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第60話 お役御免


 輝矢さんと会った三日後、なんと彼とその家族が城南邸に引っ越してきた。というか、戻って来た。あれからすぐ決意して、祐矢氏にその旨を伝えたようだ。


『一人でなら構わないが。まさか連中も連れてくるんじゃないだろうな?』


 電話口で祐矢氏に言われたが、輝矢さんは怯まなかった。


『連中というのが、私の妻子を示しているなら、それは当然でしょう。私の家族なんですから』


 最初にその頑張りがあれば、こんなことにならなかっただろうに。ま、これも僕らのお陰かな。輝矢さんは晄矢さんが使ったのと同じ手口を踏襲したんだ。


『私の選んだ人が、『馬の骨』かどうか、見極めてください。お父さんにもそういう時間が必要かと思いました』


 ということで、祐矢氏も拒否できなかったわけ。拒否したところで、ここは輝矢さんの家でもあるわけだから、帰ろうと思えば帰れただろうけど、曲がりなりにも許可したところは大きいよね。


 輝矢さんはいきなり副社長、パートナーに戻れたわけじゃない。そこは社長の祐矢氏が許さないし、他のパートナーにも示しがつかない。シニアアソシエイトで再出発だ。


 ――――これで、僕もお役御免だな。またバイト探さないと……。


 今晩、菜々子さんたちと夕食を一緒に食べようと晄矢さんに言われていた。それが最後の晩餐にするのも良いかも……。



 僕はいつでも出て行けるよう準備をすることにした。参考書や下着なんかを鞄に詰めるべくベッドの上に並べる。わずか二ヶ月にも満たない日々だったけど、来る前と後では僕を取り巻く環境は百八十度変わってしまった。

 ふかふかのベッド、バスタブのあるお風呂、すべすべのパジャマに贅沢な食事などなど。どれもまるで夢かおとぎ話の世界に迷い込んだようだった。


 けど……それよりも……。


「ただいまー。涼? どこだ?」


 僕の内側で起こったことが何よりも驚きの連続で、1ミリも想像しないことだった。


「ここだよ。お疲れ様」


 ささやかな歓迎ディナーのため、早めに帰宅してきた晄矢さんが寝室に入って来た。夏用の薄地のスーツも似合ってる。ストライブのネクタイを緩める姿がいつものようにカッコいいよ。


「なにしてんだ……それ」


 輝くような笑顔が、僕を見てすぐ険しい表情に変わった。


「なにって……帰る準備だよ。僕のお役目は終わったんだもの。明日帰ったっていいくらいだ」


 寂しい思いがないわけじゃない。だけど、戻れると思ったら正直ホッとしてる。あまりに場違いな世界に迷い込んでしまった。あの朝感じた『罪悪感』の正体がわかった気がするよ。

 すぐ帰るつもりじゃなかったけど、考えれば考えるほど早い方がいいと思えてきた。僕はクローゼットから寝袋と古い鞄を引っ張り出す。


「輝矢さんたちが戻ってきてくれて良かった。明日の朝イチで……」

「涼……おまえ、なに一人で完結してるんだ……」


 いつもの甘い声と違う。僕はハッとして晄矢さんを見上げた。険しかった表情は怒りと苦悩が入り混じった苦し気なものに変わっていた。





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