表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/103

第85話 菜々子さん


『明日は午後から事務所行くから、朝はゆっくりだ』


 やることやった(言い方が露骨)深夜零時。晄矢さんは、バスタブの中で満足そうにそう言った。僕は十時からバイトだよ。


 というわけで、まだ爆睡する晄矢さんをベッドに残し僕は一階に下りた。立花さんには八時出発をお願いしてる。


「おはようございます。相模原様、朝食のご準備できてます」


 おっと二宮さんだ。彼女は昨夜いなかったな。


「おはようございます。先日は色々お世話になったのに、黙って帰ってしまって……」

「いえ。私はなにも。それより……本当に出て行かれたので驚きました」


 彼女は僕に、『自分なら、石に噛り付いてもこのポジションを守る』と言ったのだ。


「んー。まあ僕は、もし実力が見合ってても、城南法律事務所に所属する気はないからなあ」

「でも晄矢さんとはお別れにならなかった」

「そういうことだね……それは僕もある意味驚いてるけど……あ、でも朝食って頂いていいのかな」

「もちろんです。相模原様はお客様なのですから。ちょうど菜々子様も召し上がってますよ」


 あ、そうなんだ。昨日は全く話せなかったから、少し話したいかも。


「ありがとう。じゃあ、遠慮なく頂きます」


 二宮さんに関しては、ちょっと当たりが怖かったけど、思った以上に普通で安堵した。僕って本当に小心者だな……。




「菜々子さんは、輝矢さんとどこで知り合ったんですか? あ、もちろん差し支えなければ」


 朝の挨拶を交わし、大学の話なんかしてから僕は尋ねてみた。気になってはいたけど、普通に世間話のつもりだ。


「はい、大丈夫ですよ」


 夏休みだから祥一郎君も家にいる。ただ、彼は既に食べ終えて、リビングでテレビを見ていた。

 菜々子さんは、輝矢さんより少し年上とのことだったが、若々しい人で二十代と言われても無理はない。水色の涼やかな、ノースリーブワンピースを着ていた。


「輝矢さんとは、私が巻き込まれた事件のことで知り合いました」

「ああ、そうなんですか。それは……」


 ありそうなのに考えてもいなかった。これは迂闊だったかな。菜々子さんはなにかの事件の被害者だったのかもしれない。


「私というか……前の主人なんですけどね……交通事故……即死事故だったんですが」


 ――――えっ? なんて?


「加害者が主人に過失があったと言い出して……保険会社に紹介いただいたんです」


 ちょっと待て……菜々子さんはバツイチじゃなかったのか? ご主人、亡くなってるの!? これは一体、どういうこと!?


 何か言わなきゃいけない。でも僕は混乱のため、受け答え不能に陥ってしまい、意味なく口をパクパクさせるだけだった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