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南国リゾートホテルですわ

 エリシアは長い冒険の疲れを癒すため、南国リゾートホテルをネットで予約した。




 美しいビーチと静かな環境に囲まれた贅沢な時間を期待し、ワクワクしながら現地に向かった。




 しかし、ホテルに着くと、目の前に広がっていたのは驚くほど静かな光景だった。




 エントランスには誰もおらず、受付カウンターにも、スタッフの姿が見当たらない。エリシアは一瞬立ち止まり、周囲を見渡したが、人影は全くなかった。




「……なんですの、これ?」




 エリシアは眉をひそめ、心の中で不安が芽生えた。しかし、すぐに持ち前の好奇心が勝り、ホテルの入り口に貼られている小さな看板に目を向けた。




「無人販売を反映した次世代型ホテルへようこそ?」




 看板にはそう書かれており、エリシアは目を細めて看板の下に続く説明文を読み進めた。




 そこには「当ホテルでは全てのサービスが自動化されており、チェックインからお食事、アクティビティの予約まで、全てお客様ご自身で操作していただきます」と書かれていた。




「……なんですって?」




 エリシアは呆然とした表情を浮かべた。これまで数々の冒険をしてきた彼女でも、無人のホテルに泊まるというのは初めてだった。




 エリシアはエレベーターを降り、501号室のドアを開けた。




 部屋に入ると、目の前には素晴らしい景色が広がっていた。窓からは青い海が一望でき、オリエンタルな内装は落ち着いた雰囲気を醸し出している。長旅の疲れが一気に和らぐような気がして、エリシアは思わず微笑んだ。




「なかなか良い部屋ですわね……」




 エリシアはベッドに腰を下ろし、リゾートホテルの雰囲気を楽しみ始めた。オリエンタルな家具が並ぶ部屋は、まさに彼女が求めていたリラックス空間そのものだった。




 しかし、そのとき——




 天井裏からゴトゴトと奇妙な音が響いてきた。




 エリシアは眉をひそめ、音のする方向に目をやった。


「……何ですの、この音?」




 エリシアが不審そうに天井を見上げていると、突然、ダクトのカバーが外れて、何かがゴソッと落ちてきた。




 驚いて身を引いたエリシアの目の前に、黒い衣装を身にまとった忍者が現れた。




「なんですの、あなた!?」




 忍者は素早く立ち上がり、慌てて手を振りながら言い訳を始めた。




「違うでござる!拙者は忍者ではござらんよ!」




 その言い訳が終わるか終わらないかのうちに、天井からさらに手裏剣やロープなど、忍者の道具がバラバラと降り注いできた。


 部屋の中は一瞬で混乱状態に。




「どう見ても忍者ですわよ!」


 エリシアはため息をつきながら忍者を追い出すことにした。




 忍者は必死に「忍者ではない」と言い訳し続けていたが、エリシアの無言の圧力に負け、道具を片付ける間もなく逃げ去った。




「まったく、南国リゾートに来てまで何なんですの……」




 エリシアは呆れつつも、再びベッドに腰を下ろし、騒ぎが収まった部屋で静かにくつろぎ始めた。だが、心のどこかに残った不安が、彼女を完全にリラックスさせてはくれなかった。




 部屋での騒ぎが収まり、エリシアは気を取り直して、タッチパネルで夕食を注文することにした。




 画面に表示されたメニューはどれも豪華で、美味しそうな料理ばかりだ。エリシアは迷うことなくステーキを選んだ。




「豪華なディナー、楽しみにしてますわよ」




 しばらくすると、ドアの外から配膳ロボットの機械音が聞こえてきた。




 自動でドアが開き、配膳ロボットがゆっくりと部屋に入ってくる。ステーキが乗ったプレートからは、ジュウジュウと美味しそうな音が立ち上り、香ばしい香りが漂ってきた。




「おお、これですわ。これを待ってたんですわよ」




 エリシアは嬉しそうに手を伸ばしかけたが、ふと、ロボットの足元に何かがちらつくのを見つけた。




 足元でちょこちょこと動く影……。




「なんですの、あれは……?」




 エリシアは目を細めて影を確認しようとするが、ロボットがその動きを遮るように進んでくる。ますます不審に思ったエリシアは、突然ロボットの横に回り込み、力強くひっくり返した。




「これでもくらいなさい!」




 ガシャーンとロボットがひっくり返り、その下から現れたのは——またしても、忍者!




