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第53話 お兄さん登場


 夏休みは法律事務所に頻繁に通うこととなった。パラリーガルの下請けのようなものが多いが、判例や知的財産のデータを調べるのは楽しい。仕事をすることは、報酬を頂いてる免罪符にもなるから有難いんだ。

 それになんと言っても晄矢さんのそばに居られるには素直に嬉しい。すごく忙しそうだけど、それをバシバシ片づけていくのがたまらなくカッコいい。


「相模原さん、あの……」


 僕が自分の机(晄矢さんの部屋に臨時で席を作ってもらった)で頼まれた資料作りをしていたら、美人秘書の藤原さんが慌てて駆け込んできた。


「はい。どうしました?」

「あの、輝矢先生から電話が入ってて」

「えっ!!」


 輝矢先生って、お兄さんの? しかいないよな。


「晄矢先生のスマホにかけ……」

「いえ、相模原さんにって仰って」


 僕? 僕に? なんで。てか、輝矢さんは僕の存在を知ってるのか? いや、ここで迷ってる場合じゃない。晄矢さんはパートナー会議に出席中でいないんだ。まさかそれを狙ってきた?


「じゃあ、こちらに回してください」


 僕は晄矢さんの机にある電話が鳴るのを待った。畳一畳分はあるだろう艶々天板に置いてある白い電話。すぐにライトの点滅とともに音がなった。僕は深呼吸を一つして受話器を取る。


「はい……相模原です」

『あ、驚かせてすまない。私は晄矢の兄、輝矢です』


 晄矢さんと言われてもそうかと思う。輝矢さんは声質もしゃべり方も晄矢さんそっくりな低音の甘い声だった。




 僕は休憩をもらってビルの外に出た。真夏の都心、息するだけで汗が出る。輝矢さんに指定されたのは、地下街のカフェだった。


「あ、こっち、こっち」


 サングラスにキャップを被った怪しい人物(失礼)が店に入った僕に手招きする。黒シャツにデニムといった超ラフな格好だから、仕事で来たわけではなさそう。


「あの、初めまして……相模原といいます」

「ああ。うん、私は城南輝矢。忙しいとこ申し訳なかったね」

「いえ……気になさらなくて大丈夫です」


 所詮、僕の仕事は重要度も緊急度も低い。しかし、こんな事務所近くのカフェだと知り合いに見つかりそうだ。多分、これで変装してるつもりなのだろうけど……。


「そうか。君のことは晄矢から聞いてるよ」


 そうなんだ。やっぱり兄弟は連絡取り合ってたんだな。……て、どう聞いてんだろ。建前なのかホントのところなのか……。


「あの、時間があんまりないんで率直に聞くよ。君は晄矢のことどこまで本気なの?」

「え……?」


 いや、率直過ぎるだろ。なんの前置きもなく聞かれても困るよ! どっちの体で答えればいいのか僕は迷う。

 結局は同じ回答になるのかもしれないけど、そこには計り知れない温度差がある。


「駆け落ちした私がこんなこと言うのもなんだけど……君の狙いはなに? いや、誤解しないでもらいたいんだけど、君が城南法律事務所のパートナーを狙ってても全然構わないんだ。私は晄矢が事務所を継いでくれることには賛成で……」

「あの……」


 そうか。そういうことか……。


「僕はまだ弁護士になろうと努力しているところです。だからそんな先のことは……でも、少なくとも城南さんのような大手の法律事務所は、僕には合ってないと考えています」

「え? そうなの?」


 輝矢さんも、僕が玉の輿狙いで晄矢さんに取り入ったと思ってるのか。まあ、それが普通の感覚だよな。


「晄矢さんのことは好きです。だけど……」

「兄貴っ! おまえ、ここでなにやって!」

「晄矢!?」


 急転直下。振り向いた僕の視線の先には、鬼の形相をした晄矢さんが立っていた。




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