第77話 刺激が強すぎる
バスルームに連れ込まれて? 十数分。僕はドアの向こうを気にしてたのもつかの間、すぐに晄矢さんの責めに陥落してしまった。
今、目くるめく瞬間の余韻が全身を包んでる。僕は壁に凭れ大きく息を吐いた。
「どうだった?」
目の前に、いたずらっ子のような顔をした晄矢さんがいる。どうだったって、どう言えばいいんだよ。
「し……刺激が強すぎるよ……」
「え? ははっ。確かに」
晄矢さんは鏡の前、慣れた手つきで着衣や髪の乱れを直すと、僕に場所を譲ってくれた。僕もそそくさと恰好を元に戻す。
今日はスーツでなくて良かったかも。でも、晄矢さんはスーツでも平気なのね。上着はいつの間にか脱いでた。
バスルームにはハンガーラックもあるから、着替えも出来るようになってる。なんか、こういうことのためにあるのかと疑ってしまうよ。
「これも社会勉強だな」
「こんな勉強はいらないよっ」
いつだったか、晄矢さんのお父さん、祐矢氏に言われたことがあったっけ。『いろいろ勉強してもらわんとな』。まさかこういうことも含まれるんじゃないよね?
「ああ、すっきりしたな。じゃ、仕事するか」
ほんとにスッキリしたような笑顔だ。僅か20分足らずのことでも僕はものすごく疲れた。経験値の差なんだろうか。思うところあったけど、仕事はしなくては。ふう、と息を吐いて執務室に戻った。
「今日は秘書さんお休みなんだね」
「そう。ま、別のパートナーの秘書が掛けもってくれるから平気だ」
晄矢さんがどすんと音を鳴らして椅子に座る。僕用の事務机はその隣にまだあった。なんだかやっぱり嬉しい。
その後は気だるさを感じる暇もなく、次から次へと出されるデータ処理の作業に、暗くなるまで忙殺された。
「今日はここまでにしておこうか」
気が付くと、もう窓の外は夜の世界だ。周りのビルや車のライトが綺麗。
「このあと、なにもないだろ? どう、我が家へ来ないか?」
晄矢さんは、サクサクと事務机の上を片づけ、上着を着こんでる。
「え? マジで言ってる?」
我が家、つまり城南家に行くってことだ。僕はあの日、誰にも挨拶せず、あの家を出てしまった。祐矢氏や陽菜さんはもちろん、立花さんや三条さん、二宮さんにだってあんなにお世話になったのに……。
――――ものすごく行きづらい。
「マジさ。涼が来るとき電話してたの。あれ、立花だよ。夕食準備しておいてくれって頼んでおいた」
「ええっ!」
そうか。『来ないか?』なんて誘ってる風で実は拒否できないようになってるんだ。
「そうだね……こればっかりは逃げててはダメだね」
ちゃんと顔を合わせてお詫びとお礼を言おう。敷居を高くしてしまった城南邸だけど、機会を与えてもらったことに感謝するべきだな。
――――それに、シェフの料理食べるの、やっぱり嬉しい!
絶賛節約料理の日々、僕の正直な気持ちだった。