「あっ!拙者は忍者ではござらん!」




 忍者は再び言い訳を始めるが、エリシアはもう呆れることすらせず、手を振りかざして叫んだ。




「ええねん!どっか行きやがれですわ!」




 忍者は慌ててロボットの陰に隠れようとするが、エリシアの鋭い一喝に怯んで、ステーキを残してそそくさと逃げていった。


 エリシアは残されたステーキを見つめ、深いため息をついた。




「何なんですの、もう……。南国リゾートでこんなことになるとは思いませんでしたわ」




 彼女はステーキをテーブルに戻し、やっとのことで落ち着いて食事を始めた。




 エリシアはリゾートの魅力を味わおうと、プールサイドを優雅に歩いていた。




 夜風が心地よく、静かに波打つプールと星空が広がる南国の風景は、まさにリラックスするには最高のシチュエーションだった。




「こういう時間が必要なんですわ……癒されますわね」




 しかし、ふと静寂を破るように、植え込みのあたりからガサガサという不審な音が聞こえてきた。


 エリシアは眉をひそめてその方向を見つめる。風も吹いていないのに、妙に音がするのが気にかかる。




「……なんですの、この音は?」




 エリシアは警戒しながら植え込みに近づいてみると、そこにはなんと——またしても忍者が隠れていた!




 しかも、両手に木の枝を持ち、周囲に溶け込むようにカモフラージュを試みている。




 忍者はエリシアと目が合うと、慌てて言い訳を始める。


「拙者は忍者というわけではござら——」




 言い終わる前に、エリシアは無言で忍者の背中を蹴り飛ばした。




 忍者は勢いよくバランスを崩し、見事にプールにドボンと落ちた。水しぶきが高く上がり、忍者は慌てて水中でばたついている。


 エリシアは冷ややかな目でそれを見下ろし、軽く溜息をついた。




「これでちょっとは大人しくなりますわね」




 そのまま気を取り直して再びプールサイドを歩き始めたエリシア。風も気持ちよく、忍者の騒ぎもすっかり忘れ、静かな夜を満喫することにした。




 エリシアは、リゾートホテル内にあるバーに立ち寄った。




 リゾートの夜を締めくくる一杯を楽しむつもりだったが、そこには他に客が一人もおらず、店内は静寂に包まれていた。バーのカウンターに座ると、少し気味が悪いほど静かだった。




「誰もいませんのね……まあ、落ち着いて飲めるからいいんですけど」




 バーテンダーは、この無人リゾートホテルの数少ない人間スタッフらしく、ロボットではないようだ。


 エリシアが軽くお酒を注文すると、バーテンダーは無言で頷き、シェイカーを手に取ってシャカシャカとリズミカルに振り始めた。




「……自動演奏のピアノも悪くないですわね」




 エリシアは、バーの隅にある自動ピアノに目を向け、その優雅な音色に耳を傾けていた。




 しかし、ふとシェイカーの音が途絶えたことに気づく。


「ん……?」




 不審に思ってカウンターに目を戻すと、そこにはバーテンダーではなく、なぜか巻物をシャカシャカと振っている忍者が立っていた。




「焼酎水割りでござる!」


「頼んでへん、そんなもん!」




 エリシアは、怒りがこみ上げるのを感じながら、勢いよく席を立ち、忍者を無視してバーを後にした。




「どうしてこうなるんですの……リラックスしに来たはずが、全然癒されませんわ!」




 エリシアは一日の疲れを癒すべく、リゾートホテルの広いベッドに体を沈めようとしていた。




 部屋は静かで、南国の夜風が窓からそよそよと入ってきていた。だが、どうもマットレスの感触が妙に気持ち悪い。




「なんですの、このぼこぼこした感じ……」




 何度も寝返りを打ってみたが、どうにも落ち着かない。とうとう我慢できなくなったエリシアは、マットレスを勢いよくぶん投げた。




「一体なんですの!」




 ベッドの下に目をやると、そこには忍者が……。




「いや、忍者ではござらんよ、拙者は」


「倒置法で喋んなああぁ、オラああぁっ!」




 エリシアは即座に忍者を掴むと、そのまま窓の外へと力いっぱいぶん投げた。忍者は空中をくるくると回転しながら夜の闇に消えていった。




「もう、忍者のせいで全然寝れませんわ!」




 エリシアはふんと鼻を鳴らし、マットレスを再びベッドに戻して、ようやく眠りについた。




 後日、エリシアはふと気になり、あの南国リゾートホテルについてネットで検索をしてみた。




 あの奇妙な忍者のことがどうしても頭から離れなかったのだ。




 しかし、検索結果に表示されたのは「マジでやばい廃墟について語るスレ」というスレッドばかり。




 エリシアは絶句した。


「ちょ、ちょっと待つですわ……廃墟……?」




 画面に映るのは、荒れ果てたホテルの写真や、心霊現象が報告される書き込みの数々。




 そこには、「あのホテルは廃墟と化していて、何年も無人である」という証言がズラリと並んでいた。




「まさか……私が泊まっていたのは……」




 エリシアはゾッとした。画面を閉じる手が、微かに震えていた。

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