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エリシア(Lv999.魔法攻撃力99999999)「あなたネットで私のこと馬鹿にしてましたわね」

 エリシアは冒険の合間に収入源を確保する必要があった。




 魔法や剣術の訓練だけでは生活費が足りず、異世界での金銭的な余裕も限られていた。そんな折、通りかかった求人広告で「コールセンターのバイト募集」を見つけた。




 彼女はその求人を興味深く見つめながら、これも一つの試練かもしれないと思った。


 異世界での経験とは異なり、コールセンターの仕事は新たなスキルと冷静さを要求された。自分の対応力を試す良い機会だと感じたエリシアは、すぐに応募することに決めた。


 採用されると、彼女はコールセンターのデスクに座ることとなり、仕事は電話を通じて顧客の苦情や質問に答えることだった。




 エリシアは電話の受話器を手に取り、コールセンターのデスクに座っていた。




 周囲は淡い蛍光灯の光に照らされ、パソコンの画面に表示された顧客情報が青白く光っている。


 彼女の前には電話機とメモ帳があり、業務用のヘッドセットが耳に装着されている。今日は一日中、顧客からの苦情を処理する仕事だ。




 電話が鳴り響き、エリシアは素早く受話器を取った。


「もしもしぃ?、弊社ですけど!」




 電話の向こうから、いきなり怒声が飛び込んできた。




「お前んとこのゲームさぁ、クソゲーじゃねえかよ!バグだらけで遊べたもんじゃねえ!」




 エリシアは一瞬、心の中で「またか」とつぶやいた。けれど、冷静さを失わずに対応を始める。




「お客様、ご不便をおかけして申し訳ありません。どのような問題が発生しましたか?」




 電話の向こうではさらに怒りが増していく様子が伝わってきた。




「具体的にって、もう一回やってみろっての!いくらやってもクリアできねえし、セーブもできねえし、もうイライラしてんだよ!」




 エリシアは冷静に受け答えを始めた。




「申し訳ありません。具体的にどのような問題が発生しているのか、お伺いしてもよろしいでしょうか?」




「キャラクター欄の左上が空欄で、セーブデータを消去する瞬間、カセットを半挿しにしてゲームを再起動しようとしたんだけど、どうしてもできないんだよ!」




 エリシアはメモを取りながら、男性の説明を聞いた。ゲームの特定のバグについて話しているようだ。




「それから、キャラ選択でAを選ぶと伝説のキャラクターの色違いが手に入るって聞いたんだけど、何度やってもできないんだ。どうなってるんだよ!」


 エリシアは問題の状況を整理しながら答えた。


「まず、キャラクター欄の空欄についてですが、それがバグによるものである可能性があります。ゲームのバージョンやパッチが最新であるか、またセーブデータが正しく保存されているかを確認していただけますか?」




 男性の声が少し落ち着きを取り戻し、続けた。


「確認したけど、どうしても直らないんだよ」




「なるほど。それでは、カセットを半挿しにしての再起動についてですが、こちらは公式には推奨されていない方法ですので、バグが発生する可能性があります。公式の方法での対処を試みていただくのが良いかと思います。」




