第33話 好きだ
穴があったら入りたいなんて言葉があるけど。それは今の僕のためにこそある言葉だろう。穴がないなら、自分で掘りたい気分だ。
――――頭が重い……。
朝、いつもより早く目が覚めたけど、世にいう二日酔いなのか。頭痛が耳にまで響いていた。
あれから僕は、晄矢さんに抱きかかえられベッドに運ばれた。そして気絶したように眠ってしまった。
――――とにかく……シャワー浴びよ。
ふらふらとバスルームに歩いていく。目が覚めてすぐに思った。あれは夢だったのかなと。夢ならいいのにと。
けど現実だ。僕は部屋着のままだったし、テーブルの上にはビールとコップが置かれたままだった。
――――なんで覚えてんだろ。酔っぱらって晄矢さんに突っかかって……。
そのあとのことは思考もしたくない。あれが現実だなんてやはり信じられない。
けれど、熱いシャワーに身を委ねていると、だんだんと意識が覚醒していく。それと同時に悔恨と羞恥にさいなまれた。
シャワーを終え、ミネラルウォーターで喉を潤す。鏡に映る自分の顔は少しむくんでるように思う。酔っ払いも二日酔いの大人も大嫌いだったのに……。
「涼、起きたのか?」
嫌悪感そのもので鏡を見つめていたら、リビングから晄矢さんの声が。
「う……うん。あの……」
僕はおずおずとリビングへ向かった。心配そうな表情の晄矢さんが、すぐそこに立っていた。忘れたふりなんかとてもできなかった。
「昨夜は失礼しました……ごめんなさい」
僕は心から申し訳なくて頭を下げる。あんなみっともない姿見せて……。
「え……」
頭を上げようとしたら、ふわりと暖かい空気が過った。僕は晄矢さんの腕の中に抱きすくめられる。
「あの……」
「謝ることはない。まあ、キスしたら吐かれちゃって、ちょっと傷ついたけど」
「え、それは、あの……酔っぱらってたからで……」
気持ちがいいのか悪いのか、混乱した。要するに悪酔いしたんだ。
「じゃあ、今は大丈夫か?」
「えっと……なにが……」
顔を上げると同時に、僕の顎に晄矢さんの右手が添えられた。導かれるように上を向く。再び晄矢さんの柔らかい唇が僕のそれに重ねられた。
――――あ……。
心臓がうちはやってどこかに行ってしまいそうだ。僕は晄矢さんの背中に両手を這わす。倒れそうになるのを耐えようとしがみついた。
――――好きだ。
体中の血脈を熱いものが駆け巡っていく。顔が火照って燃えてしまいそうだ。
――――ずっとこのままで……いたい。
僕は指に力を籠める。これが人を好きになるってことなんだろうか……。