しょーかんのじゅもん
魔王の玉座の前、勇者パーティとの決戦が始まる中、エリシアは魔王の側近としてその場に立っていた。
勇者たちが挑みかかってくる中、魔王はゆっくりと立ち上がり、闇の力を引き寄せるかのように両手を広げた。
「アムナ・ガルド・オクシス・テルザ……」
低く重い声で魔王が呪文を唱え始める。エリシアはその力強さに感嘆し、目を輝かせた。
「おおぉ……!」
魔王の声は徐々に高まり、闇がその手に集まるように渦巻いていく。
「テルザ・アクルム・ナガル……」
魔王がさらに呪文を続けると、エリシアの心は興奮で震え、思わず声を上げた。
「おおおおお!」
魔王の周囲には黒い光が螺旋状に広がり、破壊神の影が薄らと現れ始める。
「ガルバ・クレオス・バルザン……」
エリシアはもはや抑えきれず、全力で雄叫びを上げた。
「うおおおおおおおおぉ!」
その瞬間、魔王の集中は乱れかけたが、なんとか呪文を続ける。
「シェオル・クルザ……」
エリシアは完全に戦闘モードに入り、拳を握り締めながら叫び声を上げた。
「いいぞおお!やっちまえおらあああぁあ!」
その声に、ついに魔王が振り返り、エリシアを睨みつけた。
「ちょ、うるさい。集中できん」
エリシアはハッとし、口を押さえて黙り込んだが、興奮した表情はそのままだった。
魔王は再び呪文を唱え直し、場の空気が一瞬張り詰める。
「ゼルグ・アマディス・シェルフォ……」
エリシアは静かに勇者たちに近づき、その姿を上から下まで舐め回すように見つめた。
「トゥルガ・バルド・クルゾ……」
勇者たちは一瞬怯んだが、エリシアは口角を上げて不気味に笑い始める。
「これであなたたちもおしまいですわね……ふふふふ!」
魔王は呪文を続けるが、エリシアの囁きが一層強まる。
「ゼリクス・アルヴァ・クライヴォ……」
「破壊神に全身を引き裂かれ、燃やされ、骨すらも残りませんわよ」
勇者たちはエリシアの言葉に一瞬顔を曇らせるが、魔王は必死で集中を保とうとする。
「サヴァル・トルメス・ゼフィロス……」
「死んでもなおその魂は天国にも地獄にも行けずに、一生虚空を彷徨い続けるのですわ」
エリシアの声がますます大きくなり、勇者たちに確実な絶望を与えようとしていた。
「……バルカス・シェリオン……」
「そしてあなたたちは最初からこの世界に存在していた事実すら消え失せて——」
しかし、その時、魔王が怒りに満ちた声でエリシアを遮った。
「おい、おい!」
「え?」
エリシアが驚いて振り向くと、魔王が眉をひそめて鋭い視線を投げかけていた。
「うっさい!耳障りじゃ!集中できん!ええ加減にせえよ!」
エリシアは一瞬たじろぎながらも、素直に一歩引き下がる。魔王は息を整え、もう一度呪文に集中しようと試みた。
魔王が再び呪文を唱え始めるが、今度はやり直しになった。場の空気が再び緊張感を帯びる。
「ゼルグ・アマディス・シェルフォ……」
勇者たちをアリシアが腕を組んで睨みつけた。
「トゥルガ・バルド・クルゾ……」
アリシアは高笑いしながら、勇者たちに向けて声を張り上げる。
「オホホホホ!逃げても無駄ですわよ!」
魔王は呪文を続けようとするが、アリシアの声が次第に大きくなっていく。
「ゼリクス・アルヴァ・クライヴォ……」
「今日があなたたちの命日!」
勇者たちは怯えた様子でアリシアを見つめるが、魔王がついに耐えきれなくなり、呪文を止めて怒鳴った。
「おい、ちょ待て。てかお前誰や?エリシアちゃうやろ!」
アリシアは一瞬固まりながらも、平然とした顔で答えた。
「影武者です。本人、ちょっと……コンビニ……」
魔王は呆れた表情で頭を抱え、勇者たちも一様に混乱した表情を浮かべる。エリシアの代わりに登場した謎の影武者、アリシアが場をさらに混乱させる中、魔王は深いため息をつき、呪文をもう一度やり直す決心をした。
魔王は鋭い目つきでエリシアを見据えた。
「次、邪魔したらお前を消し去るぞ」
エリシアは内心で少し怯えたものの、顔には出さず、ふてくされた表情を浮かべる。魔王は深呼吸をして、もう一度呪文を唱え始めた。
「アルス・グラディス・トゥリオ……」
呪文が進む中、エリシアが目を離すことなく見守る。
「レクス・サリス・ヴィルクス……」
——ガンガン!ボキッ!バギィっ!
魔王は呪文を続けながら、何かおかしな音が聞こえることに気づく。だが、気にせず呪文を進める。
「クレイド・アマルス・ヴァルトゥ……」
——ミチミチミチ……ぐりゅりっ!
魔王は呪文の後半に差し掛かる。何かがぐりゅりとねじれる音が響く。
「セレス・ラドス・グリフィ……」
——ドサッドサッ。
最後の一言を呟いた瞬間、魔王が誇らしげに宣言した。
「いでよ!破壊神!」
だが、視線を前に向けると、エリシアがすでに勇者たちを始末していた。彼らの死体が無造作に転がっているのを見た魔王は愕然とし、怒りを爆発させる。
「あ、始末しときましたよ」
エリシアは平然とした顔で答える。魔王は激怒しながら叫んだ。
「こらああ!せっかく召喚したのに!何やっとんじゃ!」
目の前にはもう戦う相手がいない勇者たちの無残な姿があるだけだった。




