RTA
画面には「エリシアクエスト」のタイトルが大きく表示され、その下に「PRESS START」が点滅している。ゆっくり霊夢の声が、実況として流れてくる。
「ゆっくり霊夢だよー。今日は『エリシアクエスト』のRTAをやっていくよ!」
霊夢は早速スタートボタンを押し、キャラクターの名前入力画面に進む。
「ここで初期設定だと『エリシア』って名前なんだけど、今回はタイム短縮のために『あ』にするよ。名前を短くすると、セリフ送りが少し早くなるらしいからね!」
名前入力欄に「あ」と入力し、画面には可愛らしい「あ」の名前を持ったエリシアが登場する。
「さあ、これでタイムが少しでも縮まるといいけど…やっていこう!」
玉座の間に入ると、豪華な装飾と荘厳な音楽が流れ、まさに冒険の始まりを告げるかのような雰囲気が漂っていた。
しかし、エリシア(あ)は戸惑うことなく、いきなり後ろに向かって歩き始める。
「まずは後ろに戻るよ。このゲーム、チュートリアルがやたら長いからね。普通に進むと時間がかかっちゃうんだよね。」
エリシアが後退しながら、ゆっくり霊夢の解説が続く。ところが、後ろに進もうとするエリシアが突然立ち止まる。玉座の間の中央で、イベントが始まりそうな予感が漂う。
「ここでイベント判定があるから、気をつけないと強制的に始まっちゃうんだよ。だけど、ここで諦めない!」
霊夢の言葉とともに、エリシアがメニュー画面を連打し始める。
メニューを開いたり閉じたりしながら、エリシアは少しずつその位置をずらしていく。
「メニュー連打で、イベント判定を回避しながら位置を微調整していくよ。これでチュートリアルをスキップできるんだ。」
画面上では、エリシアが玉座の間をゆっくりと斜めに移動している。イベント判定に引っかかりそうになりながらも、なんとかすり抜けようと必死にメニューを操作している様子が映し出される。
「もう少し…あと少しで…よし!突破できた!」
霊夢が満足そうに声を上げた瞬間、エリシアがついにイベントの範囲を抜け出し、再び自由に動けるようになる。
「これで長いチュートリアルをスキップして、次のステージへ進めるよ!時間短縮成功!」
エリシアは玉座の間を後にし、次のエリアへと向かって歩き始める。霊夢はその姿を見守りながら、RTAの解説を続けていく。
エリシアが次のエリアに到達すると、彼女はすぐにマップ上の小さな家へと向かう。目的地を知っているかのように、その家の壁の角へ一直線に向かって走り始めた。
「ここでやるべきは、壁の角に向かってぐるぐる回り続けることだよ。」
霊夢の解説に従い、エリシアは壁の角にぶつかりながら、ひたすら回り続ける。視点がぐるぐると回転し、エリシアの姿が壁にめり込んでいく。
「このテクニックを使うと、キャラが壁にめり込んで亜空間に落ちるんだ。ここが重要なポイント!」
画面には、エリシアがまるでゲームのバグを引き起こしたかのように、突然壁の中に消え、亜空間に落ちていくシーンが映し出される。キャラの姿は見えなくなるが、次の瞬間、エリシアは街の外れに姿を現す。
「成功!これで亜空間を通って、通常では行けない場所に移動できるんだ。」
エリシアが街を出ると、予想通り、キャラは「Tポーズ」のまま空中に漂い始めた。
腕を水平に広げたまま、まるで人形のように静止したエリシアが、ゆっくりと空を漂う。
「Tポーズのまま自由に飛行できるようになったよ!これで好きな場所に飛んでいけるんだ。まるで空を自由に旅しているみたいでしょ?」
エリシアは空中を移動し、通常では到達できないエリアやショートカットを使ってゲームを進めていく。
エリシアがTポーズで空中を漂いながら、次に向かったのは「五つの宝玉」を集めなければならないダンジョンだった。
ゲームを進めるためには、これらの宝玉を全て集める必要があるが、霊夢は別の方法を取ることにした。
「ここで普通に五つの宝玉を集めるのは時間がかかるから、アイテム増殖バグを使って一個を五つに増やすよ。」
