第95話 アナログ電話帳
僕は単刀直入に問う。何故ばあちゃんが倒れたことを知っていたのか。どうやって僕の居場所が分かったのか。
「うーん。それなあ……」
しかしその問いに、晄矢さんはしばし答えにくそうに唇を歪めた。
「言うと、涼に怒られそうだし」
僕が怒る? やっぱり、よからぬことを……。
「いいから教えて。おかげで凄く助かったんだから」
「怒らない?」
なに? そこ言質取るの? うーん……。僕は腕組みをしてみせる。けど結局。
「わかった。怒らない」
応じると、晄矢さんはしたり顔で口角を上げる。なんだかなあ。
「涼の居場所がわかったのは簡単なんだ。スマホ、見てみろ」
「スマホ?」
言われて僕はポケットから取り出す。
「別になにも……あ、もしかして!」
正直、スマホの便利機能のほとんどを使用したことがない。一番安いプランを契約してるから、動画とかまず見ないんだ。だからアプリも初期設定のまま。
「あ……やっぱり」
見慣れないアプリがいつの間にかインストールされていた。
「そ、それな。GPSアプリ。これで電源さえ入っていれば涼のいる場所がわかる」
「いつの間にこんなっ!」
なんてことしてんだ。この人はっ! まじストーカーかよっ!
「待て待て、怒んなよ。実際使ったのは今回が初めてだったんだ。深い意味はない」
「深い意味はないって……」
僕は鼻息荒く晄矢さんに詰め寄る。
「ほんの出来心です。ほら、誰かに攫われたら大変だから」
「誰が攫われるんだよ……全く……」
「怒らないって約束だろ?」
「う……」
そう言われてしまうと何も言えない。ホントに今回が初めてなんだろうな。全く油断も隙も無い人だよ……。
「じゃ……じゃあ、最初の疑問は?」
「それね。これは俺も驚いた。てか、ありがたかったけど。居間の電話のとこ行ってごらんよ」
居間の電話? 僕は言われるまま、居間と玄関の間に置かれた電話のところに足を向けた。
今時珍しいアナログな固定電話は、僕が中学生の時、授業で作った四つ脚の台の上に乗っている。ごく普通の台だけど、まあちゃんと垂直に立ってるんだから上出来だろう。
「その後ろに貼ってある紙だよ」
電話の後ろの壁に、ばあちゃんが書いたであろう数字が並ぶ紙が貼ってあった。言うまでもなく電話番号だ。
ばあちゃんが電話を掛ける相手は多くない。一番上には僕の携帯の番号があり、その下に……。
――――立花さん? 誰? 聞いたことない……。
「ま、まさかっ!?」
僕は目も口も開いたまま晄矢さんを見た。