通り過ぎていった。ゴブリンは虚しくも逆さ吊りになりながら、自分の運命を嘆くしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