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第56話 優等生は嫌われる


 天ぷらは揚げたてサクサクでプリプリの大きなエビという異次元のものだった。塩を付けて食べるとういう技も教えてもらい、複雑な気持ちも霧散してしまい……。


「あ、そう言えば、僕の両親がなんとかって……輝矢さん、僕の……」

「え? そんなこと言ってた? いや、兄貴は涼のご両親のことなにも知らないから、一般論で言ったんじゃないか?」


 そうか……? そうか、確かに。僕が大手法律事務所に就職したら、普通の両親は大喜びするだろうな(僕の両親はもっと喜ぶかも……)。でも、ばあちゃんはどうだろう……おまえには合ってないって言う気がする。


 晄矢さんは秘書の藤原さんから聞いて、すぐ事務所を出たらしい。あのカフェは輝矢さんがよく通ってたとか。輝矢さんって何となく抜けてる気がする……敏腕弁護士なんだよね?




 午後、僕の頼まれてた作業が一段落したので、先に帰宅することになった。元々勤務時間は六時間までになってるんだ。勉強時間を確保できるようにと考えてもらっている。


 ――――こんなに恵まれてていいんだろうか……。だんだんと何かがずれていく感覚。晄矢さんと一緒にいるのは嬉しいけど、やっぱり早めに元の生活に戻るべきなんだと理性では思う。


 自分たちの部屋に入ると、いつものように綺麗に掃除されている。ゴミ箱の中身も片づけられていた。

二宮さんにゴミ箱も監視されていると知ってからは、極力ゴミを出さないようにしてるし、シーツもベッドメイクしてから部屋を出るんだ。とはいえ、完全無欠にはできないけどね。


それとももう、スパイはやめたかな、あのゴルフ大会の一件から、少し変わった気はする。『馬の骨』から『書生』くらいの格上げだけど……。


 ――――もやってる場合じゃない。やれる時にやらなきゃっ。


 気合を入れたそのとき、ドアをノックする音が。あれ、誰だろ。


「珈琲をお持ちしました」


 二宮さんの声だ。おかしいな僕は頼んでないのだけど。とりあえずどうぞと応えた。


「失礼します。立花さんがお持ちしろと……」


 ポットに入った珈琲とクッキーが二、三枚。それを二宮さんは僕の目の前の応接セットに置いた。


「ありがとうございます……いやあ、こんな生活に慣れたら元に戻れなくなるや……」

「え? 元に戻るってどういうことですか?」


 うわあっ! し、しまった。迂闊に本音が……。


「いや、ほら、えっと。輝矢さんが許されて跡継ぎになられたら……僕がここで頑張る必要もないし……」


 うおおっ……何を言ってるんだ僕は。


「それはそうですが……別にここを出られる必要はないのでは? まあ世間では認められなくても、晄矢さんのパートナーとしてここから大学に通えばいいじゃないですか」


 責めるふうでなく、正論として彼女は言う。世間では認められない、か。その通りだ。


「でも……僕が例えば女性で、恋人であったとしても。婚約者でもないのに居候するのはおかしな話ですよ……。今は、晄矢さんと祐矢先生の意地の張り合いでこんなことになってるだけで……」

「そういうものですか? 私なら、石にかじりついてもそのポジションを守りますけどね」

「はあ……」


 段々過激になってきたぞ。どうやって切り抜けよう。


「申し訳ないけど、そうやって優等生ぶってるところ、すごく嫌です」


 リップを塗った口を歪める。なんと、僕は二宮さんに嫌われてることを明確に表明された。




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