進め勇者ロビン
勇者は荒れた森の中を一人、馬で駆け抜けていた。周囲は木々が生い茂り、昼間でも薄暗い影が広がっている。馬の蹄が地面を打つ音が響き、葉が舞い上がる。
この森には数多の魔物が潜むと聞いていたが、勇者はためらうことなく進み続けた。
背には剣が、心には覚悟が宿っている。彼はただ前だけを見つめ、どんな危険も恐れぬ決意で突き進んでいた。勇者の行く手には、まだ見ぬ強敵が待ち受けているかもしれない。
突然、どこからともなくエリシアと彼女が率いるBGMトリオが現れ、楽しげに挿入歌を歌い始めた。
勇者ロビンは駆け抜ける〜♪
森を越え、山を越え、谷を越えて〜♪
彼らの歌声が森の中に響き渡り、馬を駆ける勇者ロビンの後を追いかけるかのように、賑やかで躍動感のあるメロディが流れ続ける。
エリシアの張りのある声と、トリオの楽器の音が重なり、森の風景に不思議な生命感が宿る。ロビンの旅路を盛り上げるこの歌は、冒険の始まりにぴったりの雰囲気を醸し出していた。
それいけ勇者ロビン!
たとえどんな強敵が現れても〜♪
諦めない、逃げない、負けないぞ〜♪
エリシアとBGMトリオの歌声がますます力強くなり、森の中に響き渡る。勇者ロビンは、彼らの応援を受けているかのように、顔を上げて前を見据え、勢いを増して進んでいく。
ロビンの心はすでに強敵との出会いを想定し、緊張の中にも不思議な高揚感が漂っていた。森の風景が次々と後ろへ流れていき、馬の蹄は休むことなく地面を叩き続ける。彼は、森の向こうに待ち受ける何かに向かって、意気揚々と進んでいくのだった。
勇者ロビンは勇敢だ〜♪
矢を受け、切られて、殴られても〜♪
立ち止まらない最強の男〜!
エリシアとBGMトリオの歌声がさらに熱を帯び、ロビンの勇気を称えるかのように歌い上げる。森の木々がざわめき、鳥たちが飛び立つ中、ロビンは自信に満ちた表情で馬を駆け続ける。
どんな傷を負おうと、彼は決して立ち止まらない。
エリシアの歌声に乗せられ、まるで心に力が湧き上がるようだ。
森の向こうに待ち受ける敵も試練も、ロビンにとってはただの通過点に過ぎない。最強の男と称えられたロビンは、信じる道をひたすら駆け抜けていくのだった。
悪を倒せ勇者ロビン!
たとえ、舌を引っこ抜かれ、傷口を抉られ、目玉をくり抜かれても〜♪
逃げるな!戦え!
力強く歌い上げるエリシアとBGMトリオ。しかし、その歌詞の内容に、ロビンは一瞬眉をひそめてしまう。
「……?」
一抹の不安を感じながらも、気を取り直して馬を進めるロビン。彼は、自分に降りかかる可能性のある試練の苛烈さに軽く背筋が凍る思いを抱くが、気を取り直してそのまま駆け続けた。
手足の指を一本ずつ折られても〜♪
生爪の隙間に細い針を刺されても〜♪
戦え最後の——
「ちょっと待って。」
たまらずロビンが手を挙げて中断させる。エリシアとBGMトリオは、一瞬キョトンとした顔で彼を見つめている。
「やめてくんない?それ、ちょっと怖いんだけど。」
エリシアはトリオの面々と目を合わせ、何やら誤魔化し気味に笑っている。
「やーねー!あなた様を讃える歌ですわよ〜?」
「いやいや、どう考えてもただの呪いの言葉だろ、それ!」
エリシアは微笑みを崩さないまま肩をすくめ、ロビンをじっと見つめている。
そのまま、今度はもう少し穏やかな歌詞でいこうと心に決めたのか、軽く咳払いをしながら歌い直しの準備をしている。勇者ロビンは深いため息をつきつつも、再び馬にまたがり、冒険を続けることにした。
ロビンが再び進み始めると、エリシアとBGMトリオも再び歌を再開する。
進め勇者ロビン、逞しく〜♪
飢えに苦しみ、飢餓に喘ぎ、たとえ干からびようとも〜♪
踏みつけられ、すりつぶされ、捻り潰されようとも〜♪
勇者ロビンは何度でも立ち向かう〜
ロビンはすぐさま再び立ち止まり、大声で止めに入った。
「おい、おい!」
「なんですの?」
「不穏すぎるだろ!」
「不穏もなにもねぇ〜」
エリシアとBGMトリオは、ロビンにまるで心外だという表情で顔を見合わせると、頷き合った。
「ほら、試練を乗り越える勇者ロビンを讃える歌ですわよ?」
「グロすぎる!やめろ!」
ロビンはついに忍耐の限界を迎えたようだが、エリシアはまるで何か悪いことをしたかのように見えない、無邪気な顔をしている。BGMトリオもエリシアに同意するかのように頷きながら、ロビンの困惑などお構いなしに、次の楽章をスタンバイしているようだ。
その後、勇者ロビンは気を取り直して進んでいったが、どこか疲れきった表情が浮かんでいた。
そして、不意に森の奥から現れた魔物の襲撃を受ける。
準備も整わないまま応戦するも、激しい戦闘の末、ロビンは力尽きてしまった。
——終わり。