エリシアはダンジョンの最初の部屋に入り、早速最初の宝玉を手に入れる。その宝玉を手にした瞬間、霊夢はすぐにアイテムメニューを開く。
「まずはアイテムを並び替えるよ。ここで宝玉を一番上に持ってくるのがポイントなんだ。」
霊夢がエリシアを操作し、アイテムを慎重に並び替える。宝玉が一番上に配置されると、次は倉庫にアイテムを入れる動作が始まった。
「この手順がちょっと複雑だけど、うまくやるとアイテムが増殖するんだ。まずは宝玉を倉庫に入れて…すぐに取り出す。」
エリシアが宝玉を倉庫に預け、すぐにまた手元に戻す。その後、また並び替えを行い、倉庫に別のアイテムを入れてから宝玉を再度移動させる。
「ここで一度倉庫から全てのアイテムを出すよ。そして、また並び替えて…」
複雑な手順が続き、霊夢は次々とエリシアを操作していく。画面上では、アイテムメニューが目まぐるしく変わり、宝玉が複数に増殖していく様子が見られる。
「よし、成功!宝玉が五つに増えた!」
メニュー画面には、同じ宝玉が五つ並んで表示されている。これで全ての宝玉が揃った状態になり、霊夢は満足げに実況を続ける。
「これで時間を大幅に節約できたね!次はこの宝玉を使って、ゲームを進めるよ!」
エリシアはTポーズのまま、空中浮遊バグを利用して通常では歩けない場所をうろうろしていた。
地上では到達できない断崖絶壁や建物の屋根の上を漂いながら、エリシアは意図的に視界外の危険地帯へと近づいていく。
「ここ、普通は絶対行けない場所なんだけど、バグを使えば自由に探索できるんだよね。」
霊夢が楽しげに解説する中、エリシアは戦闘ゾーンに突入した。通常のフィールド上ではない場所での戦闘が始まると、エリシアはあえて攻撃を受け続ける。
「さて、ここでわざと全滅してみるよ。通常のゲームだと、全滅するとタイトル画面に戻るんだけど…」
敵からの攻撃が続き、エリシアのHPがゼロに近づいていく。
そして、ついに画面が暗転し、ゲームオーバーの表示が出るかと思われたその瞬間、予想外の光景が目の前に広がった。
「おっと、見て!デバック画面に入ったよ!」
画面にはデバックツールが表示され、キャラクターの座標やゲームのフラグ状態、マップの情報などが詳細に表示されている。
「このエリアでは、戦闘が終了するとデバック画面に入るように設定されてるんだ。製品版でも消去されていなかったみたいだね。」
霊夢の声が驚きと興奮を帯びる。プレイヤーの想定外の動きが、ゲームの隠された機能を引き出してしまったのだ。
「これを使えば、ゲームの裏側を覗けちゃうね。でも、慎重にしないとデータが壊れるかも…」
デバック画面の項目を慎重に眺める霊夢は、ゲームの内側にアクセスできるこの瞬間を楽しんでいるようだった。
デバック画面を探索している最中、霊夢は何やら興味深いリストを発見した。
「これって…スタッフが悪ふざけで作ったアイテムじゃない?」
霊夢の声が少し興奮気味に響く。リストには、通常のプレイでは手に入らない最強装備のデータが並んでいた。
「せっかくだから、これを引き出して使ってみよう!」
霊夢がいくつかのコマンドを入力すると、エリシアの装備リストに新しいアイテムが追加される。
「まずはこれ、竹刀!攻撃力999で防御力を完全無視する、最強の武器だよ。」
エリシアの手に竹刀が握られ、その姿は一瞬にして圧倒的な強さを感じさせるものに変わる。
「次は、アフロヘアー。これを装備すると、全ての属性攻撃が無効化されるんだ。どんな攻撃も効かなくなるから、まさに無敵!」
エリシアの髪が一瞬にして大きなアフロヘアーに変わり、彼女の姿が異様に目立つようになる。
「そして、嫌な感じのブーツ。これを履くと、必ず最初に行動できるうえ、二回行動が可能になる。敵が何をする暇もなく、こちらのターンが終わらないってわけ!」
エリシアの足元にブーツが装着され、少し不気味なオーラを放ちながらその性能を発揮する準備が整った。
「最後に、にゃんにゃんスーツ。これを装備すると、回避率が最大になって、どんな攻撃もかわすし、全ての状態異常も無効になる!」
