第94話 聞きたいこと
自分の持って来た荷物を見て、よっぽど慌ててたんだと納得した。どうも重いと思ったら、六法全書や参考書、はては筆箱まで入ってた。
――――ま、今となっては必要だけど。
それを自分の勉強用机の上に置く。ノーパソ持ってこなかったから、地道にアナログな勉強をすることになりそうだ。
布団では晄矢さんが半裸で爆睡中だ。激務の後、6時間寝ずに運転してたんだ。当然だよな。筋肉美が……いや、今それを言及するのはよそう。
――――でも、だからまだ聞けてない。どうしてばあちゃんの急病を知って、僕の居場所がわかったか。
起きたら聞いてみよう。そして僕も眠い……思考回路がショートして、六法全書も枕にしかなりそうにない。
僕はふらふらと晄矢さんの隣にいき、うっぷしたまま眠りに落ちた。
どのくらい寝たんだろう。夢すら見ないほど熟睡したようだ。なんだかいい匂いがして瞼を開ける。
「うわっ! な、なに……」
「おっと、起こしちゃったか。ごめん」
目の前に晄矢さんの顔が。鼻先がくっつきそうだった。また僕の寝顔見てたのかな……。いい匂いは晄矢さんのオーデコロンか。僕はごそごそと体を起こした。
「キスしたら起きるなんて、おとぎ話のお姫様みたいだな」
「えっ! キスしたのっ?」
全く油断も隙もない……けど……。
「キスなら……意識のある時してよ……」
うわっ、僕なに言ってんだろ。寝ぼけてんのか? 一瞬ぽかんとした晄矢さんがククッと肩を震わせる。
「そうだな。涼の言う通りだ」
晄矢さんは僕の顎をついっと上を向け、もう一度優しいキスをしてくれた。
「ところで腹減ったな。病院行く途中でどっかで食べるか」
「あ……うん」
時間は2時過ぎたところだ。病院の近くなら、ファミレスくらいはある。晄矢さんは僕の返事を待たず、身支度を整えだした。
「あの晄矢さん、そのまえに聞きたいことがあるんだけど……」
布団の上できちんと座り直し、僕はようやく切り出すことができた。ここまでずっと胸に抱えながら、尋ねるのを我慢してたんだ。
「え……改まって、なに。怖いなっ」
そして……やはりと言うべきか、その一言に、晄矢さんはわかりやすく挙動っていた。