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地獄見したるけえの

 エリシアと勇者は、酒場の賑やかな雰囲気に足を踏み入れた。




 勇者は堂々とした態度で、サングラスを掛け、金のネックレスを輝かせている。セットアップのジャージは少しばかり目立ち、周囲の目を引く。


 勇者は自信満々で周囲を見渡し、エリシアに向かって言った。




「わしゃあ仲間探すけえの」




 エリシアは一歩下がって、その姿を見守る。


 酒場の雰囲気が一瞬、勇者の存在によって異様な空気に包まれる。勇者が店のカウンターに近づき、店主に話しかける。エリシアは、そのやり取りを静かに見守りながら、酒場の中の他の客たちの反応を観察していた。




 酒場の雰囲気が一変する。




 勇者の登場とその自信満々な態度に、酒場のチンピラたちの視線が一斉に集中する。彼らの目は鋭く、挑戦的だ。




 そのとき、空から神秘的なナレーションが響き渡る。




「酒場にいきなり入ってきた勇者。あんなガキに魔王が倒せるのかよ。ガキは大人しく家に帰ってろ、ここは大人の世界、こいつに血は似合わねえ、彼らの視線がそう物語っている」




 エリシアは驚きと困惑の表情を浮かべながらも、ナレーションの言葉を聞いて肩をすくめた。勇者はその場の雰囲気にまったく動じず、カウンターに座って酒を注文する。


 周囲のチンピラたちは視線をさらに鋭くし、囁き合いながら勇者とエリシアの様子を見守っている。勇者は一度も視線を合わせることなく、カウンターの店主に注文を告げる。




「この酒場に勇者がいるとでも言うのか?」




 酒場の空気は張り詰め、エリシアは自分たちがこの場所でどんな展開を迎えるのか、不安と期待を交錯させながら見守っていた。




 勇者は無視されるのを嫌がるように、酒場の一角にいるチンピラの一人を指差して叫んだ。




「お前、こいや」




 そのチンピラは一瞬驚き、眉をひそめる。


「あ?」




 その瞬間、再び空からナレーションが降り注ぐ。




「お前は今日から俺の手下だ、わかってんだろ?この勇者様が使ってやるって言ってんだよ、そう言いたげに勇者は一人の男性を指さした」




 エリシアは眉間にしわを寄せ、周囲の視線を感じながらも勇者の無茶苦茶な行動に突っ込んだ。




「そんなこと言ってねえですわよ……」




 彼女の言葉が、酒場のチンピラたちの笑い声と共に広がる。勇者は全く気にせず、指差したチンピラに向かって近づいていく。その態度に、エリシアはますます困惑し、ただただ眺めるしかなかった。




 勇者は仲間たちを集め、やる気満々でトレーニングメニューを発表した。




「お前らなんかスライムで十分じゃ」




 仲間たちは驚きと不満を隠せない。顔を近づけて勇者を睨む一人が声を荒げた。




「あ゛あ゛ん!?」




 その瞬間、空からまたもやナレーションが流れ始める。




「お前らなんかスライムで十分じゃ、そう言い放った勇者!自惚れんじゃねえ、今のお前らはスライム以下、魔王を倒すなんか夢のまた夢、お前らなんかその辺にいるガキと同じ」




 エリシアは再び口を開き、周囲の空気を冷やすような言葉を発した。




「だからそんなこと一言も言ってねえって……」




 エリシアの言葉が広がる中、勇者は自分の指示に自信満々で、スライムを倒すようにと仲間たちに指示を続けた。




 それからしばらくして、仲間たちはスライム討伐に飽き飽きしていた。


 うんざりした表情を浮かべ、勇者に不満をぶつけた。




「勇者さんよぉ……ちょっと無いんじゃないの?」




 その瞬間、空から謎のナレーションが流れた。




「勇者の不可解なトレーニングメニューに不信感を持つ仲間たちッ!勇者?所詮は人の上に立ったことがないガキ。スライム以下だって?スライム以下なのはてめえの脳みそのほうだろ?そしてこの後、衝撃の事態が!」




 エリシアはまたもやナレーションに突っ込みたくなり、勇者の隣で内心でイライラしながらも冷静を保とうと努めた。




 そして紆余曲折あって、一行はドラゴンと戦うことに。




 ドラゴンがその巨体を揺らし、天をも震わせるような吠え声をあげた。


「グオオオオォォォォ!」




 すると、空からまたもや変なナレーションが流れてきた。




「勇者だ?戦士だ?ミジンコ以下の下等生物じゃねえか。なんかワチャワチャやってるが、幼稚園児のおままごと!人間の分際でこのドラゴンに喧嘩を売る?ついに脳みそまでいかれやがった……と言いたげな声で咆哮を上げる!」




 エリシアは呆れたように天を仰ぎ、つぶやいた。


「要するに……言ってねえですわね」




 ドラゴンが再び吠えた後、勇者が一歩前に出て、その挑発的な声を張り上げた。




「ドラゴンさんよぉ……あんた強いの?なんか色々試合で勝ってみたいだけどぉ、なんぼ貰っとん?八百長やろ」




 再び謎のナレーションが響く。




「これでドラゴン?家にいるヤモリの方がまだマシ、そう言いたげな目で睨む勇者。コイツらなんかただの爬虫類。ハエでも食ってろ、俺らがひり出したうんこに集ってるハエでも食ってりゃいいんだよ!?そしてこの後——衝撃の事態がッ!」




 エリシアは、ついに我慢の限界に達し、声を上げた。


「だから、そんなこと一言も言ってないでしょ!?」




 エリシアの怒りが爆発した。目の前の景色がぐにゃりと歪んで、一瞬で消し飛んだ。強烈な魔法の余波が周囲に広がり、建物の壁が崩れ、地面が割れる。




「ふざけるなですわ!」


 彼女は声を張り上げ、視線を鋭くさせた。




 すると、どこからともなく、慌てふためく撮影クルーが現れた。カメラを構えたカメラマンや、バタバタと走り回るスタッフたちが、現場の混乱をどうにか収めようと必死だ。




「ちょ、本番中なので!」




 プロデューサーらしき男が、半ばパニック状態で叫んだ。カチンコを手にした別のスタッフが、焦りながらエリシアに駆け寄ってきた。




「台本守ってくれないと、シーンが撮れないんですってば!」




 彼の言葉に、エリシアは眉をひそめた。周囲に広がる瓦礫や崩れた風景を見渡しながら、再びため息をつく。




「台本ですって?そんなもの、知りませんわ!」




 彼女は冷ややかに答え、さらに鋭い視線をクルーに投げつけた。スタッフたちは完全に怯え、カメラマンは足を震わせて後ずさる。




「私に台本を押し付けるつもりなら、もっとまともな脚本を用意なさい!」




 その一言で、現場は一瞬静まり返ったが、エリシアが軽く手を振ると、再び魔法の力が渦巻き、周囲を取り巻いていた残骸が風に吹かれて消え去っていった。クルーたちは口をぽかんと開けたまま、どうしていいか分からず立ち尽くしていた。

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