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レベルデザイナーの気持ちになれ

 エリシアは、その日も宝を求めて新たな冒険に挑んでいた。




 今回の目的地は、謎に包まれた古代のダンジョン。その入り口は大きく、不気味な雰囲気が漂っていた。




「ここですわね……」




 エリシアは入り口をじっと見つめた後、何か引っかかるものを感じ、入り口から少し離れた場所に目を向けた。そこには、ほとんど見逃しそうな小さな穴が開いていた。




「これは……?」




 好奇心に駆られて、エリシアはその穴に顔を近づけて覗き込む。




 中には、驚くほど大きな宝箱が鎮座していた。




 その光景を目にした瞬間、エリシアは心臓が跳ね上がるのを感じた。




「まさか、あんなところに……」




 しかし、同時に何か嫌な予感が胸をよぎる。




 まるで見てはいけないものを見てしまったかのような感覚がエリシアを襲った。エリシアは一瞬ためらい、慎重さが必要だと判断した。




「いえ、ここから入るのはやめておきますわね……正規の入り口から行くのが安全ですわ」




 エリシアは視線を穴から離し、深呼吸して気を取り直すと、ダンジョンの正面入り口へと向かい、中に足を踏み入れた。




 エリシアはダンジョンの中を慎重に進んでいた。




 石造りの廊下を歩いていると、足元に何かが引っかかる感覚があった。




「……あら?」




 エリシアは立ち止まり、視線を下に移す。


 そこには、埃まみれの小さな箱がぽつんと置かれていた。怪しげな雰囲気を感じつつも、エリシアは好奇心に勝てず、その箱を開けてみることにした。




「なんですの……?」




 箱の中に入っていたのは、薬草だった。どこにでもありそうな、特に珍しくもない薬草だ。




「しょぼいですわね……」




 エリシアは少し落胆しながら箱を閉じ、次の探索に向かおうとしたが、ふと、箱が勝手に再び閉まる音が聞こえた。


 驚いて振り返ると、箱は元の状態に戻っている。




「これは……」




 エリシアは再び箱を開けてみた。すると、また同じ薬草が中に入っている。


 まるで何事もなかったかのように。心臓が少し高鳴る。




「これ……見てはいけないものを見た気がしますわね……」




 エリシアは警戒心を強めながら、慎重に箱を閉じた。再び開けようかどうか一瞬迷ったが、直感的にこれ以上関わるべきではないと感じ、その場を立ち去ることにした。




 エリシアはダンジョンの奥へと進むうちに、突然足元が途切れる場所に出くわした。




 そこには奈落の底が広がり、その上に点在するいくつかの小さな足場だけがかろうじて道を繋いでいた。




「これでは渡れませんわね……」




 エリシアは少し顔をしかめながら周囲を見回した。


 すると、近くの壁に古びたレバーが埋め込まれているのを発見する。直感で、これが道を作る鍵だと感じたエリシアは、迷わずレバーを引いた。




 ガシャン、ゴゴゴゴゴ……!




 重たい音と共に、奈落の上に橋が出現する。




 しかし、その橋は足場から足場へと繋がっているはずなのに、明らかに位置がずれている。




 足場と橋の間には、ジャンプしてもギリギリ届くかどうかの隙間が残されていた。




「いや、もう少しまともな橋を作れませんこと?」




 エリシアはぶつぶつと文句を言いながら、慎重に体を屈め、準備を整える。目の前の足場に狙いを定めて、一気に力を込めて飛び上がった。




「せーのっ!」




 ジャンプの瞬間、彼女の魔術師としての経験が活きた。


 見事に橋の端に足をかけ、バランスを崩さずに着地することに成功する。エリシアは一瞬ホッとしたが、すぐに次の足場に向けてジャンプの準備を始めた。




「全く……この橋の設計者、絶対に頭おかしいですわね!」




 奈落を見下ろしながら、エリシアは再びジャンプし、次々とずれた橋と足場を渡っていった。




 エリシアが奈落の橋を渡りきった先には、薄暗い廊下が続いていた。




 奥へと進むと、ひんやりとした空気とともに、何やら異様な雰囲気が漂い始める。壁の向こうから低いうなり声が聞こえてきたかと思うと、ぼんやりとした光の中に立つ影が現れた。




「……あれは?」




 エリシアが警戒しながら近づくと、その影は徐々に形を持ち、アンデッドがゆらりと姿を現した。生気のない目がエリシアを捉え、腐った手がゆっくりとこちらに向けられる。




「これは厄介ですわね……」




 エリシアはすぐに判断を下した。彼女は素早く後ろを振り返り、仲間たちに指示を飛ばした。




「謌ヲ螢ォ、前衛でアンデッドを押さえ込んでくださいませ!」




 謌ヲ螢ォは無言で頷き、すぐさまアンデッドに向かって剣を構えた。




 続いて、エリシアは「豁ヲ髣伜ョカ」に向けて叫ぶ。




「豁ヲ髣伜ョカ、回復の準備を!何が起こるかわかりませんわ!」




 豁ヲ髣伜ョカはその場で杖を掲げ、癒しの魔法を唱える準備を整えた。




 そして、最後にエリシアは「もょlと」に指示を出す。




「もょlと、遠距離から支援魔法を放ちなさい!火力を集中させて、一気に片付けるのですわ!」




 もょlとは一歩下がり、手をかざして力を溜め始める。




 まもなくして、謌ヲ螢ォがアンデッドに突撃し、剣で斬りかかる。腐った肉を切り裂く音が響き、アンデッドは鈍い反応を見せながらも反撃を試みたが、豁ヲ髣伜ョカの回復魔法が即座に謌ヲ螢ォを支え、もょlとの強力な魔法がアンデッドを吹き飛ばす。




