第75話 仲直り
晄矢さんの腕に抱かれ、脳内は完全にショートしてしまった。だけど、今度の公判を見たことで、弁護士への強い憧れと希望が胸に溢れたのは本当のことだ。
僕が目指す弁護士の姿が、あの法廷にあった。弁護士として立つ晄矢さんと、それを真摯に見守る輝矢さん。
今度の事件を正しく公判の場に提示できたのは、二人の力があってこそだ。
この二人じゃなければ、何もかもを見逃し、鳥飼さんは5度目の刑務所に送られ、孫に会うこともかなわなかったろう。彼の人生そのものも終わってしまったかもしれない。岩泉さんも、いい方向にはいかなかったんじゃないかな。
そう思うと恐ろしい。弁護士が人の人生を変えてしまうこともあるんだ。けれどだからこそやりがいもある。僕は改めて、弁護士を目指したいという気持ちが強くなった。
それをどうにか伝えようとしたのに。晄矢さんを前にして、僕はなにをしてるのか。
「どうした? なにか言いたそうだな?」
裁判所近くの地下駐車場に停められた車の中。さっきからキスを繰り返している。窓に黒いフィルターを張った後部座席だから外からは見えないとは思うけど……。
「あの……だから。僕も晄矢さんや輝矢さんみたいな弁護士になりたいって思ったってことだよ……本心だから」
「そうか? それは光栄だが」
晄矢さんはふふっと笑う。でも、その双眸は幸せそうで柔らかい。僕はもう一度、キスをねだる。晄矢さんの弾力のある唇が僕のそれを覆った。
「さて……そろそろ事務所に戻らないと。来るか? 久しぶりに」
そうか、まだ仕事中だった。僕が足止めしてしまうとは。
「いや、僕も帰って勉強する。燃えてるときにしないと」
「ああ、そうだな。よし、じゃあ送ってくよ」
僕らはそれから道すがら、今日の公判のことなんか話をした。証言を得るのに苦労した話や、岩泉さんを元夫から守るために引っ越しさせたこととかいろいろ。
僕が出て行ってから、ずっと働きづめだったんだ。
「涼がいなくなったのが辛くてね。おかげで仕事がはかどったよ。動いてないと、おまえのことばっか思い出して……」
「へえ、嘘っぽい」
「嘘じゃないよ。でも……本当にすまなかった。結局俺も傲慢だったんだって思い知らされたよ」
「そんなことない。僕の方こそ……たった一言で態度変えたりして、大人げなかった」
「あ、それもあるな」「なんだと」
これで仲直り? できたかな。軽口を言い合いながら、お互い謝ることができた。はしゃぐ僕らを乗せた車は、すんなりとアパートに到着。名残惜しいけど、ぐずぐずするわけにはいかないね。
「送ってくれてありがと。また、会えるかな」
「当たり前だろ。もしよければ、仕事手伝ってくれないかな。バイト空いた時とかでいいから」
「うん、わかった。連絡する」
晄矢さんが僕の額にチュッとしてさよなら。車を降り、ぼんやりと去っていく車を見送りながら僕はようやく気が付いた。
――――しまったっ! 教授のメールの件、聞くの忘れたあああっ!