 電話が切れると、エリシアは深く息を吐いた。こうした複雑な問題に対処するのは大変だが、彼女は全力で対応しようと心に決めた。


 エリシアはコールセンターの休憩室に入り、軽く腰を下ろしてから、ポケットに入れていたスマートフォンを取り出した。




 仕事の合間に少しリラックスしようと、ネットサーフィンを始める。




 彼女はゲーム会社のフォーラムにアクセスし、最近のトピックを確認しようとした。




 すると、一つのスレッドが目に留まる。




 タイトルには「ゲーム会社のバグに関する悪口」と書かれており、エリシアは興味本位でクリックした。


 スレッドの内容を読み進めると、ゲームのバグについての不満が続々と書かれていた。


 プレイヤーたちは不満をぶつけ、さまざまな問題点を指摘している。エリシアは一つ一つの書き込みを軽く目を通し、特に目立つものにはマーキングを付けた。




 その後、彼女はスレッドの中に混じっている「コールセンターの対応が酷い」というコメントを発見した。




「もしもし弊社です!」というフレーズが意味不明だと指摘し、「なんだよ弊社って!もっと普通の言葉使えよ!」と不満をあらわにしている書き込みがあった。




 エリシアは一瞬目を見開き、その書き込みをじっと見つめた。


「な、なんて失礼な……」




 彼女は自分がどれだけ丁寧に対応しているか、そして「弊社」という言葉の意味をたぶんおそらく理解しているはずだが、ネット上での反応は時に理解しがたいものがある。




 エリシアはコールセンターでの仕事が終わった後、ネット上での悪口にイライラしていた。




 特に、自分の対応についての批判が気に障り、どうしても収まらない。決心した彼女は、自宅に戻り、特別な魔法具を使う準備を始めた。


 彼女は静かに心を落ち着け、魔法の儀式を始めた。


 デスクの上に広げた魔法の書物と道具を使い、LANケーブルの信号を追跡するための探知魔法を唱える。




「これで、どこにいるか分かるはず。」




 彼女の手が繰り出す魔法の力で、LANケーブルを通じてインターネットの信号が具現化する。淡い光が広がり、線の先にある信号が次第に明確になっていく。


 しばらくすると、エリシアは住宅街に辿り着いた。特定の家がその魔法の力によって示され、住所が浮かび上がっていた。




「これが、その悪口を書いた人の家……」




 彼女は静かに家の前に立ち、深呼吸をして冷静さを保ちながら、玄関のベルを鳴らした。ドアが開くのを待つ間、心の中で計画を立てる。




 深夜の部屋の中、薄暗い光がモニターのスクリーンを照らしていた。




 キーボードを前にした奇妙な男、デオはクッションに腰掛けてニヤニヤしながら、キーボードを打ち続けていた。


 部屋の空気は陰鬱で、デオの背後には暗い影が広がっている。彼の目はスクリーンに釘付けになり、その顔には不気味な笑みが浮かんでいた。




「これで、またひとつ悪質な書き込みが完成だ。」




 デオは画面に表示された文章を確認しながら、高笑いした。




「セーブデータを消去するための嘘の攻略情報、完璧だ!これでまた一人、混乱するだろう!」




 彼はキーボードの上で指を軽やかに動かし、次々と新しい悪質な書き込みを作成していく。


 その内容は、ゲームのバグを指摘するかのように見せかけて、実際にはプレイヤーのセーブデータを削除させるようなものだった。




「フフフ、これでどれだけの人が苦しむことになるのか……」




 デオはその書き込みをネット上に投稿し、満足そうに目を細めた。




「この愉快なイタズラ、誰にも止められないさ。」




 彼はモニターの前で高笑いしながら、次のターゲットを狙って新たな書き込みを始めた。部屋の中には彼の笑い声だけが響き渡り、外の世界とは隔絶された異次元のような空間が広がっていた。




 真夜中の部屋の中、デオが高笑いしながらイタズラの書き込みを続けている最中、突然インターフォンが「ピンポーン」と鳴り響いた。




 デオはその音に眉をひそめ、無視することに決めた。




「深夜に何の用だろうか?多分JHK(ジャパン放送協会)の集金でも来たのだろう。」




 デオはそう言って、画面に集中し続けた。




 しかし、その時、部屋の中で奇妙な現象が次々と起こり始めた。




 まず、部屋に飾ってあったゲームのフィギュアがカタカタと不安定に揺れ出し、まるで誰かが触れたかのような音を立てた。


 デオの目はスクリーンからそれに移り、フィギュアが揺れるのを見ながら、微かに不安を感じ始めた。




「……何だこれ?」




 その瞬間、壁に飾ってあった新作ゲームのポスターが突然「ガシャーン!」と落下した。




 ポスターが床に広がり、部屋が一層暗くなった。デオは驚き、画面から目を離してポスターを見つめた。




「どういうことだ?」




 デオは急いで立ち上がり、部屋を見回した。部屋の空気が急に重く感じられ、どこか異様な緊張感が漂っていた。インターフォンが再び鳴り響くが、その音はまるで遠くから聞こえてくるようだった。


 デオは不安な気持ちを押し殺しながら、恐る恐るインターフォンの元へ向かおうとした。その時、部屋の中でさらに奇妙な音が響き、彼の心拍が速くなっていった。




 部屋の静けさを破って、突然激しい音が響いた。




 デオの部屋の扉が強い衝撃を受けて、一瞬で蹴破られた。粉々に壊れた扉の破片が床に散らばり、冷たい風が吹き込んできた。




 その風と共に、真顔のエリシアが部屋に踏み込んできた。




 彼女の目は鋭く、無駄な動きもなく、ただまっすぐにデオを見据えていた。




「あなた、ネットで私のこと馬鹿にしてましたわね。」




 エリシアの声は冷たく、感情を抑えたものだった。部屋の中には彼女の強い存在感が漂い、デオはその圧力に押しつぶされるような気分になった。


 デオは驚愕し、どうしていいかわからず立ち尽くしていた。彼の心臓は激しく鼓動し、部屋の温度が急に下がったように感じられた。エリシアの瞳が鋭く、彼の過去の行動を一瞬で見透かしているようだった。




「お、女が何でこんなところに……」




 デオはかろうじて口を開きながら、狼狽した様子で言葉を絞り出す。エリシアは無言で彼に一歩近づき、彼の動揺をさらに深める。




「私が誰か分かりますか?」




 エリシアの声はさらに冷たく、まるで氷のように澄んでいた。デオはその言葉に震え、部屋の中で最も冷徹な目で彼を見つめるエリシアの前に、ただただ無力さを感じるばかりだった。


 エリシアは一歩一歩と確実に近づきながら、その言葉を止めることなく放ち続けた。彼女の声は冷徹で、まるで厳しい裁判官のように響いた。




「あなたを詐欺罪と器物損壊罪で訴えます!」




 彼女の言葉は鋭く、デオの心に深く突き刺さった。




「理由はもちろんお分かりですね?あなたが皆をこんなウラ技で騙し、セーブデータを破壊したからです!」




 エリシアは手を広げ、まるで自分の言葉が全てを包み込むかのように、デオをじっと見つめた。




「覚悟の準備をしておいて下さい。ちかいうちに訴えます。裁判も起こします。裁判所にも問答無用できてもらいます。」




 エリシアの言葉は、デオにとって冷酷な現実の予告のようだった。彼はその場で凍りつき、心の中で恐怖と後悔が渦巻くのを感じた。




「慰謝料の準備もしておいて下さい!」




 彼女の声がさらに強く、決然とした響きを持っていた。




「貴方は犯罪者です!刑務所に『ぶち込まれる』楽しみにしておいて下さい!いいですね!」




 エリシアの目は冷ややかで、彼女の言葉はデオの心を抉るように響いた。デオはただ無力に立ち尽くし、エリシアの言葉が現実となる恐怖に震えながら、その場に固まっていた。

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