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第2話 売ってはいけない。


 目を開けると、既に窓から朝日が漏れている。殺風景な四畳半の部屋、ささくれ立った畳の上に寝袋で転がっている僕がいた。寝巻は当然高校時代のジャージだ。これほど完璧な部屋着はない。


 ――――夢か……酷い夢だった……。


 ごそごそと寝袋から這い出る。あの夜、声を掛けられたことから夢の中でその後を想像したのか。

 にしても……5万か。いや、5万が欲しいってわけでもなく。自分で自分の価値を5万に換算したことがなんだか悲しかった。




 僕の名前は相模原涼さがみはらりょう。国立大学の法学部二年生だ。

 天然パーマを自力でイイ感じに切るのが得意。身長はまあ高い方かな。昨日の酔っ払いからも言われたけど、二重の目はキョロっとしてる。自分ではあまり好きではないのだけど、人はそこが『可愛い』のだと言う。


 僕が祖母、ばあちゃんから『体を売るな』と言われたのは本当のことだ。

 あれは中学生時代。バレンタインデーとかいう日に、何故だか女子からチョコをたくさんもらった。そう言えば、あの時も男子が『友チョコ』とか言ってくれたな。それを嬉しそうにばあちゃんに言うと……。


『涼、これはもらってもいいが、そのあとに「ホワイトデー」という恐ろしい行事があるんだ。その時にどうやってお金をかけずにお返しができるか、考えないといけないよ』


 と言われて僕は震えあがった。そんな恐ろしい罠があるとはっ! 僕はそのおかげで人にタダでものを貰ってはならないという教訓を得た(結局お返しは、ばあちゃんのレシピによる材料費ほぼタダの手作りお菓子にした)。


 その時、祖母は大事なことだからと、僕を正座させて諭した。


『涼、あんたは綺麗な顔してしかも文武両道。貧乏以外はどれを取っても人より秀でとる。だからこれから先、あんたは様々な誘惑と遭遇するはずだ。貧乏ゆえにその誘惑に勝てないこともあるかもしれん。けどな。決して金欲しさに体を売ってはだめだ。それは、魂を売ることになる。人生を台無しにしてしまうよ』


 真剣なまなざしで、ばあちゃんは僕に言った。祖母の言うことはたいていいつも正しい。僕は神妙な顔つきで頷いた。




 ばあちゃんの予言通り、僕は成長するにつれて誘惑されることが増え、その度合いも際どくなっていった。

 女性教師から謂れのない罪を着せられ交際を迫られたり、男性教諭からはセクハラされそうになったりと犯罪じみたものまであった。僕は人の好意をにわかに信じられなくなり、それは今も継続している。

 ただ、早く一人前になって故郷の岐阜にいるばあちゃんに楽させたい。それだけを念頭に学問とバイトに明け暮れている。


 大学進学は、これもばあちゃんの強い勧めがあったからだ。『誘惑に勝って生きるためには学問が必須だ』というので、法律を身に着けようと法学部に進学して今に至ってる。


 そんな清貧な生活をしてる僕に思いも寄らない『誘惑』が訪れたんだ……。





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