お片付けですわよ〜
アザラシちゃんとキツネくんは、並んで歩きながら楽しい旅を続けていました。
青空の下、風がそよそよと吹いて、アザラシちゃんは思わず大きなくしゃみをしてしまいました。
「くしゅん!」
くしゃみをした瞬間、アザラシちゃんの目には涙が浮かび、ぽろぽろと泣き始めました。キツネくんが心配そうに尋ねます。
「どうしたんだい、アザラシちゃん?くしゃみで泣くなんて、どういうこと?」
アザラシちゃんは涙を拭いながら答えました。
「だって……くしゃみをすると『お片づけお嬢様』が現れて、僕をお屋敷のお菓子の棚に片付けちゃうんだもん。どうしよう……」
キツネくんはアザラシちゃんの妄想に驚いて、思わずツッコミを入れました。
「そんなわけあるか!」
その瞬間、アザラシちゃんの頭の中では、妄想がどんどん膨らんでいきます。
「あなたみたいにくしゃみをする子は片づけちゃいますわね〜。暗い暗い戸棚に片付けちゃいますわ〜」
想像の中で、上品なドレスを着た「お片づけお嬢様」がにこやかに言いながら、アザラシちゃんをひょいっと持ち上げ、暗い棚の中にしまい込もうとするのです。
キツネくんはアザラシちゃんの頬を軽くつついて、笑顔で言いました。
「アザラシちゃん、そんな変なこと心配しないで。くしゃみくらいで片付けられることなんて、絶対にないからさ!」
アザラシちゃんはキツネくんの言葉を聞いて、少しずつ涙を拭いながら、安心したように笑いました。そして、二人は再び楽しい旅を続けていきました。
二人が楽しそうに歩いていると、目の前にバスがやってきました。
しかし、バス停にたどり着く前にバスは走り去ってしまい、二人は乗り遅れてしまいました。
アザラシちゃんはバスが見えなくなると、再びぽろぽろと涙を流し始めました。キツネくんは困惑しながら尋ねました。
「また泣いてるの?今度はどうしたんだい?」
アザラシちゃんは涙をぬぐいながら答えました。
「だって……僕みたいなのがバスに乗り遅れると、後ろから『お片付けお嬢様』がコブラAC289(V8エンジン搭載)でやってきて、僕をお屋敷のツールボックスに片付けちゃうんだもん。どうしよう〜」
キツネくんはその言葉を聞いて、思わずツッコミを入れました。
「車だけやけに詳しいなお前!」
その瞬間、アザラシちゃんの頭の中では、またもや妄想が広がっていきます。
「バスに乗り遅れちゃった子はせま〜いせま〜いツールボックスに片付けちゃいますわよ〜」
アザラシちゃんの想像の中で、「お片付けお嬢様」がエンジン音を轟かせながらコブラAC289に乗ってやってきて、アザラシちゃんをツールボックスにぎゅうぎゅう詰めにしようとしているのです。
キツネくんは笑いながらアザラシちゃんの頭を軽くなでて言いました。
「アザラシちゃん、そんなこと絶対にないから心配しなくていいんだよ。ほら、次のバスを待とう!」
アザラシちゃんはキツネくんの言葉を聞いて、少し安心しながら涙を拭き、二人は次のバスが来るのを待つことにしました。
バスを待ちながら二人がベンチに座っていると、一匹の蚊がキツネくんの周りを飛び回り始めました。
キツネくんは手を振りかざし、蚊を叩き潰そうとしましたが、その瞬間、アザラシちゃんが慌ててキツネくんの手を止めました。
「だめだよ!虫を殺しちゃ!」
キツネくんは驚いてアザラシちゃんを見つめました。
「どうしてだよ?蚊に刺されちゃうじゃないか!」
アザラシちゃんは真剣な表情で答えました。
「虫を殺す悪い子は、『お片付けお嬢様』にお屋敷に連れて行かれて、キッチンの床下収納に片付けられちゃうんだ〜」
またもやアザラシちゃんの頭の中で妄想が広がります。
「虫を殺す悪い子はこわ〜いこわ〜いキッチン下に片付けちゃいますわね〜。片付けちゃいますわよ〜」
妄想の中で、「お片付けお嬢様」は不気味な笑みを浮かべ、キッチンの床下収納を開けて、そこにキツネくんをぎゅうぎゅうと押し込めようとしています。アザラシちゃんはその光景におびえた様子を見せます。
キツネくんはアザラシちゃんの話にとうとう我慢の限界が来て、ぷっつりと切れてしまいました。顔を真っ赤にして怒鳴ります。
「いい加減にしろ!次そんなこと言ったらマジでお片付けお嬢様呼ぶからな!」
アザラシちゃんはびっくりして、少しだけ縮こまりましたが、キツネくんの怒りもあってか、妄想の話はやめました。
「まあ、そんなやついるわけないけどな」
キツネくんがそう言って、二人はまた歩き出しました。
しかし、背後から「おほほほ……」というかすかな笑い声が聞こえたような気がしました。
キツネくんとアザラシちゃんは一瞬立ち止まり、互いの顔を見合わせましたが、気のせいだと思い、また歩き始めました。
結局、二人は何事もなくそのまま旅を続けました。




