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第21話 イチゴの味


 テーブルマナーもデザートを残すところとなった。季節柄いちごが出てきて僕はまたまた感動する。

 小学生の頃、庭に植えていたイチゴを赤くなる前に食べていた。だって赤くなるまで待ってると他の生物に取られるんだよっ。

 給食で出てきた真っ赤なイチゴを食べてその甘さに驚愕した思い出。イチゴ嫌いの友達が恵んでくれて涙流したなあ。


「そうですね。私は晄矢様を信頼していますから。どのようなことでも受け入れます」


 僕がイチゴのヘタと格闘している間に(どうにかして、ヘタにつく実の部分を限りなくゼロにしたい)、三条さんが僕の質問に答え始めた。


「同性愛も良いかと」


 なるほど。では今回のが偽りの関係であることは知らないんだ……。


「あの、お兄さん……輝矢氏がどこにおられるのかはご存じなんでしょうか」


 ようやく一個めのイチゴを口に入れる。何と甘い! 給食で食べたのよりずっと甘い。砂糖もかけてないのに! 飲み込むのが惜しすぎるっ。


「ああ、それはですね。輝矢様も弁護士ですから。仕事を始めれば一目瞭然なんです。だから晄矢様はもちろん、祐矢様も輝矢様がどこで活動されているかはご存じですとも」


 そうかあ。輝矢氏も城南法律事務所の副所長、しかも筆頭だった。今は不在ということになっている。仕事しないと生活できないものな。


「兄弟の仲はどうだったんでしょう。あの、僕何も聞いてなくて」


 恋人なら聞いてても良さそうだけど。ここは情報を引き出すため、正直に。


「晄矢様らしいですね。いえ、三人様とも仲良しでしたよ。ただ、輝矢様は……」


 そこで三条さんは言葉を止めた。僕はそうと気づいても気づかぬふりをする。懸命にイチゴのヘタをナイフとフォークで取る作業に没頭した。


「晄矢様に嫉妬をされていたかもしれません」

「嫉妬?」


 僕は一人っ子だから、そういう兄弟事情はわからない。小学生の頃は同級生のお兄さんとかが怖かった気がする。大体クラスでえばってる奴は兄貴がいたんだよな。


「はい。輝矢様も優秀な方ですが、晄矢様はそれ以上で……」


 二人の年齢差は学年で三年。大学入学までは同じスピードだったのだが。


「司法試験に合格したのも同じ年、シニアアソシエイトに昇格したのも。そして昨年、祐矢様は二人同時にパートナーに任命したんです。まあ、ご子息ですから、共同経営者は当然なのですが」


 司法試験は受験資格として法学部卒であることか、司法試験予備試験に合格することが必須条件になっている。僕は当然後者狙いだ。

 三条さんによると、兄の輝矢氏は院卒直後に受験した司法試験に合格し(それもすごいことだ)、晄矢さんは大学三年のときに予備試験を経て受験した司法試験に合格した。


「まあ、でもそれは輝矢様が大学生までの話で。弁護士としてのお仕事をスタートされてからは、自分は自分と開き直られたようでした。経営方針では、よく祐矢様と口論されてました」


 それで、祐矢氏の意に沿わない方を結婚相手に選ばれたわけではないのでしょうが。と三条さんは続けた。つまり、輝矢氏は法律事務所を継ぐ気はないということか。


「でも、実は私、長女の陽菜様こそが、城南法律事務所の後継者に相応しいのではと思ってるんですよ」

「え?」

「あ、これ絶対内緒でお願いします」


 三条さんは茶目っ気たっぷりにウインクをする。僕みたいな新参者にここまで話すとは。僕が晄矢さんのスパイとは思わないのかな。いや、多分晄矢さんも同様に思ってるんだろう。


「陽菜様が一番、旦那様、祐矢様にそっくりです。考え方もおおよそドライで、世情やトレンド、取れ高に敏感な方です。事務所のなかでも稼ぎ頭と聞いてます」


 そうかあ。なんかイメージにピッタリだ。僕は最後のイチゴを勢いよく口に放り込んだ。









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