エリシアがスーツを装着すると、彼女の動きが俊敏になり、まるで猫のように軽やかで鋭い印象を与える。
「これでエリシアは完全に無敵!これからこの装備でどんな敵も瞬殺していくよ!」
霊夢が満足げに笑うと、エリシアは再びTポーズで空中に浮かび、最強の装備を揃えたまま次の冒険へと向かっていった。
エリシアは最強装備を揃えたまま、Tポーズでラストダンジョンに向かって一直線に進んでいく。
浮遊する彼女の姿は、まるで何もかもが無力であるかのように圧倒的な力を放っていた。
「さあ、このままラストダンジョンへ突入して、最速でクリアしちゃおう!」
ゆっくり霊夢は、エリシアを操作しながら楽しそうに声を上げる。
しかし、次の瞬間、霊夢の部屋のドアが突然激しい音を立てて蹴飛ばされた。ドアが大きく開き、音が響き渡る。
「何だ!?」
霊夢は驚き、画面から視線を外す。
頭部だけの肉饅頭型キャラクターである霊夢は、その小さな体を反射的に震わせた。
ドアの向こうには、何者かの影が立っている。しかし、霊夢はその正体を確認する前に、パニック状態になってしまった。
ドアの向こうから、エリシアが怒りの表情を浮かべながら登場した。
彼女は霊夢を鋭い目で睨みつけ、その気品ある佇まいを保ちながらも、怒りが爆発寸前であることは明らかだった。
「なんやこれ、普通にゲームしろや!……ですわ!」
その声はいつもの優雅さを保っているものの、明らかに苛立ちが滲み出ていた。霊夢はその迫力に一瞬ひるんだが、さらに事態が悪化していることに気づく。
「ずっと私、Tポーズのままや!おい!」
霊夢が慌ててゲーム画面に目を戻すと、そこにはエリシアの姿が消えており、Tポーズのまま浮遊していたはずのキャラクターがいなくなっていた。
「こ、これは…」
霊夢が困惑する間もなく、エリシアはその存在感をまるごと現実世界に持ち込んだようだった。
「なんでゲームの中で私がTポーズのままで飛び回ってるのか、説明してもらいますわよ!」
エリシアの声が低く響き、霊夢は頭部をゆっくりと振りながら、どうにか言い訳を考えようとする。しかし、エリシアの怒りは収まりそうになく、霊夢はこの状況をどう切り抜けるべきか頭を悩ませていた。
エリシアの怒りは収まるどころか、さらに燃え上がっていた。
彼女はそのままTポーズの姿勢を崩さずに、霊夢に向かって一歩踏み出す。頭部だけの肉饅頭型キャラクターである霊夢は、震えながら後ずさりするが、逃げる場所はない。
「私がTポーズでふわふわ漂うだけの存在だと思ってたんですの?」
エリシアは冷ややかな笑みを浮かべ、Tポーズのまま霊夢の頭に手を伸ばした。次の瞬間、彼女はその手で霊夢の頭をバシバシと叩き始めた。
「バシッ!バシッ!」
霊夢はびっくりして叫び声をあげたが、エリシアは容赦なく叩き続ける。
「この私をこんなふざけた姿にするなんて…バシッ!許せませんわ!バシッ!」
エリシアの手の動きは速く、霊夢の頭部をリズミカルに叩き続ける。霊夢は痛みを感じることはないものの、その衝撃に驚き、目を白黒させている。
「ごめん!ごめんってば!もう二度とTポーズにさせないから!バシッ!」
しかし、エリシアの怒りはまだ収まらず、Tポーズのままさらに一撃を加えた。
「本当に反省してますの?バシッ!バシッ!」
「うぅ…反省してるよ~!」
エリシアはようやく手を止め、少し落ち着いた様子で霊夢を見下ろした。
「なら、今度こそちゃんとプレイしてくださいまし。」
霊夢は、ようやくエリシアが手を止めてくれたことに安堵しつつ、ゲームに戻ることを決意した。
エリシアが手を止め、ようやく怒りが収まったかに見えた。しかし、霊夢は少しも反省する様子を見せず、むしろ楽しげに笑いながら言った。
「じゃあ、続きやっていくね〜!」
霊夢が再びゲームに目を向け、操作を再開しようとした瞬間、突然、画面から異常な音が響き渡った。
「きええええええぇええぇ!」
その声は尋常ではないほどの大音量で、部屋中に響き渡る。スピーカーがその衝撃に耐えきれず、爆発した。




