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たまには暴れたい!

 エリシアには、たまにどうしても暴れたくなる日がある。




 そんな日は、喧嘩相手を探しに街へ繰り出すのが一番だ。今日はその気分だった。




 まずエリシアが向かったのは、静かなカフェ。


 紅茶を頼んで一息ついていると、後ろの席から若いグループの笑い声が響いてきた。楽しそうに話す彼らの声が、エリシアの耳にどんどん刺さる。




「うっせえですわ!ガキコラ!」




 エリシアは勢いよく立ち上がり、彼らに向かって突っ込んだ。


 だが、予想に反して若者たちは怯んだ様子で、すぐに謝った。




「すんません……久しぶりに友達と会ったんで……」




 エリシアは拍子抜けしてしまった。もっと反抗してくるかと思いきや、すぐに静かになった彼らに喧嘩を売る気も失せた。




 次にエリシアが向かったのは酒場。




 ここなら強そうな奴がいるはずだと考え、わざとミルクを注文した。


 周りの客たちが笑ったら、その瞬間ぶちのめしてやるつもりだった。




 しかし、エリシアの思惑とは裏腹に、誰も彼女のことを気にしていない。ミルクを注文しても、誰一人として笑う者はおらず、周りの客たちは自分の飲み物に夢中だった。


 エリシアは内心で舌打ちをしながら、ミルクを一口飲んでため息をついた。どうやら、今日は誰とも喧嘩できそうにないらしい。




 エリシアは、街を歩いているときにふと女性がチンピラ風の男たちに絡まれているのを目撃する。




「チャンスですわ!」


 つぶやき、すぐにその場に駆け寄った。




「おうおう!何してくれとんじゃ!」




 エリシアは勢いよくチンピラたちに声をかける。




 だが、状況をよく見ると、チンピラだと思っていた男たちは私服警官で、女性はスリの常習犯だった。エリシアはその場で事情を説明され、なんだか恥ずかしくなった。




「紛らわしいんじゃ!」




 捨て台詞を吐き、その場を立ち去るエリシア。期待していた喧嘩のチャンスがまたもや消え、さらにイライラが募るだけだった。




 街を歩いているエリシアは、路上で「殴られ屋」と書かれた看板を発見した。




 一回500Gで殴り放題、という面白そうな企画に目を引かれ、早速支払おうと財布に手を伸ばした。




 しかし、殴られ屋の男がエリシアをじっと見つめ、険しい顔で「プロお断り」と言い放った。


 一瞬で沸き上がる怒りを抑えきれず、エリシアは拳を振り上げて絶叫する。




「きええええええぇ!」




 しかし、周囲の人々はその叫びを恐る恐る聞き流し、殴られ屋も無言で後ずさるだけだった。エリシアの暴れたい欲求は、またしても満たされずに終わった。




 エリシアは「魔王を倒す勇者募集!」の張り紙を見つけた瞬間、心の中で炎が燃え上がった。




「やっときましたわ……!」




 彼女の心臓は鼓動を早め、全身に興奮が駆け巡った。これまでの冒険で培った力を存分に発揮できる、絶好の機会だと思ったのだ。


 王城に着いたエリシアは、王様の前に勢いよく膝を突き、誓いの言葉を口にした。




「わたくしが魔王を倒して差し上げますわ!勇者など要りません、わたくし一人で十分ですの!」




 彼女の言葉に王様は少し面食らったが、エリシアの熱意を感じ取り、深く頷いた。




「それは心強い!ぜひ頼むぞ、エリシア殿!」




 しかし、その言葉が終わるか終わらないかのうちに、伝令が血相を変えて駆け込んできた。




「魔王が倒されたぞおおおお!」




 伝令の言葉が耳に入った瞬間、エリシアの顔が凍りついた。数秒の静寂が続き、次に起こったのは彼女の顔に浮かんだ狂気の笑み。




「え……今、なんて……?」




 彼女の声はかすかに震えていたが、その震えはすぐに怒りへと変わった。




「魔王が……倒された?誰が倒したって言うんですの!?わたくしの役目じゃありませんの!?」




 エリシアの声は次第に大きくなり、その怒りの炎は彼女の瞳に映り込んでいた。周囲にいた侍女や騎士たちは一斉に顔を見合わせ、困惑した様子で後ずさりした。




「王様、わたくしの出番がないですわ……!こんなこと、許せるわけありませんわ!!」




 彼女の怒号が王城全体に響き渡り、柱や壁が微かに震えた。


 エリシアの狂気じみた様子に、王様はもちろん、侍女たちも困惑し、誰もが息を呑んで彼女の様子を見守るしかなかった。


 王城の空気は張り詰め、エリシアの怒りが収まる気配はまるでなかった。彼女の目は鋭く、手が小刻みに震えている。誰もが一歩後退し、その場の緊張感は一瞬でピークに達した。




 エリシアの怒号が再び響き渡る。




「きええええええええぇえぇえぇ!」




 その声はまるで城そのものを引き裂くかのようで、城内の誰もが彼女を恐れ、困惑し、ただその場に立ち尽くすことしかできなかった。

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