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第55話 提案


「どういう……ことだ?」


 僕の一言に、晄矢さんは驚きの表情を見せた。驚いても無理はないかもだけど、ちゃんと最後まで聞いてほしい。


「僕が城南家に来たのは。晄矢さんにそうして欲しいと言われたからです。それ以上でも以下でもないです」


 これは本当のことだ。僕はバイトを依頼されたんだ。


「だけど、弁護士になりたい意志はもちろん強く持っています。だから、城南法律事務所でお手伝いさせてもらうのはすごく嬉しいし、役得だと思ってるんです」

「涼……そんなこと言う必要はない。第一俺がそうしてるんだ」

「うん。でも、輝矢さんや祐矢先生が、僕が『玉の輿』を狙ってるって疑うのはすごく普通のことだと思ってます。そういう気持ちが全くないかと問われたら、そりゃ、もし就職先がなかったらお願いできるかも、とか思うのが人情じゃないですか」


 実のところ、そんなことは考えたことがない。まだ司法試験も受けてないんだ。相当先の話だよ。


「それでも僕は自分の分相応をわかってるつもりだし、晄矢さんの気持ちも理解しています。僕は……自分の実家の近くで……祖母の近くで地域密着型の弁護士になりたい。それは今でも変わらない僕の目標です……」


 それは、晄矢さんとは別の道を選ぶことだ。今はそこを突っ込まれたくはないけど。


「そうかあ……」


 これも嘘だと言われれば仕方ないけど、信じてもらうしかない。


「それで……僕からの提案なんですが……」

「なにかな」

「もし、輝矢さんに『城南法律事務所』を継ぐ意志があるなら……どうしても嫌ってわけじゃなければ、僕らみたいに、皆さんで城南邸で暮らされたらどうですか?」

「ああっ!? なにを……」


 輝矢さんだけじゃなく、晄矢さんも驚きの声を上げた。


「祐矢先生は、奥様達に意地悪するような方ではないです。多分だけど……。それに、屋敷は広すぎて、ほとんど会いませんしね。既成事実作ったほうが、双方折れやすいかな、なんて。単純すぎますかね」

「ううむ……」


 輝矢さんは腕組みをして唸っている。成功の根拠は全くないが、僕の実体験だ。思ったほど居心地悪くない。


「そうだな。俺たちっていう前例もある。親父も案外、あっさり受け入れるかもよ。それに、祥一郎君も賢くて親父好みだし、いい緩衝材になる」

「え……そうか……?」


 輝矢さんの気持ちが傾いてきた。と言うのも、実はこうして事務所近くに来たのには訳があった。

 輝矢さんの以前のクライアント複数から、戻ってきてくれと泣きつかれているそうだ。今の担当も悪くないが、やはりかゆいところに手が届かない。


「当たり前だ。兄貴のクライアントは癖が強すぎるからな。まともにやってたら持たんよ」


 ふふっと晄矢さんが鼻で笑う。後任のパートナーからも逆のクレームが来てると応じた。


「わかった……少し考えさせてくれ……」


 輝矢さんはそう言い残して、天ぷら屋を出て行った。




「ああ、全く人騒がせな兄貴だぜ。ちょっと早いけど、ランチ食べてくか」

「あ、うん」


 二人きりになった座敷で、晄矢さんはランチを二人前頼んでくれた。


「そうだ。さっきの話だけど……。涼が岐阜で弁護士活動するのって、三年くらい先かな」


 さっきの話。岐阜で事務所を開設するって話だ。


「ええっ? まあ、最速で……試験パスすればの話だけど……」

「ん、なら大丈夫だな。それだけ時間があればクライアント整理して城南を退社できる」 


 なんて言ってウィンクをパチンと送ってきた。


 ――――退社って……またそんな簡単に……。


 晄矢さんにとってはそんな生き方も造作がないんだろうか。僕は少し複雑な気持ちになった。




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