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第22話 ゴルフのお誘い


 イチゴを放り込んだのはお行儀が悪いと窘められたが、総じて合格点をもらった。

 僕はこのために腕を奮ってくださったシェフの方にも大変美味しかったこととお礼を伝えた。

 これは本心からのことで、何かを狙ったわけではない。けれど、二人ともすごく喜んでくれた。


 さて、晄矢さんが事務所を継ぎたくなさそうなのは見てればわかる。継ぎたければ、僕みたいなフェイクをこさえないだろう。


 ――――輝矢氏に戻ってきてほしいのかな。それとも、二人ともバックレてめでたく陽菜さんに継がせたいとか……。


 もしそうなら、駆け落ちから僕とのフェイクまで、実は兄弟が共謀して建てた策かもね。


 ――――まあいいや。僕としては穏便に事が進んで、バイトが終われば御の字だ。一週間くらいが一番ありがたいな。



 などと楽観的に考えようとした。

 寝てるときにおでこになにやらされた(キスだと思うけど認めたくない)り、謎の寝言やもの言いたげな姿とか何度も脳裏を過るけど、1週間でことが済めば、ただの自意識過剰で片が付く。

 それに、あの圧のキツイ祐矢氏にはできればお会いしたくない……。



「おい、相模原とかいう若者」

「ひえ、は、はい!」


 なのに、即効出会ってしまった。城南家のリビングには、経済紙を中心に五種類の新聞が置いてある。なので、思わず足を止めて読んでしまったのだ。

 いつもは図書館で読んでるけど、今日は読めなかった。祐矢氏は仕事帰りなのだろう。相変わらず仕立てのいいスーツを着ている。


「君はこの国で同性婚が認められていないのを当然知っているだろうな」

「はい……残念ですが」


 海外では認められているところもあるが、日本ではまだ無理だ。それでもパートナーシップ制度という、夫婦と同じ立場とみなしてくれる条例を持つ地域も少なからず増えてきた。

 これは昨今、法律家を目指すものなら当然知らなければならないことだ。


「それなのに……晄矢はどういうつもりなのか……まさか海外移住するつもりでは……」


 僕に話しかけてたはずなのに、祐矢氏はいつの間にか独り言になっていた。この隙に僕は退散することに……。


「待て、まだ話は終わっておらん」

「はい! すみません!」


 そういうわけにはいかないらしい。


「おまえ、ゴルフはたしなむか」


 ――――はっ?


 たしなむかって、嗜むわけないじゃないか。僕が苦学生というのは聞いてるよね。


「あの……ゴルフ場でアルバイトはしたことあります」


 岐阜はゴルフ場が多いんだ。だから、小学生の時からボール探しや洗浄なんかはやっていた。高校生になってから、短期でキャディをやったこともある。あれは途中で出る弁当が美味しくて……。


「ふうん。じゃあ、今度キャディとして付き合ってもらおう。日にちは追って連絡する」

「は……はい……」


 僕の意向を聞く気はない。決定事項として言い渡された。ゴルフって晄矢さんたちと行くのかな。家族ゴルフなら、キャディとして参加するのもありか……。にしても滅茶苦茶憂鬱だよ。もうすぐテストも始まるってのに……。


 肩をいからせながら階段の方へ去っていく祐矢氏の背中を見送りながら、深いため息をついたのは言うまでもない。




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