「ナイスですわ!もう一息で——」




 エリシアが指示を出し続け、仲間たちはそれに従いながら、次々とアンデッドを攻撃した。連携の取れた戦いの末、アンデッドは力尽き、床に崩れ落ちた。


 アンデッドを倒したと思ったエリシアは、胸を撫で下ろしながらも、ふと背後に立っている仲間たちに目をやった。




 その瞬間、違和感がエリシアの胸中を駆け巡った。




「……誰ですの、あなたたち?」




 見覚えのない顔が並んでいる。謌ヲ螢ォや豁ヲ髣伜ョカ、もょlとが無言でこちらを見ているが、彼らの姿はどこか違和感を覚える。




「こんな奴ら、知らねえですわ……いつの間に仲間に?」




 エリシアは戸惑いを隠せないまま、周囲を見渡す。




 どうやら、いつの間にかマップのどこかで仲間フラグを拾ってしまったようだ。見覚えのない仲間がいることに、エリシアは混乱しながらも、頭を抱えた。




 さらに奇妙なことに、倒したはずのアンデッドが、一切の動きがない。




 いや、正確にはただ立っているだけで何もしていないのだ。攻撃を受けたはずのアンデッドは、その場で棒立ちのまま微動だにしない。




「……これ、絶対見てはいけないものを見た気がしますわ」




 エリシアは思わず呟き、その場から離れたくなった。何かがおかしい、何かが間違っている——そう感じながらも、エリシアは次の一手を考える。




 洞窟を進んでいたエリシアは、周囲の静寂に耳を澄ませながら足を進めていた。




 しかし、突然、洞窟内に場違いな音が鳴り響いた。明るくて浮ついたカジノのような音楽が、空間全体を包み込む。




「……何ですの、これ?」




 エリシアは足を止め、音の発生源を探すが、洞窟の中には何も変わった様子は見られない。むしろ、その派手なBGMが違和感を際立たせるだけだ。




「おい!BGMのIDが違いますわよ!」




 彼女は不満げに叫ぶが、もちろん返事など返ってこない。音楽はただ陽気に鳴り響き続ける。


 深い洞窟内で、あり得ない音楽が流れていることにエリシアは困惑するが、この異常な状況が何かの罠でないことを確認するため、慎重に先へ進むしかなかった。




 ついにエリシアはダンジョンの最深部にある宝箱の前に立った。




 ここまでの道のりは決して楽ではなかったが、目の前にある宝箱がその労力に見合うだけの報酬をもたらしてくれるはずだ。




 エリシアは期待に胸を膨らませ、ゆっくりと宝箱の蓋を開けた。




 すると、派手なファンファーレが鳴り響き、画面には大きく「エクスカリピーを手に入れた!」というメッセージが表示される。




「おおぉ!これぞ、伝説の武器ですわ!」




 興奮したエリシアは早速バックパックを確認する。




 だが、彼女の目に飛び込んできたのはただの「ダガー」だった。




 しかも、特別な装飾や力もない、どこにでもある平凡な短剣だ。市場で120Gほどで売られている安物だ。




「……はぁ?」




 エリシアの目が虚ろになる。




「テストプレイしとけや!チキショーですわ!」




 怒りが爆発したエリシアは、手にしたダガーを振り回し、洞窟の壁を叩きながら叫び声を上げた。




 ファンファーレが今更のように空しく響き渡る中、彼女は呆れと怒りを抱えながら、引き続き冒険を続けるしかなかった。


 エリシアは怒りと失望を抱えたまま洞窟の奥へと戻る。




 先ほど見つけた薬草が入っていた箱の前で足を止め、考え込んだ。




「この箱で無限に薬草を増やしたら、すごいことになりますわね……」




 彼女は箱をじっと見つめながら、これが使いようによっては莫大な財産になることに気づいた。




 しかし、すぐにその考えに飽きてしまった。無限に薬草を取り出す作業を延々と続けるのは、いかにも面倒くさそうだ。




「……でも、そんな手間かけるのはやってられませんわね」




 エリシアは肩をすくめてため息をつくと、箱をそのまま放置して洞窟を後にすることにした。




 冒険の途中、どんなにおいしい話があろうと、やる気が出ないときは無理に追いかけるべきじゃない。エリシアはそう自分に言い聞かせ、また次の冒険に備えることにした。

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